MSJ開発頓挫の国産旅客機に経産省が5兆円投入で再挑戦…意義と成否を検証

水素を燃料とする旅客機の開発になるのか

 次世代航空機とは水素燃料で飛ぶ航空機なのか

「確かに、水素燃料航空機は、2050年のカーボンニュートラル実現には不可欠なセグメントです。また、まだまだ開発途上なので、日本として参入する余地はあるし、逆に言えば、水素燃料航空機こそ日本に残されたターゲットかもしれません。しかし、2035年以降の次世代航空機開発が水素燃料航空機になるかどうかは、まだわかりません。ボーイングはもともと今後の新機材はSAF(持続可能航空燃料)をベースに開発する方針です。一方のエアバスは、水素燃料航空機の構想をローンチし、2035年をターゲットにさまざまな基礎テストを行っています。ところが、エアバスは最近になって現行の主力機『A320シリーズ』の後継機は水素燃焼型ではなくSAFをベースとするとしており、水素燃焼型の開発は35年より後ろにずれ込む可能性もあります。

 水素燃料航空機には、2つのタイプがあります。一つは、小型機(100席以下)で水素燃料電池の電力でプロペラやファンを駆動し推力を得るタイプです。今後、日本が共同開発で参入する場合、水素燃料電池車『MIRAI』や水素燃焼型レースカーを開発したトヨタ自動車の知見が活用できる可能性があります。ただ、この分野では、世界ではかなり進んでいて、現行のターボプロップ機(70人乗り)を改造するかたち等で、すでにテスト飛行が行われています。

 水素燃料航空機の2つ目のタイプは、水素を化石燃料の代わりに燃焼するタイプで、推力が大きいのでナローボディ機(150~250席)から中型のワイドボディ機(300席)まで実現が可能です。ただし、液体水素を貯蔵する大型タンクや、水素を燃焼するジェットエンジンの開発には時間がかかります。

 加えて、空港も含む社会インフラが水素供給に対応できる必要があり、高いハードルとなります。水素燃料航空機への参入に当たっては、航空機自体の技術的な精査に加え、車を含む産業全般と社会インフラ全体の動向の精査を十分行う必要があります」(橋本氏)

 そして現実的な解、着地点について橋本氏は次のようにいう。

「日本が今から単独で旅客機を開発して世界市場で一定のシェアを確保するというのは、事実上不可能です。そのため、最終的には海外の大手航空機メーカーと共同でSAFベースあるいは水素燃料ベースの新型ナローボディ機を開発するかたちや、小型の水素燃料航空機の分野で日本メーカーが高い技術力を持って存在感を示すかたちになるのが現実解かもしれません」

(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員)