ホンダ、利益1兆円が視野、F1に5度目参戦の狙い…EVから宇宙、全世界で事業再編

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ホンダのHPより

 2023年5月24日、ホンダはプレスリリースを発表した。2026年から「F1=フォーミュラ・ワン世界選手権」に再参戦し、アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームに、エンジンなどパワーユニットを供給することが明らかになった。背景の一つは、事業領域の拡大だ。陸、空、さらには宇宙で使用可能なパワーユニット(エンジン、モータなど動力を発生させる装置)、車体軽量化、脱炭素などを支える製造技術の開発、実用化のスピードを高める狙いがありそうだ。

 近年、ホンダは世界全体で事業運営体制を見直し、リストラを実行して固定費を圧縮してきた。その成果は徐々に表れている。得られた資金を用いて、ホンダは他企業との合弁事業や衛星の打ち上げなどに用いられる小型ロケット開発などの体制強化に取り組むと予想される。ある意味、ホンダは四輪車事業の成功体験から脱却し、新しいことに能動的に取り組み、高い成長を目指す起業家精神を組織全体で醸成しようとしているように見える。

加速するビジネスモデル改革

 創業以来、ホンダはエンジンなど動力を生み出す装置の製造技術に磨きをかけ、二輪車、四輪車へと収益分野は拡大した。2023年3月期、四輪車事業は売上の63%を占める。そのため一般的にホンダは世界大手の自動車メーカーとの認知度は高まった。ホンダはホンダジェットの投入によって航空機分野でも収益を得ている。

 現在、ホンダはガソリンエンジンの製造を基礎とするビジネスモデルを改革し、新しい分野への進出を強化しようとしている。事業戦略の観点から考察すると、固定費の大胆な削減、成長期待の高い市場で生産体制強化が進んでいる。まず、固定費削減のために、自動車の工場の閉鎖が増えている。国内ではミニバンの「オデッセイ」など主力車を生産してきた埼玉県の狭山工場が閉鎖される見通しだ。国内での完成車生産は寄居工場と鈴鹿製作所に集約された。人員の削減も進められている。海外では、英国南部のスウィンドン工場が閉鎖された。トルコ、フィリピン、アルゼンチンでの四輪車生産も終了した。

 一方、まず世界最大の新車販売市場である中国で、ホンダは新しい工場を建設する。広東省広州市に電気自動車(EV)専用工場が建設され2024年の稼働が予定されている。中国で生産したオデッセイを国内で販売することも計画されている。世界第2位の自動車市場である米国では、オハイオ州に韓国のバッテリー大手LGエナジーソリューションと合弁で工場を建設し、2025年の供給開始が予定されている。また、国内ではGSユアサとの大容量バッテリー合弁事業が本格的に始動する。自動車部品メーカーである日立アステモの出資比率に関してもホンダが日立と対等の関係を実現することによって、EV向け電動アクスルなどの開発、生産スピードの引き上げが進められようとしている。グローバル化の加速を背景に海外進出を強化し地産・地消体制を整備したホンダ事業戦略は、日米中という3拠点を軸にしたEVなどの生産体制強化へ急旋回し始めた。

F1、5度目参戦の狙い

 5度目のF1参戦の狙いとして、ホンダの三部敏宏社長は「F1で得られる技術やノウハウは、今後の量産電動車の競争力に直結する可能性を秘めている。当社の電動化技術を促進するプラットフォームになる」と述べた。一時、F1関係者の間ではホンダは完全撤退するとの見方もあったと聞く。再参戦の真意を理解するには、モーターレース参戦の歴史を確認するとよいだろう。結論を先に述べると、ホンダにとってF1はエンジンなどパワーユニットの性能向上を支える製造技術を生み出し、その実用性を確かめ、世界の信頼を獲得する重要な機会になってきた。