中国とインドで始まっているAIによる「仕事消滅」

たとえば、コンサルティング業界の雇用数は維持できるかどうか考えてみましょう。

普通に考えれば、コンサルティング業界は少数精鋭に変わるはずです。大企業のクライアントにコンサルティングサービスを提供するために出向いていた6人のチームは不要になり、2人の精鋭コンサルタントがAIの力を借りて、それまで以上の超高クオリティの仕事をこなせるようになります。

「生成AIは最強のお助けアイテム」なのか?

これまで6カ月かかっていたプロジェクトが数週間で終わるとなると、生産性は大幅に上がるでしょう。早く結論が出ればクライアント企業も早く対策を打てるので、論理的にはコンサルタントのアドバイスの価値は上がります。つまり、コンサルタントはそれまでの6カ月分の報酬と同じ金額を、数週間の労働で稼げるようになるかもしれません。

では余った時間は休暇をとって、南の島で数カ月のバカンスを楽しめるようになるのでしょうか。おそらく、そうはなりません。6人のコンサルタントが2つしかない椅子を取り合うサバイバルゲームが始まるからです。

単純に考えれば、AIによって大幅に個人の能力が増幅される未来においては、過去に存在してきたポジションの数はそれに応じて削減されるはずです。ChatGPTのような生成AIだけでも、ホワイトカラーの仕事の40%ぐらいをこなしてくれるようになるという予測があります。だとすればコンサルだけでなくすべての業種で、ホワイトカラーのポジションは長期的に相応の減少傾向を見せるはずです。

「そんなことはない。生産性が上がった分、産業はイノベーションにより新しい仕事を生み出すから、仕事はむしろ増えるはずだ」

と主張する人々がたくさんいます。「AIと人類が共生する未来」の理論であり、これは今のところAIに関わる未来予測の定説になっています。

この説のように、私たちが嫌ってきた「AIに仕事を奪われる未来」は本当に到来しないと言えるのでしょうか。

中国の若者の失業率が高い理由

お隣の中国では、若者の失業率が高くなっています。中国政府が発表する都市部調査失業率では、2023年5月に16~24歳の若者の失業率が20.8%に達しました。中国ではすでに新卒学生の5人に1人、仕事がない状態です。

中国では年間に1160万人の若者が就活をします。コロナ禍前は、仕事が見つからない学生は10人に1人だったところが、直近では5人に1人が仕事を見つけられていません。

日本のニュースでは、これらの現象を「中国の景気減速だ」と説明しています。

しかし、若者の失業率の上昇は本当に景気だけが原因でしょうか。それを考えるために、もう1つのデータを見ていただきたいと思います。

おなじく急成長を遂げている新興国のインドでは、年間1200万人規模の若者が求人市場に参入するのですが、ITや製造業など主要8業種の求人は、インド全体を合計しても60万~70万人規模でしかありません。結果として大卒のインド人の大半は、零細の自営業や日雇い契約での小売業・サービス業の仕事に就かざるをえません。

実はインドは女性の労働参加率が25%と低く、かつ男性の労働参加率も57%とそれほど高くはありません。総数2400万人の若者人口の約半分しか就活をしない社会であるにもかかわらず、大学は出たけれどもまともな仕事がない人が大半なのです。

生産性を徹底的に上げていった結果の失業率上昇

「リープフロッグ(かえる跳び)現象」という言葉があります。途上国が最先端技術を導入することによって一気に先進国よりも高い発展を遂げる現象を指しますが、その視点から中国やインドの現状を捉え直すと、ある可能性が見えてきます。これは不況ではなく好況が理由で起きた失業であるという可能性です。