凄い発想できる人が実践「掛け合わせ」の驚く技術

ここでいう〔定数〕とは、自身が持っているアセット、つまり取り組んでいる事業(サービスやプロダクト)のこと。私の場合は「ホテル」、Sleepy Tofuの場合は「マットレス」が該当しますね。

それに対して、〔変数〕とは掛け合わせてみるもののことを指します。アイデアは、この〔変数〕に何が放り込まれるかで決まります。

例えば、Sleepy Tofuのケースでは、〔変数〕に「食事」を入れて、〔マットレス×食事=寝ながら食事ができる〕というアイデアを切り口にして、「寝転がれる台湾料理店」という企画を導いています。つまり、アイデアを発想するということは、なにを〔変数〕の箱に放り込んだら思わぬ化学反応が起きるかを考えること、と同義であるともいえるでしょう。

では、実際〔変数〕に放り込む要素はどう考えていくか?

もちろん、思いついたものをどんどん放り込んでいってもいいのですが、はじめのうちは、自分だけでは気づきにくい視点に出会うために、次のようにカテゴリー分けしてキーワードを洗い出していくと、網羅的に考えやすいでしょう。

出所:『クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術』

気になるワードを定数と組み合わせる

カテゴリー内に入るキーワードをブレーンストーミング的に書き出していきながら、例えば次のように、気になるワードを〔定数〕と組み合わせてアイデアを発想していきます。

・〔ホテル〕×〔原っぱ〕=草原のど真ん中にある移動式ホテル
・〔ホテル〕×〔屋台〕=入口がおでん屋台になっている下町ホテル
・〔ホテル〕×〔競走馬〕=引退した競走馬によって曳かれる馬車ホテル
・〔ホテル〕×〔木の上〕×〔散歩〕=木の上にさまざまな建築物が建てられ、木から木へ渡り歩いて移動するツリーホテル
・〔ホテル〕×〔海の中〕×〔水族館〕×〔寿司〕=窓から魚を眺めながら寿司を食べられる海底ホテル

この時点ではまだアイデアの質は玉石混淆かと思いますので、凡庸だな、ピンとこないなと思ったものは気にせず脇に置いておきましょう。

この中で、キラッと光るものがあるなと感じた組み合わせやアイデアがあれば、さらにいくつかの具体的なアイデアへと広げることができないか考えてみます。

例えば、〔ホテル〕×〔犬〕なら、

・ペット連れの方向けのホテルは世の中にすでにあるが、「ペット向け」を強く訴求しているがゆえ、デザイン性があまり高くないところが多い。一般の消費者目線で見ても上質感があるホテルで、かつ犬と過ごせるところはないか?
・すでに犬を飼っている方向けのホテルではなく、犬を飼育していない方が犬との生活を追体験できるホテルはどうだろう? 「保護犬や保護猫とのマッチングもできる」という文脈を加えると、昨今話題になっているペットの殺処分問題への解決策にもなる。
・犬に限らず、リスやイグアナをはじめとするエキゾチックアニマルなど、なかなか飼育に踏み出せない動物とふれあう体験を提供できるホテルはどうだろう? 飼育の解像度を上げることで、現実を理解しないままペットショップで衝動買いをしてしまい、捨ててしまうような悲劇を防ぐことができるかもしれない。

といった具合に、深掘りして考えてみると、どんどんサービスのアイデアが生まれてきます。

このように、掛け合わせから連想を続けていくと、すぐに実現できそうなものから、フィジビリティが低そうなものまで、いろいろな精度のアイデアが入り混じった状態で発想が広がってきます。

クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術
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ここで一つひとつのアイデアを練りすぎたり、焦ってボツにしたりする必要はありません。一見微妙に思えるアイデアだとしても、それが最もフィットする状況が訪れることもありますし、少しアレンジすることで光り出す可能性もあるので、無駄にはなりません。

最初のうちは、なかなか手応えのあるアイデアが出てこなくて嫌になってしまうこともあるかもしれませんが、この思考法を続けていくと、段々とアイデアを発想するための思考回路ができてきます。

これは、草むらに獣道をつくっていくプロセスと同じです。初めはなかなか見通しが悪く、迷子になってしまうこともあるかもしれませんが、何回も繰り返すうちに、うっすらと足跡が見えるようになってきます。回数を重ねていくことで発想のセンスが磨かれ、やがてはっきりとした道筋となり、スピーディーに前に進むことができるようになるのです。