7時間未満の睡眠が続くと「人は太る」という根拠

世界のさまざまな国や地域で大規模集団を対象に実施された調査で、睡眠時間が7時間未満の人は過体重や肥満になるリスクが高まることがわかっている(写真:プラナ/PIXTA)
日本人は平均すると1日に6時間35分ほど寝ている。国際平均からは45分短く、働き者の日本人らしい数字だが、それでも生活の3割弱は寝て過ごしている計算となり、いかに快適な睡眠を取れるかが人生の豊かさにも直結する。
スウェーデン・ウプサラ大学の神経学者と健康問題を20年追ったヘルスジャーナリストが、人間の生活に欠かせない睡眠のさまざまな謎を解き明かした『熟睡者』から一部抜粋、再構成してお届けする。
 

「体型」は目を閉じている間に変わる

世界のさまざまな国や地域で大規模集団を対象に実施された調査で、睡眠時間が7時間未満の人は過体重や肥満になるリスクが高まることがわかっている。それだけではない。調査期間中にはけっして太りすぎではなかった人たちも、長期的には過体重や肥満になりやすいことが判明しているのだ。

可能なかぎり正しい結論を導き出すべく、複数の研究結果を統合して比較リサーチするメタ分析も実施されている。それによると、一晩の睡眠時間が7時間未満の人は、7~8時間(つまり、ほんのわずか睡眠時間が長いだけ)の人に比べ、肥満となるリスクが50%上昇することが明らかになった。

あなたの周囲にはいないだろうか、大食漢にもかかわらず、しかもほとんどスポーツもしないのにまったく太らない人物が。

「不公平だ」と感じる人もいるだろう。いや、実際に不公平なのだ。

これらの人はおそらく食料の利用効率が悪く、栄養を燃料にうまく変換できない。その代わり、栄養の大半を熱に変える。いわゆる「食事誘発性熱産生」が高く、食べ物から得られるエネルギーの多くがもっぱら体熱として消費されるため、簡単には体重が増えない。

太りすぎに悩む人は、これと正反対のことが起こる。より多くのエネルギーを脂肪という形で蓄え、放出する熱の量が少ない。つまり食事誘発性熱産生が低いのだ。

石器時代なら、後者の人のほうがうらやましがられたにちがいない。食料が簡単には手に入らず、規則正しく食事をとるのが当たり前でなかった時代、エネルギーを蓄えられるのは、進化にとって利点だった。

大昔には食料を求めて長い道のりを進まねばならなかったことから、私たちの体はそもそも、エネルギーを消費するより蓄えるように設計されている。食べ物がいつでも手に入る今日の社会とは、状況がまるで違う。本来、狩りに出て、木の実や果実を採集するように作られた人類の体は、食べ物がたくさん詰め込まれた冷蔵庫がいつも目の前にある状況に、そう簡単には適応できない。

そのせいで私たちの多くが、つねに体重増加の危険にさらされているのだ。

就寝の直前にしっかりとした食事をとったり、夜遅くにたっぷり間食したりすると、摂取したエネルギーはそのまま脂肪貯蔵庫に送られてしまう。そんな食生活を長く続けたら、体重増加は避けられない。

睡眠不足が代謝に影響を与える

代謝は1日を通して変動する。そのため食事は代謝のピーク時、つまり日中に摂取することを勧めたい。

その一方で、代謝は睡眠によっても、正確にいえば睡眠不足からも影響を受ける。ただし睡眠不足に左右されるのは、基礎代謝ではなく食事誘発性熱産生だけ。一晩睡眠が不足すると、翌朝の熱産生量が約20%低下する。別の言い方をすれば、寝不足の後の体は、より多くのエネルギーを蓄えようとするのだ。

このことは、著者がドイツの研究者たちと行った実験でも確認されている。

体は、よく眠れなかった夜のエネルギー消費量が通常よりも多かったことを記憶し、食事から得られるエネルギーを蓄えることでこれを補おうとする。このような状況に置かれた脳は、「昨夜のような大量のエネルギー消費を経験したからには、将来同じような夜が訪れたときに備え、何が何でもエネルギーを貯蔵しておかなければ」と考えるのだ。