ラピダス、累計3兆円支援でもTSMCに勝てる要素ゼロ…周回遅れの2nm生産

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●この記事のポイント
・政府が累計3兆円を投じるラピダスの2nm計画は、TSMCの先行と技術未確立により収益化が極めて困難。日の丸半導体の過去の失敗要因も再現しつつあり、国策投資の妥当性が問われている。
・2027年量産を目指すラピダスは、歩留まり・顧客基盤・価格競争力で圧倒的に不利。株主企業が多い構造は意思決定の遅れを招き、ルネサスなど過去の教訓が再び懸念される。
・技術確立や市場確保が不透明なまま巨額投資が進むラピダスは、失敗すれば「3兆円ドブ」の可能性も。若手技術者のキャリアリスクや責任所在の曖昧さなど、国としてのリスク管理が求められる。

 経済産業省がラピダスへの追加支援を決定し、政府の投資額はついに累計2.9兆円――事実上の「3兆円」規模に達した。2027年の2nm量産開始を目指し、北海道千歳市では工場建設が急ピッチで進む。だが、その巨額投資は本当に妥当なのか。過去に散っていった“日の丸半導体”の記憶をよみがえらせる声もある。国の威信を懸けた賭けは、果たして勝算があるのか、それとも「第2のエルピーダ」への道なのか。

●目次

「周回遅れ」は確実…TSMC・サムスンとの絶望的な差

 2027年に2nmプロセス量産――これがラピダスの提示するロードマップだ。しかし、2年後の世界はすでに別の景色になっている。

 台湾TSMCは2025年内にも2nmの量産を開始する予定で、すでに欧米大手顧客との長期契約も進めている。サムスンも同様に2nmの量産を目指し、大規模投資を継続している。

 つまり、ラピダスが2nmを出荷し始める2027年頃、TSMCはすでに歩留まり向上・設備償却・価格競争力で圧倒的な優位を確立している可能性が高い。

「2nmは“作れれば勝ち”ではなく、“安定して大量に、競争力ある価格で供給できるか”が勝負です。ラピダスはプロセス開発の実績も歩留まりデータもない状態。TSMCが10年以上かけて築いた製造最適化のノウハウを、数年で追いつくのは正直不可能です」(元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏)

 歩留まりとは、全ての製造されたチップのうち、どれだけ高品質な製品が取れるかの指標だ。TSMCは長年の蓄積から、製造工程の細部に至るまで改善の手を緩めない。一方で、実績のない新規メーカーが高歩留まりを短期間で達成することは極めて難しい。

 さらに厳しい現実がある。「誰がラピダスから買うのか?」だ。

 アップル、NVIDIA、AMD、アマゾン、テスラなど、主要顧客はすでにTSMCと深いパートナー関係を築き、共に次世代プロセスの研究開発を行っている。サプライチェーンの信頼を重視する半導体企業にとって、実績ゼロの新興メーカーと取引する動機はほとんどない。

 TSMCが価格を下げ、歩留まりを上げた後、ラピダスが同じ土俵に立てる保証はどこにもない。

「日の丸半導体」失敗の歴史は繰り返されるのか

 ラピダスの行方を占ううえで避けて通れないのが、かつての“日の丸半導体”の歴史だ。

 エルピーダメモリは2012年に破綻し、最終的に米マイクロンの傘下に入った。ジャパンディスプレイ(JDI)は事業再生計画を繰り返し、「延命企業」と揶揄される。ルネサスエレクトロニクスは近年こそ買収・再編で息を吹き返したが、長年にわたって巨額赤字に苦しんだ。