大方の予想とは逆に、コロナ下で食料・資源・運賃などあらゆる価格が高騰している理由

 だが、こうした巨大な調達網は、その一部が滞っただけでも全体に大きな影響を与えてしまう。物資を輸送するルートや集約拠点で新型コロナウイルスのクラスターが発生すると、そこがボトルネックになり、最悪の場合、全体が止まってしまうのだ。

 天然ガスの異常な価格高騰の最大の原因は、プラントのトラブルとされるが、2020年に限って過去に例を見ない水準で天然ガスプラントにトラブルが発生した理由はよくわかっていない。各国で発生したトラブルの種類はさまざまだが、人員の配置や保守部品の調達、電力の確保などにおいて、コロナ危機が間接的に影響した可能性は否定できないだろう。

 コロナ危機は海運や空運にも大きな影響を与えている。

 経済活動の停滞や各国が実施している入国制限などの影響で、飛行機の乗客が激減していることは周知の事実である。船舶はモノの移動なので飛行機ほどの影響は受けていないが、各国の消費需要が減少しているので、やはり取り扱う貨物の量は減っている。

 では船舶の運賃は暴落しているのかというそうではなく、むしろコロナ危機以降、急上昇しているのが現実だ。フレイトス社が公表している全世界のコンテナ船運賃指数は大幅に上昇しており、2020年5月との比較で3倍近くに高騰した。

同じ傾向が長期的にも続く?

 今回のような経済危機が発生すると、需要が大幅に減少するので、価格が暴落するのではないかとイメージする人が多い。筆者はコロナ危機の発生直後から、出演するテレビ番組や寄稿するコラムなどにおいて、供給制限によって価格が上昇する可能性があると指摘していたが、ネットでは一部の人から「コイツは頭がおかしいのか」などと激しく批判(というよりも誹謗中傷)された。

 いわゆる専門家と呼ばれる人の一部にも、需要減少から激しいデフレが発生するのが当然であり、インフレなどあり得ないという声高な主張が見られたが、これは経済メカニズムに対する認識不足から来る誤解といってよい。

 確かに経済危機の発生で需要が減少すれば、価格が下がるのは価格理論上、当たり前のことだが、それは供給が変わらなければの話である。現実には、企業など経済主体の一部は、極端に需要が減少した場合、収益を維持するため一時的に損失を抱えてでも供給を絞り、利益率を維持しようとする。

 コンテナ船の運賃はまさにその典型で、船会社は船舶の供給量を絞ったことで船便が減少。コンテナが滞留するようになり、コンテナの調達がタイトになって価格が大幅に上昇した。結果として輸送量が減ったにもかかわらず、運賃が高騰する現象が発生している。

 先ほど、社会のIT化への期待から株価が上昇しているという話をしたが、社会のIT化が高度に進めば、全世界の物流をAI(人工知能)を使って最適化できるはずなので、同じ経済を維持するために必要な物流量を減らすことができる。

 つまり短期的な利益維持のための供給制限は、実は長期的な利益を維持するための供給制限にもつながってくる話なのだ。そうだとすると、食料価格の高騰や運賃の高騰というのは、今だけの話ではない可能性についても考えなければならない。いずれにせよコロナが終わればすべて元に戻るという感覚は持たないほうがよいだろう。

(文=加谷珪一/経済評論家)

●加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。