サプライサイドの改革、潜在成長率上昇に限界…需要拡大に務める高圧経済が不可欠

 したがって、日本でも総需要を拡大させることで潜在成長率を押し上げる効果があり、高圧経済の有効性が正当化される。実際、足元ではコロナからの回復などに起因する総需要の拡大が、設備や雇用の不足に伴うTFPの伸び率拡大を通じて潜在成長率を上昇させつつある。逆に、デフレギャップ解消前に時期尚早の増税や金融緩和の出口を模索すれば、資本と労働の量的・質的低下により、経済全体で見た供給力の向上は難しい。つまり、政策当局の需要拡大政策の持続なしに自律的な民間の供給力向上を期待することは難しく、供給側の改革さえ進捗させれば潜在成長率が上昇するといった考えは根拠に乏しいといえよう。

 経済の供給力向上は、少子高齢化に加えてパンデミックや戦争に伴う経済社会構造の変化が急速に進行する我が国にとっては必須の政策課題である。しかし、総需要の拡大がまだ不十分な中で需要喚起策をおろそかにすれば、供給側の改革を進めようとしても潜在成長率も高まりにくいことは今回の分析で確認した通りである。従って、我が国が潜在成長率を高めるには、さらなる需要の拡大に務める高圧経済が不可欠といえる。

 しかし、喫緊の課題である民間資本ストックの伸び加速に軸足を置いた政策を図る観点からすれば、民間の経済活動を締め出す防衛増税等については政策的に改善すべきことが多い。また、アベノミクス以降の金融政策も絶大な効果を挙げてきたが、資本投入量の伸びを拡大させるような効果は道半ばである。こうした見地から、(1)2%のインフレ目標を堅持し、実質金利の低下を通じて企業の前向きな投資を促すことを視野に入れた大胆な金融緩和の継続、(2)緊縮財政の緩和と共に、需要喚起効果の高い減税を中心とした財政政策の拡大、といった高圧経済政策が強く求められる。

 このように、効果的に財政政策を拡大し、大胆な金融緩和の継続の合わせ技で資本と労働の潜在投入量と生産性の伸びを加速させることが、日本経済にとって必要な政策運営といえよう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)