新聞記事を社内ネットで閲覧するのは違法行為か?

ソーシャルメディアの発達によって起こるのは利点ばかりではありません(写真:metamorworks/PIXTA)
ソーシャルメディアの発達によって、誰でも自由に、かつ安価に情報発信が可能になった時代。そんなデジタル時代の情報の取り扱いには、さまざまなリスクがある。多くの組織で当たり前に行われている新聞のスクラップは、業界情報の収集には欠かせない作業であるが、そこには気づきにくい「権利侵害」のリスクが存在する。
 
近著『デジタル時代の 情報発信のリスクと対策』を上梓し、企業の危機管理に詳しい北田明子氏が、前回に続き、いまビジネス現場で頻発している、ソーシャルメディア活用で法律違反となる事例とトラブル回避の対応について解説する。
 

業界情報の収集は、企業の広報部にとって大事な役割。朝一番に出社した部員が新聞各紙をチェックして、自社や業界に関係する記事を切り抜いてスクラップ、という作業は昔からありました。

電機メーカーのC社では、その切り抜きをスキャンしてデータ化し、イントラネットで全社員が閲覧できるようにしています。競合企業がどのような動きをしているかなど、業界動向をさっと知ることができるので、社員にはとても喜ばれています。

購読料を払っていれば問題ない?

「それは、まずいんじゃありませんか?」

ある日、営業部門から広報部に異動してきたばかりの部員が、そんなことを部会で言いました。

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「新聞は著作物だから、新聞社が権利を持つはず。それを勝手に複製するのは、権利侵害みたいなことになりませんか?」

これまで、当たり前のこととして記事を切り抜いてスキャンしていた部員たちは、お互い顔を見合わせました。「購読料を払っているのだから、どう使おうと勝手じゃないか」「みんなで情報共有することの、どこが悪いんだ」

2つの意見が対立しましたが、さて、どちらが正しいのでしょうか?

弁護士の見解は「著作権を侵害したとして刑事的な責任を問われる可能性があります」というものです。

「新聞の切り抜き」は、著作物ですので、一般的には記事を作成した記者が所属する新聞社が著作権を有しています。そうすると、新聞社に複製権、つまり新聞社が「同意なく記事をコピーするな」と主張する権利が認められることになります。

本件のように著作物を著作権者に無断でコピーやスキャンをすると、著作権を侵害したとして刑事的な責任を問われる可能性があります。

法人の場合は、罰金額が最大で3億円

著作権侵害は、故意に行うと犯罪になり、最高で「懲役 10 年又は 1000 万円の罰金、あるいはその両方」(著作権法 119 条 1 項)の 刑罰を受ける可能性があります。ちなみに、法人の場合は、罰金額が最大で3億円になります(著作権法 124 条 1 項 1 号)。

また民事上は、著作権者が著作権侵害者を訴えて、侵害行為をやめさせたり(=差止)、著作権侵害によって生じた損害の補填を請求したり(=損害賠償請求)することができます。

もし、従業員の行為に著作権の侵害が認められ、その行為が原因で会社が民事上の責任や刑事上の責任を負った場合、当該従業員やその監督をする上司は、会社から懲戒処分などの社内的な処分や、損害賠償などの責任を問われることがあります。

実際、ある鉄道会社が訴訟を起こされたことがあります。新聞社に許諾を得ることなく一部の記事を切り抜き、それをスキャンして画像データにし、社内イントラネットで従業員が閲覧できるようにした行為が複製権及び公衆送信権を侵害するとして、損害賠償の支払い等を求められたのです。

オンラインで配信される記事も「著作物」

鉄道会社は「新聞記事は事実の伝達にすぎず、著作物とはいえない」などと主張して争いましたが、最終的には 190 万円の賠償を命じられました。判決は「掲載された記事は、相当量の情報をわかりやすく整理し伝えるなど、表現上の工夫がされていて、著作物と認められる。イントラネットに掲載したことは、著作権の侵害にあたる」というものでした。

毎朝、当たり前のように届けられる新聞が「著作物」である、という意識は持ちにくいかもしれません。鉄道会社の事例は、それが落とし穴になったものです。

新聞記事も、今はオンラインで配信されますから、ハサミとノリで手作業するスクラップはコピー&ペーストに置き換わっているかもしれません。でも、たとえ形態は変わったとしても、記事が著作物であるという事実は変わりません。

総務や広報担当者は、そのことを意識して情報収集を行う必要があります。日常業務でうっかり著作権侵害していないか、一度社内で確認することをお勧めします。

(構成:間杉俊彦)