都営地下鉄ホームドア整備、職員発案で費用20億円→270万円に削減の舞台裏

 都とデンソーウェーブはこの技術の特許をオープンにし、他の鉄道事業者が無償で使えるようにしており、京急や小田急電鉄などが取り入れている。QRコード方式の採用によって抑えられたのはコストだけでなく、工期も大幅な短縮となった。

「従来の車両改修をした場合の期間については、各社保有の車両の状況により異なりますが、1編成あたり数か月の期間が必要で、一度に改修できる数も限られることから、全ての車両を改修するのに10年以上の年数が必要と思われます。そもそも、改修自体が困難であったり、新造車に置き換えることが必要であったりしたことから、従来の方式で整備を行うことは現実的でなかったと考えています。QRコード方式はステッカーを貼り付けるだけですので、1編成当たり数時間、全体でも数日で済みます」(同)

読み取り不良による不具合はゼロ

 ネット上では、QRコードならではの懸念を抱く人もいる。目立っているのは、同じQRコードを用意してカメラにかざしたり、ステッカーを汚したりして、ホームドアを誤作動させるイタズラが起きるのではないかという声だ。

「複数の条件を組み合わせてホームドアを制御しているので、同じQRコードをカメラにかざすといった一般的に想定されるような方法では開けられません。また、この方式では『tQR』という専用のQRコードを開発しており、50%までは欠けたり汚れたりしていても読み取ることが可能です。一部のQRコードが読み取れない場合でもホームドアの開閉は可能なほか、QRコードの読み取りに異常があることも検知することができます。なお、浅草線では2019年に新橋駅でQRコード式のホームドアの運用を開始して以降、読み取り不良による不具合は発生しておりません。万が一、全てのQRコードが読み取れない場合にはホームドアの開閉連動はできなくなりますが、その場合は、車掌が手動でホームドアを開閉することで対応できます」(同)

 好奇心で「QRコードをスマートフォンで読み取ったらどうなるのか?」と考える人もいるが、これについても「tQRはスマートフォン等で読み取ることはできません。仮に読み取れたとしても、車両のドア数などの情報が入っているだけです。また、当然ですが、ホームドアの制御にも影響はありません」(同)とのことで、懸念されるような問題はないようだ。

 来年2月には京成電鉄と共同で整備する押上駅も完了予定で、都営地下鉄は全106駅でホームドア整備率100%を達成する見込み。困難なプロジェクトであっても、アイデアひとつでコストも時間も大幅に抑えて問題を解決できたという今回の事例は、一般のビジネスの世界でも大いに学ぶべき点がありそうだ。

(文=佐藤勇馬)