「東京23区の子持ち世帯の年収の中央値が1000万円」が意味する現実

 加えて、お互いが定年まで働いていて継続的に世帯年収1500万円レベルを維持できること、さらに住宅手当、育休制度などの福利厚生が充実していることが前提ですので、夫婦どちらかが上場企業、大手企業の社員であるといったケースでないと厳しいかもしれません」(同)

「世帯年収1000万円」で東京23区に住む現実

 世帯年収1000万円の家庭では子育てしながら都心、副都心での居住は難しいため、東部、西部が現実的な選択肢として上がってくる。しかし、たとえば西部の世田谷区、杉並区など子育て世帯に人気のエリアのなかには不動産コストが高い地域も多々あり、その場合は副都心と変わらない支出になる点は留意しておきたい。

 こうした事情を踏まえると、世帯年収が1000万円あっても都心や副都心で子育てをしていくのは現実的に難しく、ある程度余裕を持った生活をするには、東部や西部で地価が比較的安いエリアに限られるということのようだ。

「もちろんそれは子どもを私立学校などに入れる前提の話。世帯年収1000万円の家庭でも、公立の学校に子どもを進学させて教育費をできるだけ抑え、住居も最寄り駅から遠く築年数がかなり経っているマンションなどを選ぶといったことをすれば、都心、副都心でも生活できるかもしれません。ただ、都心、副都心ではそういった家庭はそこまで多くなく、ママ友ができて周囲の生活水準に合わせようとしてしまうと、やはり世帯年収1000万円ではかなり厳しいでしょう。

 とはいえ東京23区が飛び抜けているというだけで、世帯年収が比較的高い家庭ではないと子どもを育てにくくなっているという実情は、基本的に全国どこでも同じです。物価や不動産価格が上昇傾向にある現在は、一昔前と比べてはるかに家計運営が厳しい状況になっています。

 さらに子どもの将来に漠然とした不安を抱えた家庭も増え、教育への関心も高まり、子ども一人あたりの教育費も増加傾向です。やはり一定以上の高収入ではないと、子どもを安心して育てられないと考える人は多い。そのなかでも特に東京23区が顕著だということです。

 ちなみに2024年10月から児童手当の所得制限が撤廃され、どの家庭でも手当金が支給されるようになります。以前ですと子ども2人の場合、年収が1162万円以上の世帯は、児童手当も特例給付も支給されませんでしたが、今後は定期的に手当金が入るようになります。ですから世帯年収1000万円程度の家庭であれば、これから多少は23区での子育てにも活用できる資金が増えますね」(同)

「世帯年収1000万円」に憧れ、目指している夫婦も少なくないだろうが、それでも東京23区での子育てはなかなか厳しいというのが現実のようだ。

(取材・文=文月/A4studio、協力=前田菜緒/ファイナンシャルプランナー、And Asset代表)