中国、軍幹部が台湾・尖閣・南シナ海で戦争を示唆…ロシアをめぐる米国の致命的な失敗

 米中の外交トップが言葉の激突を繰り返したことは反作用を生む。中国はロシアのラブロフ外相を北京に招いて懇談する。中露同盟強化を表向きの看板とするのだが、ロシアにとっても絶好の演出効果をあげる政治舞台だ。

 一方、バイデン大統領の耄碌が進み、カマラ・ハリス副大統領に「大統領」と呼びかけ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「殺人者」と罵倒した。「自分の鏡を見てから言え」と反撃したプーチン大統領は、生中継で米露首脳会談を行おうではないかと提案したところ、ホワイトハウスは、「大統領は忙しい」と理屈を述べて、この生中継会談を逃げた(本当は閑なのにね)。

米国の外交的失敗

 アメリカの外交的失敗は目に見えている。戦略的思考に立てば、中国を包囲するのだから、ロシアを味方にするのが軍略である。多少の譲歩をしてでも、中国の背後につくロシアを取り込む必要がある。しかし、アメリカの歴史を鑑みれば、いつも敵と味方を取り違えてきた。アメリカは新たにロシア高官の何人かを制裁し、在米資産を凍結した。無論、中国に対しても、香港弾圧に関与した共産党幹部を米中会談の直前に追加制裁している。

 ところで、大統領専用機はアンカレッジから直ちにワシントンへ引き返し、ジョージアの銃撃事件慰問のためにバイデン大統領を運んだ。搭乗の際に、バイデン大統領は階段で2回も転んで失態を演じたことを各紙が写真入りで報じた。

 もう1機の大統領専用機はどこへ? ロイド・オースティン国防長官はソウルでブリンケン国務長官らと別れ、ニューデリーに飛んでいた。オースティン国防長官はインドのモディ首相らと会見し、同盟関係の一層の進展と日米豪印の「クアッド」の強化などを話し合った。インドは歓迎ムードにあふれたが、インドと軍事的絆の強いロシアはこれを警戒した。その後、オースティン国防長官は予定になかったアフガニスタンを電撃訪問し、ガニ大統領と面談した。

 ところで、3月の全人代で、事実上の中国人民解放軍の制服組トップである許其亮(中央軍事委員会副主席、空軍上将)は「トゥキディデスの罠」に言及した。つまり、米中戦争も視野に入れているのである。

 昨秋の5中全会でも許は「能動的な戦争立案」と発言し、台湾、ならびに尖閣、南シナ海をめぐる緊張に直面した中国人民解放軍が「戦って勝てる軍隊」の実現を目指すと発言している。

 この深刻な状況下、アメリカのトップは「ひきこもり大統領」=バイデンである。そういえば、選挙中も地下室で居眠りしていたっけ。世界情勢が緊急を要するときにさえ、バイデン大統領は人前に出たくないのだ。

 外国首脳との電話会談は、ハリス副大統領が代行している。バイデン大統領はあいさつ程度の電話会談は欧州首脳や日本などと行ったが、実質的な詰めを行う電話会談はハリス副大統領で、英国、カナダ、独、仏のほかイスラエルなど6カ国首脳とこなした。

 かつて、フランクリン・ルーズベルト(FDR)は死に至る病にあっても、当時はテレビがないので新聞発表の写真を操作して健全さをアピールした。事実上、政治を牛耳っていたのはFDRを囲む左翼の側近たちだった。バイデン大統領のひきこもりと側近たちが主導する現状は、まさにFDR末期に酷似する。アメリカは大丈夫かと懸念の声が湧き上がるのも、無理はない。

(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)