阪神大震災の渦中で拾った猫のピーちゃんに、救われ続けた私の25年間…人間なら120歳

 再婚した夫も昨年5月に亡くなり、今はピーちゃんと暮らすが仕事は続けている。

「仕事から帰ると嬉しそうに出迎えてくれる。体調を壊したり、精神的にもしんどいこともありましたが、ピーちゃんには本当に癒されました。飼っていてよかった。まさかこんなに長生きするとは思わなかった」

 かおりさんも目を細める。

 偶然、筆者は現在、藤藪さん一家が震災当時に住んでいた場所と目と鼻の先に居を構え、石屋川沿いの綱敷天満神社で拾ったオスの兄弟猫と神戸市の譲渡犬(甲斐犬)を飼っているが、平時でも動物を飼うのは結構大変だ。ましてや大震災直後の避難生活では、どんなに大変だっただろう。

「ピーちゃんの母親のことはわからないけど、あの大震災の頃に臨月になってすごく怖い状況で出産したんでしょうね。ピーちゃんはおなかの中で怖い思いもしたのでしょう」

 まるで人間に対するように思いを寄せるみさ子さん。

「取材に来た神戸新聞の記者さんが、『今度は阪神大震災30年目でピーちゃんの取材に来ますよ』っ言ってました。そこまではどうかわからないけど、まだまだ元気でいてほしい」と話す。慎次さんはスマホ片手に「の長寿のギネス記録は38歳だそうですね」と言う。子供の頃、猫アレルギーだった慎次さんも今はグラフィックデザイナーとして、犬や猫の服をデザイン・製造・販売する神戸市の「株式会社すとろーはうす」に勤めている。

 その昔、阪神・淡路大震災の取材中、瓦礫の上に「犬を預かっています」と書かれた紙が貼られていたのを見た。自分の犬を探すのではない。非常時になんと心優しい人かと心が温かくなったことを覚えている。あの災禍の中、温かい家族に拾われて25年間、生き続けるピーちゃん。きっと世界一、幸せな猫だろう。震災30年はおろか、ギネス記録も目指してほしい。

(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)