東京都、違法行為横行で学校図書館の民間委託見直しへ…違法性排除できず、コスト削減効果もなし

 17年度からは事業者の選定を、それまでの入札額のみで決まる「落札方式」から、技術点も加味した「総合評価方式」に変更。また、単年度契約から3年契約に順次移行し、委託費も完了した分のみ支払う単価契約に変えるなどの方策が取られて、とりあえず不祥事は根絶されたはずだった。

民間委託見直しの流れは自明の理

 ところが、米川都議の調査によって、その後も違法状態が依然として解消されていない実態が判明した。

 東京都が労働局の是正指導後に改定された仕様書では、二度と違法状態に陥らないよう緻密な規定が記載されていはずだったが、その仕様書には「抜け穴」が潜んでいたのだ。米川都議は、こう解説する。

「改定される前の仕様書では、学校側から指示命令を受けて現場の委託スタッフにその意向を伝える業務責任者は、委託会社の本社にいる社員でした。それが改定後は、まず『受託者』と呼ばれる委託会社の社員に現場を統括させ、そのうえで現場の委託スタッフのなかに技能・経験のある『業務責任者』を兼務するようにしました」

 そうすれば、クライアントの要望を直接聞ける業務責任者が常に学校図書館内にいることになり、学校側はいつでも業務責任者を通して要望を委託スタッフに伝えられる。

 野球にたとえれば、キャッチャーが監督を兼任するようなもの。プレイイングマネージャーとして管理業務と実務作業を明確に切り分けていれば、現場スタッフが業務責任者になることも可能になるという理屈だ。管理能力のない者を“名ばかり業務責任者”にして配置するのは、もちろん脱法行為だが、常時そうならないよう厳しく監視していれば、形式的には成り立たないこともない。

 ところが、このスキームには致命的な「落とし穴」が存在していた。米川都議が続ける。

都立高校の学校図書館では、午後は2人以上のスタッフの配置を求めているのですが、夜間に授業のある高校では午前や夜間の時間帯に1人になるシフトが必ずあるんです。受託現場に業務責任者を兼務する作業者が複数いればいいのですが、それが1人しかいない場合、作業に専念して労働者の管理はできません。そのため、その場合は業務責任者とはいえず、スタッフに直接指示命令を出すと偽装請負になると労働局は説明しています。そういうことは改定された仕様書ではまったく想定されていなかったのです」

 つまり、依然として違法状態は残ったままで東京都は委託会社と契約していたことになる。内部の人間が決定的な証拠一式を揃えて告発でもしないかぎり労働局が動くことはないため、多少の違法性があっても摘発には至らないとタカをくくりがちだが、東京都としては、15年に一度是正指導を受けている以上、いつまた同じことが繰り返されるとも限らない。常に“不発弾”を抱えている状態だともいえる。

 こうしたリスクを正しく認識して「教育現場で違法行為が認定されることなどあってはならない」との立場を取れば、民間委託の制度そのものを見直さざるを得ないとの結論に至るのは自明の理だったのかもしれない。

 都立高校でこのような偽装請負事件が起きた事実を東京都はこれまで一切公表せず、隠蔽した形になっていた。事件が発覚した15年は、文科省が学校図書館法を改正して学校司書の設置義務を定めた年。これにより、学校図書館に専任の司書を配置する事業が全国的に急速に普及しつつあったが、直接雇用ではなく民間委託で進めようとする自治体も続出していた。

 もし東京都が偽装請負事件を公表していたら、民間委託に急ブレーキがかかっていた可能性は高い。だが、都立高校の事件が表沙汰にならなかったため、違法性を意識しないまま野放図な委託が全国的に広がっていった。