「単なる中小企業」と「スタートアップ」の根本差

スタートアップで働く男性
キャリアの選択肢の一つとして、スタートアップへの転職や起業は特別なものでなくなってきています(写真:saki/PIXTA)
2022年11月に政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、2022年をスタートアップ創出元年として位置付づけました。とはいえ、スタートアップについては「企業の将来性が不安」「年収や待遇が下がりそう」「これまでの経験やスキルを活かせないのでは?」など、ネガティブなイメージを持っている人もいまだに多いのではないでしょうか。
 
しかし、スタートアップは「経済合理性」と「やりがい」を両立できる有力な選択肢の一つです。もしスタートアップについてよく知らないまま、ネガティブな思い込みを持っているのなら、未来の可能性を狭めているかもしれません。
 
そこで、成長産業支援事業を推進するフォースタートアップス代表・志水雄一郎氏の著書『スタートアップで働く』から一部を抜粋し、スタートアップへのキャリアチェンジについて考えてみます。
 

スタートアップは大企業の前身

転職志望者をはじめとする方々から、「大企業とスタートアップにはどのような違いがあるのか?」と何度となく投げかけられてきた。

僕が常々伝えているのは「スタートアップは特別なものではなく、大企業の前身である」ということだ。

あなたが所属している企業が、一般的な大企業であるとしたら、スタートアップはその過去の姿といえる。

スタートアップも成長すれば、いずれは大企業になる。事実、表向きはまだまだスタートアップのように見られながらも、時価総額や従業員規模などが十分に大企業にも引けを取らないスタートアップもある。

現在の大手金融機関も、かつては最先端だったATMなどのテクノロジーを積極的に取り入れていた意味では、彼らも「フィンテックスタートアップ」だったともいえる。

組織構成も、大企業とスタートアップに根本的な違いはない。バックオフィスといわれる経理、総務、法務といった職務をこなす人もいれば、開発もフロント業務もある。

もちろん、小規模なスタートアップであればCEOやCTOをはじめ、複数の職務を兼任しているケースはあるだろうが、やるべきことに大きな違いはない。

だから、キャリアのことを考える際に、あまり大企業とスタートアップを分けて考えすぎる必要はない。

会社の「機能」としての差はそれほどない一方で、あえて違いを挙げるとするならば、スタートアップは「より強い意志」と「挑戦心」を持っていることが前提となった仲間の集まりである、というのは大きいだろう。

もし、世の中に会社という存在がなくとも、社会課題を解決しようと思った誰かが、まずは一人で試みる。しかし、一人で取り組める課題には限度があるがゆえに、より早く、より大きな課題を解決したいと思ったら、もっと多くの仲間を集めるはずだ。そうして、あらゆるところに「生業」が成立していく。

他の大企業が、すでに社会課題の解決に奔走していたり、他のチームが手掛けていたりするならば、極端な話をしてしまうと、彼らにその解決を任せてしまう手もある。

まだ世の中にその社会課題を解決できる存在がないのであれば、やはり誰かがつくらなければいけない。これこそがスタートアップが生まれる価値の一つだといえる。

単なる中小企業とスタートアップの差

社会課題の解決と聞くと、社会への貢献性の高さが条件にあるように思われるかもしれないが、そうではない。

人間の欲望や欲求は様々であり、それらをストレートに表現する方法としてビジネスをつくり、対価を得ていくことを目指すことも起業につながる。

課題解決や目的達成に対して、挑む姿勢や成長する意欲にこそ「スタートアップ」は宿るのだ。成長し、世界へ影響力を持っていきたいという意志と戦略を持つか否かが、単なる中小企業とスタートアップの差を分ける。