「三密」「濃厚接触」への渇望強まる…社会における身体的近接性の重要性、認識広まる

「三密」「濃厚接触」への渇望強まる…社会における身体的近接性の重要性、認識広まるの画像1
首相官邸のHPより

 政府は9月30日、デジタル庁の新設に向けた準備室を発足させた。菅義偉首相自ら発足式に出席し、各省庁から集められた50人のメンバーに対し「出身省庁の省益や前例主義にとらわれるな」と指示した上で、「新しい成長戦略の柱として我が国の社会経済活動を大転換する改革だ」とその意義を強調した。

 電子行政のあり方については、従来からさまざまな課題が指摘されてきたが、今般のコロナ禍で定額給付金などの救済策を講ずる際のオンライン手続きに不手際が目立ったことから、9月16日に発足した菅政権の最重要課題の一つに「デジタル庁の創設」が位置づけられたという経緯がある。

 デジタル庁の目的は、行政サービスの利便性の向上にとどまらない。国際競争力の強化やアフターコロナの社会のあり方という論点も重要である。

 デジタル化の進捗が、経済の国際競争力に影響するといわれているが、世界第2位の経済大国となった中国におけるデジタル化の進展はめざましいものがある。中国工業情報化省は9月17日、「我が国のデジタル経済の規模は2019年にGDPの36%を超えた」ことを明らかにした。中国のデジタル経済は急速に拡大しており、昨年のGDP成長率への寄与度は68%に達したという。中国のデジタル経済は2020年に入ってからも成長の勢いを維持している。

 コロナ禍であっても、デジタル経済は潜在的な消費意欲を活性化するとされており、8月までの有形商材のネット小売販売額は前年比16%増加し、社会消費品小売総額の4分の1近くを占めた。日本が目指すデジタル主導による成長戦略のモデルは中国なのかもしれない。

「三密」「濃厚接触」を奪われたことへの不満

 アフターコロナの社会のあり方については、「新しい日常」を唱えた安倍政権の下で医療や教育分野などのデジタル化が始まっている。

 電通デジタルは9月下旬、「コロナ禍におけるデジタルネイティブ世代の消費・価値観調査」結果を公表した。デジタルネイテイブとは、産まれた時からインターネットやスマートフォンなどの環境があったZ世代(15~24歳)とミレニアル世代(25~34歳)のことであるが、彼らの約6割が「暮らしはデジタルで完結するようになる」と回答している。新型コロナのパンデミックによって、若者中心に「デジタルノマド(リモートワークをしながら世界中を旅する生活スタイル)」が世界的に広がっているとの指摘もある(9月29日付ナショナルジオグラフィック)。

 一方、自粛生活が続くことによるフラストレーションから、さまざまな精神症状を呈する「コロナうつ」の蔓延も懸念されるようになっている。社会的距離を確保するため、「三密」や「濃厚接触」を回避することは予想以上に大変なことなのである。多くの人々は、満員電車での通勤のようなケースは除いたとしても、失われた「三密」や「濃厚接触」を懐かしみ、それを奪われたことに不満を感じ始めているのではないだろうか。

 コロナ禍で急速に失いつつあるのは人の「存在感」である。人のたたずまいや雰囲気は、以前は空気のような存在だったが、コロナ禍で一定の役割を果たしていたことが認識されるようになっている。世界的なロボット工学の権威である石黒浩大阪大学栄誉教授は、これまでロボットの研究を通じて人の存在感の正体を突き止めようとしてきたが、画面越しの商談や友人との交流がほぼ日常となった現状について、「相手に強い存在感を伝えられず、ゆがんだコミュケーションになっている」と指摘する(9月27日付日本経済新聞)。IT技術を使って触覚を遠く離れた相手に伝える研究などが始まっているが、離れた場所に人の存在感を伝えることは容易ではない。