納期に間に合わないが「残業はしない」はアリ?

業務が残っていても「残業せずに帰るのは当然の権利です」と言って断るのはアリ?(写真:Graphs/PIXTA)

「残業せずに帰るのは当然の権利です」

入社して3カ月の新人にそう言われてはらわたが煮えくり返りそうになった。あるIT企業の課長が話してくれた。

「働きやすさ」を前面に押し出して採用活動をしたせいか、長時間労働どころか時間外労働をも受け付けない若手社員が増えた。その分、中間管理職の残業時間や休日出勤が大幅に増えたという。

超採用難の時代の弊害

超採用難の時代だ。帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」によれば、「正社員が不足している」と回答した企業の割合は51.4%にのぼると言う。なかでも74.0%の情報サービス業は採用難で苦しんでおり、2位の旅行・ホテル業(72.6%)、3位の建設業(68.3%)を押さえて人手不足の業種ランキングでは1位だった。

また、同社によると、人が足りなくて倒産の危機に陥る企業も増えている。2023年上半期(1~6月)は昨年から約1.8倍に急増し、過去最多を更新した。

そのせいもあり、このIT企業では「働きやすさ」「残業ほぼゼロ」を打ち出して採用活動を進めた。しかし、そのせいなのか「働きやすさ」ばかりを求める若者が増えてしまったのだ。

では、このような若手にはどう対処すればいいのか。そして、そもそもの採用活動はどうすべきだったのか。それぞれの対処法、解決策について解説していきたい。

それでは、残業せず帰るのは「当然の権利」という主張に、どう対処するのか。責任・権限・義務(三面等価の原則)を使いながら解説しよう。

仕事をするうえで基本的な考えなので、上司も部下も正しく理解しておく必要がある。まずは、言葉の定義のおさらいからだ。

1、責任とは?
2、権限とは?
3、義務とは?
 

任された職務をまっとうすること

まず、責任についてである。責任とは、任された職務をまっとうすることだ。

数十分で終わる小さなタスクでも、そのタスクを適切に処理する責任はある。いっぽう年間目標のような大きなものも、その達成のための継続的な取り組みと結果に対する責任がある。

責任については、多くの人は理解しているだろう。では2の権限についてはどうか。

多くの人は権限について正しく理解し、意識していないものと思われる。権限とは、仕事をまっとうするために経営リソースを活用できることだ。

自分ひとりでは期待通りの結果を出せないとき、上司に相談したり、職場仲間に手伝いを依頼することができる。大きなプロジェクトを任されたのなら、その目的を果たすために申請してメンバーを招集したり、コストをかけることもできる。

したがってどんなに全力で頑張ろうとも、権限も使わずに目標が未達成だったというのではいけない。職務をまっとうするためにも、組織のリソースを主体的に使わなければならないのだ。

3の義務も、正しく理解している人は多くないだろう。

義務とは、職務をまっとうしているかを報告する義務のことだ。組織のリソースを活用する場合の説明義務も含まれる。

例えば、上司から企画書を作ってほしいと言われたとしよう。そうしたら、企画書作成の進捗状況を報告する義務がある。

「あの企画書どうなった?」

と依頼者から確認されるようでは義務を果たしているとは言えない。また、もし作業中にわからないことが出てきたら、

「データはどのように準備したらいいですか?」

などと相談すればいい。相談する権限があるのだから、悩んで時間を浪費してはいけない。

ただ、「木村さんに相談すれば、適切なデータを用意してくれるよ」

とアドバイスされたのなら、木村さんに相談した後どうなったかを報告する義務がある。このように義務というのは、責任や権限の概念に紐づくものだ。