年収100万円以下もザラ、声優の悲惨なギャラ事情…インボイス制度で廃業増加か

 声優の仕事で生きていくために、出演料を上げる活動を続けてきた声優業界。最低限のギャランティが保障されたことで、後進の声優たちの立場は守られたそうだ。しかし、それでも収入の格差は生まれると渡辺氏は指摘する。

「キャリアだけではなく、本人の人気、実力によって声優の収入は『ピンキリ』になりやすいです。ギャランティが1万円からの新人声優は、いわずもがな安い金額だと思いますが、それでもキャラクターの人気が出ればゲームやライブのオファーが来て収入が増えやすい。90年代以降は、アフレコ収入よりもゲームやパチンコ、ラジオドラマ、キャラクターソング、ライブ活動など声優の活動が多岐に渡ったことで収入源が一気に広がったんです。

 特に人気キャラクターを引き当てられれば、引き続きその役の仕事をもらえますし、他の仕事にも声がかかりやすくなります。最近では、スマホのソーシャルゲームで演じたキャラクターで人気になる声優も多く、どんどん仕事が舞い込んでくることが多いですね。このように声優業界では人気者や当たり役を引いた人とそうでない人の格差が激しく、かなり弱肉強食な世界だといえるでしょう。また近年では、日本俳優連合に加盟していない声優も増えてきており、ギャランティに関する実情はさらに変わりつつあると言えそうです」(同)

 こうした事情もあり、声優業界では稼げる人は稼げるシステムになりつつあるが、仕事に恵まれないジュニアランクの若い層は低収入になりがちとのことだ。

コロナ禍では新人が育たない土壌に…インボイスで廃業もある?

 業界の構造的に収入の格差が生まれやすい声優業界。特に新人声優はコロナ禍に入ってからは、さらに苦しい状況に置かれているという。

「以前のアフレコ現場では声優が多人数で集まり、新人をベテランが指導するという地続きの徒弟制のような関係性がありました。つまり、新人が育つ環境があったわけです。しかし、コロナ禍に入って対面での接触を避けるため、何人かの声優ごとに別撮りすることが主流になってからは、新人の育つ環境が激減してしまいました。

 それに新人は、アフレコ予定時間内に収録しきれるかどうか未知数なことが多いので、制作側もスタジオ代やスタッフ拘束の時間や料金などのコストがかかることを考えて、新人を起用しにくくなっているという話も耳にします。ですから安心して収録できて、すでにファンが多くついている声優に声がかかりやすいんです」(同)

 不安材料ができるだけ少ない声優にオファーしたくなる制作側の心情も理解できる。ただそれが続くと、後進の声優は育たず、業界全体の損失になりかねない。

「ライブ活動や歌の活動を行っていない声優も二分されました。演技がうまく、知名度も高い声優はアフレコ別録りによってむしろ仕事が増えている。ですがアニメファンの知名度が低かったり、年齢的にアイドル売りができなかったりする方は、作品のマーケティング面で“弱い”と考えられて仕事につながりにくい。メディア露出の少ない中堅声優よりも、ゲームキャラで人気を得てライブ活動をする新人声優のほうが、収入が高いということも珍しい話ではありません」(同)

 またランクが上がってギャランティも上がるということは、制作費に対するコストが増えることを意味するため、中堅以上の声優にオファーを渋る制作会社も少なくないようだ。アフレコだけで収入を得られる声優はよほどの大御所でないと厳しいのかもしれない。今後のポジション取りは、どんどん熾烈な争いになってきそうである。

 そして、今後施行予定のインボイス制度も声優の仕事に影響を与えていくという。

「インボイス制度導入後は声優だけでなく、個人や数人で運営しているような小規模な声優事務所が苦労することになると思います。年間の課税売上高1000万円以下の小規模な声優事務所も、『取引先の制作側から選ばれる』立場は大手声優事務所と同じ。大手と競合するために、『免税事業者』のままではいられずインボイス発行事業者として登録せざるを得ない。すると自社の消費税負担が増え、事務手続きなどの人的コストが増大する。大手ならまだしも、中小規模の事業者には重い負担となります。また声優に依頼するアニメ制作側も『免税事業者』を選んだフリーランスや個人事務所に仕事を依頼すれば、自社の消費税納付額が増えてしまう。今後は依頼する側も、大手事務所と包括契約を結ぶなどして消費税と事務コストを抑えるケースが増えるかもしれません。小規模な声優事務所は最悪の場合、倒産という事態もあり得ます。規模は小さいけど良い仕事をする事務所が立ちゆかなくなったり、再編成されていったりするかもしれません」(同)

 やはりインボイス制度導入によって、苦しい思いをする声優や事務所は増えてくるようだ。ただ現在、声優の働き方もかなり変化しているため、一概に「声優はギャランティが少ない、廃業する」といった話だけに集約されるものではないという。

「もともと声優業1本で生計を立てるのはとても大変なことなので、副業として活動を続けている人もいます。また、現在は商業コンテンツだけでなく、インディーズでも商業とあまり変わらない活動が可能になってきています。コロナ禍で急増した動画コンテンツ、ゲーム、ドラマCD等に出演するなど活動拠点は自分で開拓できる時代でもあるのです。とはいえ、インボイス制度という本人の努力ではどうにもならないことで商業で活躍できなくなる、ましてや廃業に至るという状況は非常に問題だと思います」(同)

 近い将来、プロ声優たちの淘汰が加速してしまうのだろうか。

(取材・文=文月/A4studio)