テレ朝『林修』番組、2重の重大ミスの原因…スタッフ大所帯と分業体制の盲点

 その上で、以下のように謝罪している。

<樋口教授が発言していない内容を、樋口教授のご見解として紹介するという番組側の重大な間違いにより、この分野を長きにわたりご研究されてきた樋口教授の名誉を著しく傷つけたことを深く謝罪いたします>

 流れを見る限り、樋口氏の生の言葉をナレーションに置き換えた際の誤解が原因のミスだ。では、なぜこうしたミスが起きてしまったのだろうか。こうした大型の番組になればなるほど、細かい点でのファクトチェックが求められる。樋口氏のような専門家の言葉をナレーションにして書き直す場合には、その原稿を樋口氏本人に送って、前後も含めて「確認」してもらう、というのがこうした番組を制作する際の鉄則である。できればVTR全体を見せた上で確認してもらうことが望ましい。なかなかナレーション原稿のチェックだけでは自分が伝えたかったことが番組にきちんと反映されているのかどうかはわからないことが多いからだ。ニュアンスが伝わらないこともある。事前にこの「確認」をしなかったのか。あるいは、確認における「ミス」があったのだろう。

細かい部分まで「分業」

 こうした厳密な事実の確認が必要な番組は、かなり細かい部分まで「分業」が進んでいて、多くの場合はその部分だけを担当するディレクターやアシスタントディレクターなどに委ねられている。その担当者が少しでも「面倒だ」と思い確認を怠ってしまうと、今回のようなミスが起きてしまうことがある。番組のエンドクレジットを見ると、ディレクター13人でアシスタントディレクターが9人という大所帯の制作スタッフだ。大半が制作会社のスタッフで、テレビ朝日の社員プロデューサーと制作会社のプロデューサーの計3人がチェックする体制になっている。こうした体制だと報告・連絡・相談の「ほうれんそう」が日頃からできていないと大きなミスやトラブルに発展しかねない。

 さまざまな専門家たちの研究成果を活用しながら制作する知的な情報バラエティ番組は、いつになってもニーズが大きい。それだけに事実を扱う際の確認は慎重にならなければならない。少しでも手を抜いてしまうと大変な事態を引き起こしてしまう。今回は「事実確認」でミスが生じたというケースだが、過去には2007年に放送された関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典?』で組織的なねつ造が発覚し、番組そのものが打ち切りになり、関西テレビが日本民間放送連盟から一時は除名になるなど、局全体や放送業界全体を揺るがす大きな問題に発展したケースもある。番組制作にかかわる人たちは「事実を確認する」ことの大切さを肝に銘じてほしい。

(協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)