「職場が“ゆるい”から」と若手が辞める2つの背景

転職サービスdodaの調査「転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!」によれば、転職理由として「昇進・キャリアアップが望めない」(2位)「スキルアップしたい」(6位)「尊敬できる人がいない」(4位)といった理由が上位に挙がっている。これらはいずれも、「この会社では成長できそうにない」という判断に至る要因だ。

そもそも、どのような状況で若手社員は「成長できそうにない」と思ってしまうのか。そのヒントになる考え方が、「プラトー」だ。

人は階段状に成長する

人の成長過程は、決して右肩上がりに直線的に伸びるものではなく、途中で伸び悩む時期がある。この伸び悩みの時期は「プラトー(学習高原)」と呼ばれる。

プラトーの状態のときは成長実感が得られず、感情的な苦しさがつきまとうため、「これ以上やっても成長できない」とあきらめたり挫折したりしがちだ。しかし、プラトーを通過することができたらそこで階段状に成長し、大きな成長実感を得ることができる。

(出所) 『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』

私は、プラトーの正体は「自分が期待する成長イメージと、実際に得られる成長実感のギャップ」にあると考えている。私たちは、一つ経験値を積み上げたら確実に一つ成長したという手応えを期待する。それが、下図に示す「成長期待直線」だ。

しかし、現実において自らの成長を実感できるのは相当な経験値を積み重ねた後であり、「成長実感曲線」は下図のようなカーブを描く。この成長期待直線と成長実感曲線のギャップが広がるほど、「毎日こんなに頑張っているのに全然成長できない……」という悩みを抱えやすくなる。

(出所) 『マネジャーのための人事評価で最高のチームをつくる方法』

Z世代を中心とする若者の傾向を説明する際に、「タイムパフォーマンス (タイパ) 」という言葉が使われるようになった。かけた時間に対してどのくらいの価値があったのか、「時間対効果」を気にしているといわれる。キャリアに対しても同じで、「経験を積んだ分、早く成長したい」と思うのも理解できる。

毎日のように転職サイトのCMが流れてきたり、SNSで同世代の活躍を目にしたりする中で、「今転職しないとチャンスを逃すのでは」「早く何者かにならなくては」という焦りを感じるだろう。だが、すぐに「成長実感」を得たいと思っても、上記のとおり、自分がイメージする成長の軌跡と現実にはギャップが生まれる。

知識を得ることで「タイパ」よく“成長した感”を得ることもできるが、すぐに身につけられるということは他の人もすぐに身につけられるということであり、ビジネスパーソンとして戦えるだけの武器を得られたとは言い難い。

ビジネスもスポーツと同じで、戦力になるレベルの成長を実現するためには、どうしても一定の経験や訓練を積むことが必要だ。もう少し経験を積めば変われるというタイミングで辞めてしまうのはもったいないことだと思っている。世間の声に振り回されずに、自分だけの武器を磨いてほしいというのが私の本音だ。

若手には通用しない“昭和な管理職”の思考

一方で、上司が若手社員に「成長実感」を持たせられていないことにも課題があると考えている。上司は、日々成長を実感するのは難しいということを前提に、コミュニケーションを取らなくてはならない。

これもスポーツで例えるなら、毎日「とにかく筋トレをしなさい」と言われるのと、「このトレーニングをすれば、速く投げられるようになる」「あの選手のようなプレーができるようになれる」と言われるのでは大違いだ。

昭和的な価値観で、「とりあえず3年くらいは踏ん張れよ」「今年は経験を積む年なんだよ」と言っても通用しない。むしろ、そう言われた若手社員は、「ここにいても成長できないのでは……」と不安や焦りを覚えてしまうだろう。