また、特定メーカーとの専売契約を結ばない「マルチブランド」姿勢も強みだ。すでにBYDや現代自動車の新車販売にも参入しており、特定の製品・技術に縛られずに時代のニーズに応じた車を”セレクト”できる柔軟性は、旧来型ディーラーにはない優位性である。
もっとも、この戦略が実を結ぶかどうかは、日本のEV市場が今後どう動くかにかかっている。現状のデータは慎重な見方を促す。
EVsmartブログおよびエネチェンジの集計によると、2025年の日本における乗用車新車販売に占めるBEV+PHEVの比率は約2.66%で、2年連続の低下となった。対して中国は2025年9月時点でNEV(新エネルギー車)シェアが57.8%と史上最高を更新、欧州は2024年で約15%(EU域内)に達している。この差は「文化」の問題ではなく、構造的な要因に起因する。
第一に充電インフラの問題がある。国内の充電器は2024年時点で普通充電・急速充電合わせて約8.5万口まで増えたが、課題は「マンションなどの集合住宅への普及」だ。日本の世帯の約6割が集合住宅に居住しており、自宅での充電が難しい環境は、EV普及の構造的な天井となっている。東京都は2025年4月から新築建物へのEV充電設備設置を義務化したが、既存建物への普及はこれからだ。
第二に「軽自動車とハイブリッドの壁」がある。日本の乗用車市場では、軽自動車が新車販売の約4割を占め、HV(ハイブリッド車)のシェアは2025年1月時点で約54.5%に上る。トヨタのプリウスやヤリスに代表される高完成度のHVは、EVへの乗り換えニーズを大幅に吸収してしまう。「航続距離が長く、給油1分で満タン、維持費も低い」HVが選択肢として存在する限り、EVが圧倒的な優位性を持ちにくいのが日本市場の特殊性だ。
「日本のEV普及率の低さは、消費者の意識の問題というよりも、既存のソリューション(HV)が優れすぎているという問題です。脱炭素の観点からEVに切り替えるメリットを感じるには、HVとのトータルコストの差が明確でなければならない。補助金政策の継続性とともに、この”比較優位”の問題を丁寧に解きほぐすことが、普及加速の鍵になるでしょう」(荻野氏)
政府は2035年までに乗用車新車販売を電動車100%とする目標を掲げているが、そこには「電動車」としてHVやPHEVも含まれており、BEV一本化を意味しない。むしろ世界的にも「EV一辺倒」から複数の電動技術を活用するマルチパスウェイへの転換が進んでおり、日本のスタンスはある種の先見性を持っていたとも評価され始めている。
楽観シナリオと悲観シナリオの双方を冷静に見ておく必要がある。
追い風になりうる要因としては、まず「2026年以降の新車ラインアップの充実」がある。2026年3月には日本のBEV+PHEVシェアが4.15%と過去最高を更新し、トヨタ「ピクシス バン EV」(スズキ・ダイハツとの3社共同開発)など商用EV分野での新モデル投入も相次いでいる。EMTが目指す「普及価格帯」戦略は、価格感応度が高い商用・法人需要に的を絞る限り一定の需要を掘り起こせる可能性がある。
一方、リスク要因も明確だ。まず補助金格差の問題がある。国産EVに比べて中国生産の車両はCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)の対象額が低くなる可能性があり、価格競争力を損なう。次にリセールバリューの不透明性だ。中国製EVのバッテリー劣化特性や残存価値は日本市場ではまだ実績が乏しく、これが購買意思決定を慎重にさせる。加えてオートバックスが「検討段階」と公言している通り、計画自体がまだ確定ではない点も留意が必要だ。
オートバックスの一連の動きは、技術変革期における企業戦略の一つの教科書として読むことができる。自社でEVを開発・製造するのではなく、EVメーカーが最も必要としている「整備・販売・流通インフラ」を提供することで、競争の土俵を変えようとしている。
2030年代に向けてEV化が本格化した際、勝者はかならずしも「最高の電池を作った企業」ではないかもしれない。普及した大量のEVを日常的に支える仕組みを先に構築した企業が、収益の果実を摘み取る構図になる可能性は十分にある。
変化を拒むのではなく、変化に「乗る」プラットフォームをいかに早く構築するか——。日本のEV市場の停滞という現実の中にあって、オートバックスの戦略は、その問いへの一つの実践的な回答として、引き続き注目に値する。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)