サプライサイドの改革、潜在成長率上昇に限界…需要拡大に務める高圧経済が不可欠

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<1>需要変動に伴う職探しや完全雇用失業率の変化が潜在労働投入量に影響

 これまで経済成長率と就業者数要因の因果関係を見れば、就業者数要因が1年遅れて連動していることがわかる。

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 背景には、総需要の長期停滞で職探しを諦めて労働力人口が減少することで、潜在労働投入量が低下することが指摘できる。となれば、高圧経済で総需要が拡大すれば、職探しをあきらめていた非労働力人口が労働市場に参入することで労働力人口は増えるだろう。また、非自発的失業を除く失業率を完全雇用失業率と定義すれば、景気拡大に伴い人手不足で失業率が低下しても、完全雇用失業率は低下する関係が見て取れる。したがって、潜在労働投入量は総需要の影響も受けることになるといえよう。

<2> 需要の変化に伴う企業の期待成長率変化を通じて資本ストックに影響

 資本ストックの伸び率鈍化が90 年代以降の潜在成長率の押し下げ要因となってきたが、これまで経済成長率と資本ストックの因果関係を見れば、潜在資本投入量が現実の経済成長率に2年程度遅れて変動していることがわかる。資本ストックの伸び鈍化は、企業の期待成長率の低下を意味する。これは、資本ストックの源泉である設備投資の意思決定が企業の期待成長率に依存するからである。そして、これまでの企業の期待成長率は現実の成長率に大きく左右されることがわかっている。

 したがって、長期停滞が続けば、企業の期待成長率の低下を通じて設備投資が低迷し、資本ストックの伸びが減速する一方、現実の成長率の拡大が続けば、企業の期待成長率の低下を通じて設備投資が拡大し、資本ストックの伸びが加速する。つまり、バブル崩壊以降の長期停滞に伴う資本ストックの伸び鈍化が潜在成長率の低下に寄与しており、逆に高圧経済に伴う需要拡大の効果は、資本ストックの伸び加速に伴い、潜在成長率の上昇に寄与する可能性が高い。

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<3>需要変化に伴う雇用と設備の質の変化がTFPに影響

 これまでの経済成長率とTFPの因果関係を見れば、TFPが現実の成長率とほぼ一致して変動していることがわかる。そして、TFPの動向を見ると、2019年度頃からは伸びが拡大している。一般的なTFPの伸び鈍化の背景として、供給側の構造問題により生産性の低い産業や企業に経営資源が塩漬けになり、生産性の高い分野に資源が配分されなかったことが指摘されてきた。しかし、総需要の長期低迷もTFPの伸びを鈍化させる。なぜなら、景気が低迷すれば企業内失業や不稼動設備という形で過剰雇用や過剰設備が発生するが、計測される労働投入や資本投入は減りにくいので、残差としてのTFPの伸びが低下するからである。したがって、TFPの伸びも総需要の動向が大きく影響するものと思われる。こう考えれば、2019年度以降のTFPの伸び加速は、過剰雇用や過剰設備が減少した裏として出ているものと推察される。

 以上のように、一般的に供給側の構造問題として認識されている潜在成長率は、資本投入、労働投入、生産性のいずれの側面からも総需要の動向に大きく左右されると判断できよう。

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高圧経済が潜在成長率を高める近道

 総需要が潜在成長率に及ぼす影響を纏めると、<1>潜在労働投入量への影響として、失業者の職探し動向に伴う労働参加率の変化、労働需給の変化に伴う完全雇用失業率の変化、<2>潜在資本投入量への影響として、企業の設備投資変動に伴う資本ストック伸び率の変化、<3>TFPへの影響として、企業内失業や不稼動設備に伴う過剰雇用、過剰設備の変化および設備の更新や雇用の正社員化や転職等に伴う資本や労働の質向上、等を通じて、それぞれ潜在成長率に変化をもたらすことが推察される。