配信ドラマが「超アンリアル」で支持を得る背景

配信ドラマ市場は、この変革期の波に乗るタイミングを逃してはいけない(写真:metamorworks/PIXTA)
ドラマは時代が欲するものを映し出す。配信ドラマ市場においても同じで、戦争や不況、気候危機、人権問題などの影響を受けた「社会不安との向き合いと解放」がキーワードだ。配信ドラマ市場の全盛期が過ぎた今、地上波やローカル連携など枠組みを超えた取り組みが進む。この変革期の波に乗るタイミングを逃してはいけない。
 

「超リアル」と「超アンリアル」の二極化

世界のドラマ市場の最新トレンド分析が行われる世界最大級のTVコンテンツ見本市MIPCOMカンヌ2023(2023年10月)で発表されたキーワードは「超リアル」vs「超アンリアル」だった。

『GALAC』2024年2月号の特集は「2024ドラマ、ニュートレンド」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

スイスのリサーチ会社WIT代表のヴァージニア・ムスラー氏は「実話に基づく究極のリアルを求めたドラマと、きわめて非現実的なドラマという両極のドラマが最近のヒット作にある」と説明する。

その代表例にあるのがイギリス最大手民放テレビ局ITV制作の「The Long Shadow(ロング・シャドウ)」と、Netflixの実写ドラマ「ONE PIECE(ワンピース)」という。

イギリス発の「ロング・シャドウ」は、実在した“ヨークシャーの切り裂き魔”と呼ばれる連続殺人犯ピーター・サトクリフを5年間にわたって捜査する内容を描いた本格犯罪ドラマである。ITVおよびストリーミング配信のITVXで2023年秋に放送・配信され、反響を呼んだ。

一方の「ワンピース」は、尾田栄一郎の超人気コミックを英語言語で実写化したNetflixオリジナルドラマシリーズで、原作と同様、友情物語を核に冒険活劇ファンタジードラマが描かれている。2023年秋に全世界配信され、公式世界ランキングで初登場1位を獲得する実績を作った。

犯罪ドラマの世界的な人気は今に始まったことではないが、配信市場の台頭とともに犯罪事件など実話ベースの物語が増加傾向にある。フィクションとしてのストーリー開発だけでなく、事実の調査も入念に行うため制作期間を十分にかけることができる配信ドラマとは相性がいい。

また配信ドラマは人種やジェンダー差別、経済格差といった世界的な社会問題をテーマにしたものが多く、実際に起こった事件の背景にも繋がることから扱いが増えているのである。事件の真相とともに問題提起する内容が視聴者の関心を引き寄せている。

現実と向き合うドラマがヒットする一方で、その対極にある現実離れしたドラマがトレンドであることには意味がありそうだ。戦争や紛争、経済不況と疲弊した社会に対して、現実逃避できる夢や冒険、愛や友情を語る物語を求める傾向が高まるのは当然の流れと言える。

萎縮状態から解放するかのように、各国のローカル制作からユーモアやウィットに富んだシュールレアリズム主義の作品が登場している。これらが配信ドラマにおいて2024年の注目トレンドにあることは間違いない。

Z世代を意識したファンタジー作品も増えていきそうだ。MIPCOMカンヌ2023では韓国発Disney+の「ムービング」に、イタリア発Amazonプライム・ビデオの「WE ARE LEGEND」、ブラジル発HBO MAXの「TEENAGE KISS:The Future is Dead」と、いずれも超能力を持った10代が主役の物語が注目作に挙がった。

空が飛べたり、恐怖を克服できたり、地球を守ったりと、設定はそれぞれの作品で当然異なるが、いずれも映像表現にこだわって10代の力を示していることが興味深い。