データの好循環
iPhoneユーザーとの日常的な対話データは、Geminiの精度向上にとって極めて価値が高い。グーグルは競合が容易に真似できない学習ループを手に入れた。
アップルはOpenAIやアンソロピックとも交渉していたとされる。それでもグーグルを選んだ理由は明確だ。
インフラ規模の圧倒的差
数億台規模の同時利用を安定稼働させられるのは、TPUと巨大クラウドを持つグーグルだけだった。
Private Cloud Compute(PCC)との整合性
アップル独自のプライバシー基盤に、グーグルが技術的譲歩を示した点は決定打となった。
MS×OpenAI連合への対抗
共通の脅威を前に、「敵の敵は友」という地政学的判断が働いた。
この提携は、当然ながら波紋を呼んでいる。
イーロン・マスク氏は「Android、Chrome、そしてiPhoneの知能までグーグルが握るのは異常」と批判。米司法省(DOJ)やEU規制当局も、AI市場における新たなゲートキーパー誕生として注視している。
「検索独占に続き、AI基盤まで掌握すれば、規制当局が介入する余地は十分にある」(同)
今回の提携により、2026年春のiOSアップデートで、Siriは劇的に進化する見込みだ。そこでiPhoneユーザーが得るもの、失うものは以下のようになる。
得るもの
・複雑なタスクを一言で完結
・画面文脈を理解した高度な提案
・実用性で他社を圧倒する体験
失うもの
・「すべて自社製」というアップル神話
・知能の主導権の一部
アップルの強みは、常に技術そのものではなく体験設計にあった。グーグルのAIを使いながらも、UI、統合、プライバシー管理はアップルが握る――この“二重構造”こそが同社の生存戦略だ。
今回の決断は敗北ではない。それは、理想より現実を選んだ究極のリアリズムである。この選択が「依存の始まり」になるのか、「再生の一手」になるのか。答えは今春、iPhoneがどれほど賢くなっているかで明らかになる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)