大躍進の「Vチューバー」、意外と手堅い儲けの実態

YouTube以外の場でのVチューバーの活用は急速に広がっている。

Vチューバーを起用したライブコマースの様子
Vチューバーを起用したライブコマースの様子。画像上部左は澄、同右は千夜イチヤ(画像:auコマース&ライフ)

ECサイト「au PAY マーケット」を運営するauコマース&ライフの中森健二執行役員は「Vチューバーは、ファンを巻き込む力がほかのタレントよりも強い」と話す。ライブ配信で商品を紹介・販売するライブコマースにVチューバーを起用したところ、紹介した商品の流通額が4.7倍に拡大したという。

2023年7月からは、Vチューバーを起用した「ショッピング with V」というコーナーも開始した。

「単にフォロワー数が多いタレントを起用してもうまくいかない。Vチューバーなどのタレントには熱量の高いファンがついていて、配信の視聴数や購入数などのエンゲージメントの高さにつながっている」(中森氏)

Vチューバーはもともと、二次元キャラクターと相性の良いゲーム関連企業とのタイアップ案件がほとんどを占めていた。しかしこうした“波及力”が評価されてか、最近ではさまざまな業種の企業とのタイアップ案件が増えてきている。

人気タレントの独立リスクは限定的?

タレントとしての人気が高まるにつれ、事務所から独立してしまう懸念はないのか。

カバーなどのVチューバー事務所は、動画の配信システムを開発するエンジニア以外に、デザイナーなどを雇って自らキャラクターの制作も手がけている。そのため、それらの著作権なども会社側が保有することになる。

業界関係者によれば、配信収入は事務所とタレントで半分ずつ分け合うのが一般的とされ、その他のグッズ販売などタレントの寄与度合いが小さい収入については、会社側の取り分がより大きくなる。

Vチューバーグループ「ぶいすぽっ!」などを運営するBrave groupの野口圭登代表は、「昔は事務所に所属していない個人でも、ある程度競争ができる環境だった。ただ、ファンの求めるコンテンツの質が高まったことで、個人でやるには資金的に厳しい状況が生まれている」と指摘する。

こうした背景から、タレント自身の人気が拡大しても事務所を離れてしまうリスクは今のところ限定的とみられる。野口氏によれば、現状2万ほどのVチューバーが国内外に存在しているが、個人のVチューバーを中心に活動継続が難しくなるケースも珍しくないようだ。

矢野経済研究所の調査によれば、2023年度のVチューバーの市場規模は800億円を見込み、同人誌やトレーディングカードゲームの市場と同じ規模にまで成長している。

ただ、カバーの谷郷社長が「Vチューバーはいまだグッズ販売でしかうまく収益化できておらず、IP価値を最大化できていない」と話す通り、現状の市場規模は将来的なポテンシャルに対してまだまだ小さいという見方が多い。

アニメのように、キャラクターを活用したゲームの展開などが進めば、市場規模は一段と拡大する可能性がある。

英語圏を中心に海外でも人気拡大

昨今の海外でのアニメ人気拡大も、Vチューバービジネスを展開する企業にとって追い風だ。「アニメキャラクターがまるで生きているかのように感じられるコンテンツとして、海外でVチューバーが支持されるようになっている」(カバーの谷郷社長)。

ANYCOLORとカバーはともに外国語で配信を行うVチューバーも複数抱えており、英語圏を中心に急速に人気が高まっている。両社に続く“第三極”とされるBrave groupも、2023年だけでアメリカ、イギリス、タイ、中国の4カ国に現地法人を設立するなど、海外展開に本腰を入れる。

アニメに続き、Vチューバーは日本を代表するエンタメコンテンツとなれるのか。ファンや投資家から並々ならぬ期待がかけられている。