セガが1000億円で買う「ゲーム会社」の真の価値

カンファレンスに登壇したロビオ社のアレクサンドル・ペルティエ・ノーマンドCEO(中央左)とセガサミーHDの里見治紀代表(中央右)ら(写真:セガ)

そのロビオ社の開発・運営力を支えるのが「Beacon」だ。

Beaconとは、ロビオ社が開発したオンラインゲームの運営支援ツールのこと。プレイヤー識別や広告効果測定、決済、クロスプロモーション、機械学習など、ゲーム運営に必要なあらゆる業務サポートを行う。このツールを導入することで、ゲーム開発者はゲーム開発のコア部分に集中することができる。

Beaconは現在100人規模の体制で運営しており、ロビオ社の全ゲームに搭載されているという。

ロビオ社は同社の決算資料において、Beaconの成果を複数挙げている。例えば2015年に配信を開始した「アングリーバード2」はBeaconの活用により、2021年1月から2022年3月までの期間で、デイリーアクティブユーザー数が12%、平均売上高が7%増加したという。

またアメリカのアップル社が2021年4月にATT(ユーザーがアプリケーションにトラッキングしないよう要求できる)機能を導入したにもかかわらず、2022年までのユーザー獲得が競合他社より早く回復したとしている。

このBeaconをセガでも活用できれば、より持続的なモバイルゲームの運営ができるようになる可能性もある。

「セガでも同じようなことはやっているが、すべてをカバーしているわけではない。われわれのセガのタイトルにも導入していきたい」(里見社長)

セガサミーHDは中期経営計画で、2024年3月期までを「既存IPのグローバルブランド化による収益基盤の増強」と「グローバルプレイヤーに向けての投資促進」の時期と定めている。さらに2026年3月期までに、オンライン型で世界的な大ヒットを狙ったAAA(トリプルエー)ランクのタイトルと定義される「Super Game」を創出することを掲げる。

ロビオ社の買収は、これらの計画を大きく前進させるものとなりそうだ。

早期に世界展開へとつなげられるか

もっとも、ゲーム業界は市場成長とともに競争も過熱している。

セガサミーHDのフリー・トゥー・プレイゲームの売上高(2023年1月~3月)トップ3は「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」「PSO2 ニュージェネシス」「セガNET麻雀 MJ」だった。フリー・トゥー・プレイゲームの売上高の大部分を日本が占めている。

真の“グローバルプレイヤー”を目指すうえでは、ロビオ社の開発・運営能力を取り込み、自社の豊富なIPをモバイルなどのオンラインゲームでも早期に世界展開へとつなげることが欠かせない。

シナジーという観点では、ロビオ社のIPをどう活用するかもカギとなる。アングリーバードをはじめとした同社のIPはこれまでモバイルゲームが中心だったが、それ以外の分野への展開をサポートして事業拡大を図ることが求められる。

1000億円を投じたセガの賭けは吉と出るか。変化の激しいゲーム市場で、その答えは意外と早く見えてくるかもしれない。