国・地域別の首位は米国の3860億円で、中国(2635億円、48.0%減)を上回った。台湾は27.1%増と大きく伸びている。1次速報時点の1人当たり旅行支出は約24.4万円で、2025年通年の22.9万円を上回った(季節要因があるため単純比較はできない)。買い物の比率が高かった市場が縮み、宿泊・飲食・体験に支出する市場の比重が増した。人数が減っても消費額がほぼ維持されたのは、この構成の変化によるところが大きい。
短期的には、強気になれる材料は多くない。中国路線の回復は日中関係次第で、航空会社が便を戻すにも機材や乗員の手配に時間がかかる。コロナ後の急回復局面もすでに一巡しており、中国以外の市場も前年が高水準だった分、伸び率は鈍りやすい。当面は、前年比で横ばいから小幅マイナスの月が続くと見ておくのが妥当だろう。
「仮に政治的な状況が改善したとしても、航空会社は需要の戻りを確認してから便を戻すのが通常です。発着枠の再確保や機材繰りもあり、数カ月単位のタイムラグは避けられません。段階的に戻っていくと見るのが現実的でしょう」(同)
では中長期はどうか。ここで効いてくるのがTTDIの評価だ。報告書は日本が首位となった理由として、豊富な文化資源、交通インフラの改善、そして主要観光地以外への訪問客の分散が進んだことを挙げている。客層を広げ、大都市以外への旅行を促したことで、集中のリスクを下げながら過去最高の実績を出した、という趣旨の評価である。
押さえておきたいのは、TTDIが訪問者数を競うランキングではないという点だ。ビジネス環境、観光政策、インフラ、観光資源、持続可能性といった、観光が持続的に発展するための条件がどれだけ整っているかを測っている。つまり「日本は旅行者を受け入れる土台が世界で最も整っている」という評価であり、一市場の一時的な減少で揺らぐ性質のものではない。
ただし、同じ報告書は気になる点も指摘している。2024年から2026年にかけて、対象の4分の3の経済圏で旅行の手頃さが低下し、観光投資が需要の伸びに追いつかず、人手不足が成長の制約になりつつあるという。円安で「割安な日本」に人が集まった局面から、価格以外の価値で選ばれる局面へ。日本にもそのまま当てはまる課題だ。
宿泊統計には、地方への分散がはっきり表れ始めている。観光庁の宿泊旅行統計によると、2026年7月の外国人延べ宿泊者数に占める地方部の割合は34.8%で、前年同月の32.9%から上がった。6月は三大都市圏が16.8%減だったのに対し、地方部は7.4%減にとどまっている。都道府県別の伸び率では、茨城、青森、愛媛、鳥取などが目立つ。
伸びている地域には共通点がある。一つは、混み合う主要観光地の「近く」にある受け皿であること。大都市や有名観光地から日帰りや1泊で動ける範囲にあり、混雑を避けたい旅行者の選択肢になっている。もう一つは、自然やスキー、文化体験といった「旅の目的」と、それに見合う宿がセットで用意されていることだ。北海道のニセコや岩手の安比高原のように、高価格帯の宿泊施設と長期滞在の環境を整えてきたスノーリゾートはその典型といえる。
反対に、苦戦している地域も少なくない。空港や新幹線駅から先の二次交通が弱く、移動の途中で素通りされてしまう地域。情報発信が日本語中心で、そもそも旅行者の検討リストに入っていない地域。全国的には分散が進んでいても、こうした場所には恩恵が届きにくい。
「地方には『良い素材はある』という自負があっても、空港から宿までの足、英語で予約できる体験、泊まりたいと思える宿、この三つが揃わないと滞在にはつながりません。どれか一つだけ整えても効果は限られ、セットで考える必要があります」(同)