日本に目を向けると、様子はかなり違う。
トヨタ自動車は日本製鉄との交渉を踏まえ、2026年度下期(10月〜27年3月)に部品メーカーへ供給する鋼板の価格を、上期比で1トン当たり1万2000円程度引き上げる。引き上げは4年ぶりだ。トヨタは部品会社向けの鋼材もまとめて買い付ける「集中購買」をとっており、その価格は鉄鋼業界で「ひも付き価格」の指標として注目される。日経は、今回の値上げの理由を原料高と報じている。
日本の値上げは、米国のような需要主導ではない。それを示すのが、日本製鉄が8月4日に公表した2026年度の業績見通しだ。
区分(実力ベース事業利益) 5月時点 8月時点 増減
国内 4700億円 3800億円 ▲900億円
海外 2300億円 3200億円 +900億円
うちUSスチール 1000億円以上 1800億円以上 +800億円
出典:日本製鉄「2026年度第1四半期決算」説明資料
国内は原燃料高を販売価格に全ては転嫁しきれず、中東情勢の影響も加わって下方修正となった。その減少分を、米国で価格上昇の恵みを受けるUSスチールが埋めている。同じ企業の決算のなかに、日米の温度差がそのまま表れている。
日本の自動車大手にとって、米国の素材高は他人事ではない。北米の工場では現地の鋼材を使うからだ。カナダからの鉄鋼・自動車輸入への米関税が27年1月1日に引き上げられる予定について、ホンダの幹部はロイターのイベントで「壊滅的」になりうると警告した。
「日本では、鉄鋼と自動車が半年ごとに価格を詰める慣行が根付いています。鉄鋼側は脱炭素への巨額投資を抱え、自動車側も高品質な鋼材を国内で確保し続けたい。一方的な力関係ではなく、互いの事情を数字で示して納得を得る交渉へと、ゆっくり変わってきているように見えます」(同)
中小型車やハイブリッド車を主力とする日本勢は、1台当たりの素材量という点では、大型車への依存度が高い米系より影響を受けにくい構造だとは言える。ただし日本勢も北米では大型SUVやピックアップを販売しており、関税や素材高の影響がどの程度になるかは、今後の決算で確認していく必要がある。
今回の明暗から読み取れるのは、付加価値の配分が少しずつ変わっていることだ。完成車メーカーが部品や素材を安く調達し、利益の大きな部分を手にする。その前提は、買い手が少なく売り手が多いという需給の上に成り立っていた。AIや電力インフラという新しい大口需要が生まれ、関税で輸入も絞られた。前提が崩れれば、力関係も動く。
ただ、この状態がずっと続くとは限らない。追うべき変数は少なくとも3つある。
1.通商政策の行方。カナダとの関税交渉や米メキシコ間の合意次第で、鋼材と部品の調達コストは大きく変わりうる。
2.供給力の増強。ヌーコアはウエストバージニア州の新工場を27年初めから本格的に立ち上げる。ここ数カ月は、韓国などからの輸入も再び増え始めている。
3.需要の持続力。米国では、許認可や人手不足、変圧器など電気設備の不足でデータセンター計画の遅延も指摘されている。
自動車大手にとっては、市況の反転を待つだけでは不十分だろう。素材メーカーと複数年で数量と価格を決める長期契約、新工場への初期からの参画、そして車体構造や素材構成の見直し。GMがヌーコアの新工場から外板用鋼板を調達するのも、そうした関係づくりの一例と読める。半導体でも今夏、GMとフォードがマイクロンと長期の供給契約を結んだ。調達の物差しが「値段を下げる」から「必要な量を確保する」へ移っている。