人気漫画【推しの子】が大人に激しく刺さるワケ

大人気となっている漫画『【推しの子】』。大人が読むべき理由とは?(画像:公式サイトより)

芸能界の実態を描く漫画『【推しの子】(おしのこ)』が人気だ。原作は『週刊ヤングジャンプ』に連載中で、単行本は全11巻まで出版されて、500万部を突破した。

4月からテレビアニメ放送も始まり、同時にインターネットでも配信されている。Netflixでは視聴ランキング5位以内に入った。

ポップな絵柄から、若者向けの漫画にも見えるが、実は大人にこそ響く要素がたくさんちりばめられている。筆者は10代の息子に勧められて漫画を読んだのだが、想定しなかった気づきが多くあり読みながら何度も驚かされた。

詳しくは後述するが、大人として、若者や子ども、女性に対していかなる態度で接するべきか。考えさせられるシーンがこれでもかと登場し、圧倒された。

大人の事情に翻弄される若者たち

メインの登場人物はアイドルやタレント、俳優として活動する高校生たち。恵まれた容姿や秀でた才能を持つ彼・彼女らが、テレビや映画のプロデューサー、ディレクターなど“大人の事情”に翻弄されながら、また同世代や家族との人間関係に悩みながらも、運をつかみ、自らの努力により「売れていく」様子を描く群像劇だ。

「貸し借り」を重んじる芸能界独特の仕事規範、ファンと芸能人の距離感、恋愛リアリティ番組とSNSの誹謗中傷、映像や舞台作品と原作者の関係や恋愛スキャンダルを追う週刊誌とのやり取りなどなど。日本のエンタメ業界の実態と課題を、テンポのよい展開で見せていく。

緻密な取材に基づくストーリーを単純に楽しむこともできる。また、エンタメビジネスに関心がある人は心を奪われるだろう。よく練られた構成や細部へのこだわりは、小説や実写版ドラマにしても面白くなりそうだ。

煌びやかな世界と登場人物の魅力を伝える絵柄に、今人気の「転生」といったファンタジックな展開を読者に自然なものとして受け入れさせる巧みなストーリー展開が調和している。

キーワードは「嘘」

物語の核になるのは「嘘」である。アニメの主題歌にも頻繁に登場するこのキーワードは、芸能界が嘘でできていること、アイドルは上手に嘘をついてくれる存在であることを示している。

夢にあふれた芸能界は巧みな嘘なしでは成り立たないこと、そして、嘘をつきつづけているうちに、嘘が本当になるかもしれないことを伝えている。ライトノベルなどで人気の転生という設定や、復讐の要素を織り込みながら物語が進行する。

エンタメとしての高い完成度に加え、見事なのは、随所にちりばめられた社会問題への切り込みだ。特に、子どもの立場から社会課題を見つめる姿勢は、本作品全体を貫くテーマといえる。単行本が出版されている11巻までは、幼児から10代後半までの未成年から見た、親を含む「大人たちの問題」が伝わってくる。

舞台となる芸能界には、視聴率を上げるため、子どもや若者を傷つけることを躊躇しない番組製作者たちがいる。また、家庭に目をやれば、自分の都合で子どもを捨てたりネグレクトしたりする無責任極まりない保護者たちがいる。こうした身勝手な大人が少なからず存在することは、残念ながら現実である。

優れたエンタメ作品は、辛い現実を描いて見せるのに留まらず、半歩先にあるかもしれない、解決策や希望まで見せるものだ。それは『【推しの子】』にも当てはまる。

主人公である男子高校生・アクアとその妹・ルビーは、徹底的に考え、様々な工夫をこらし、また、あざとい手を使いながらも、周囲の状況を改善し、自ら設定したゴールに近づいていく。懸命に努力する彼らに接し、その主張に理があると感じた大人は、時には自分が持つ権限を最大限に使い、時には見て見ぬふりをし、また時にはより効果的なやり方についてこっそり伝えて味方につく。