仕事に情熱を注ぎ過ぎるのは危険…会社と家族以外に人間関係がない人生は不幸になる

人生100年時代、何に情熱を注ぐか

 バブソン大学教授のロブ・クロス氏のチームは、仕事にのめり込み過ぎたことで燃え尽きてしまい、離婚に至るなど、人生を壊してしまった人たちと、そうはならなかった人たちを20年以上にわたり研究してきた。そして、この悪循環に陥らないグループが存在することに気がついた。仕事で高いパフォーマンスを示しつつ、ウェルビーイング(幸福度)も充実している人たちだ。

 そこで彼らに注目して、仕事で成功を収めつつ、幸福感のカギである人付き合いを維持する秘訣を調べることにした。まず、わかったのは、このタイプの人はほぼ例外なく、仕事以外で2~4つのグループで信頼のおける人間関係を維持してきたことだった。それはスポーツやボランティア活動のこともあれば、地域活動や宗教活動であったり、読書クラブやディナークラブだったりする。

 これとは対照的に、結婚を2回あるいは3回している人や、危機的なレベルまで不健康な人、あるいは自分にひたすら我慢してくれる子どもがいる人たちは、ほぼ例外なく仕事一筋の人生を送り、人生の成功を仕事の成功によってのみ定義していたという(出典:Do You Have a Life Outside of Work? May 13, 2020)。

 幸福感は、人との関わりを通じてもたらされるので、仕事を通して、どんどん人的ネットワークが拡充していくのならばまだ良いが、狭い範囲に限定されてしまうような場合は、幸福感が得られづらい状況となってしまう。さらには、もともとあった、学生時代の友人たちとの関係すらも維持できずに断ち切っていくような場合は、どんどん幸福感を犠牲にしていっているということになる。

 仕事以外の面での人づきあいからは、仕事上にはない刺激や情報が得られることが多い。私自身は週末は田舎暮らしをしているが、地元の仲間たちはやはり仕事上は出会うことのない種類の人たちだ。子供が中学校に通っていた頃には、部活動の関係で多くのパパ友たちとの付き合いもでき、多様な職業の人たちと付き合いを持つことで、多くの刺激を受け、たいへん有意義なものだった。

 仕事人生の中で仕事のみに没頭するような時期があってもいいとは思う。しかし、人生100年時代となり、退職後にあまりに長い年月が残されているということもある。アイデンティティが固定してしまわないうちに、ライスステージに合わせて柔軟に調整できることが望ましい。 

『死ぬ瞬間の5つの後悔』という本がある。オーストラリア人で、緩和ケアの介護を長年つとめ、数多くの患者を看取った人が書いたものだ。多くの患者が、共通して口にする後悔をまとめた本で、26カ国語で翻訳され、世界中で読まれている。第1位が「他人に期待された人生ではなく、自分の心に忠実な人生を送る勇気があればよかった」であり、第2位が「そんなに働かなければよかった」であった。

 情熱を追いかけることが幸福感を高めるのは事実だが、どこでそれに取り組むかはそれほど重要でない、という研究結果が続々と報告されている。つまり、必ずしも仕事の場で情熱を追求する必要はないらしい。というより、いくつかの研究によれば、仕事以外の場で情熱を追求すると、キャリアと私生活の両方に好ましい影響があるようだ(出典:The Unexpected Benefits of Pursuing a Passion Outside of Work, November 19, 2019.)。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

●相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。