需要の中身は、ヌーコアの決算説明が具体的だ。データセンター向けが受注残全体の約15%を占める。そのほかに同社が挙げたのは、半導体・IT機器関連、ガス火力や原子力などの発電所、LNG輸出基地、電力網、造船、防衛だ。製鋼部門の出荷量は720万トン超と3四半期連続で過去最高を更新。トパリアン氏は、2026年が同社史上3番目に良い年になるとの見方を示した。
供給側の事情もある。ヌーコアによれば、米国の鉄鋼完成品の輸入は前年比13%超減った。関税で安い輸入品が入りにくくなり、旺盛な国内需要を国内勢が取り込んでいる格好だ。
電力インフラで話題になりやすいのが、変圧器の鉄心に使う方向性電磁鋼板だ。米IEEE Spectrumは、この鋼材を半導体に例えている。作れる会社が通常の鋼材よりはるかに少なく、世界の主要メーカーは日本と韓国に偏る。米国内の生産拠点は1カ所しかない。欧州でも域内生産の縮小と輸入の急増を受け、欧州委員会が2026年9月、この鋼材の輸入最低価格を引き上げる暫定措置を提案している。変圧器の供給が追いつかないなかで、素材の確保は各国の政策課題にもなってきた。
「自動車向けの薄板は量がまとまる上客ですが、品質要求が厳しく、年間契約で価格も固定されがちです。建設やエネルギー向けがこれだけ伸びると、鉄鋼側は自動車以外にも売り先を持っているという前提で交渉できる。その差は大きい」(証券アナリスト・堀野剛志氏)
もっとも、鉄鋼大手が自動車を軽んじているわけではない。クリフスの北米自動車向け出荷は2023年7〜9月期以来の高水準だった。ヌーコアも自動車向けの新しいめっきラインを10月に稼働させ、建設中のウエストバージニア州の新工場ではGMのSUV向け外板用鋼板を受注している。需要先が増えたことで、自動車は「唯一の大口顧客」から「有力な顧客の一つ」へと位置づけが変わりつつある、と見るのが実態に近い。
自動車側には、もう一つ構造的な事情がある。稼ぎ頭が大型車だということだ。
GMは、トランプ政権下の規制変更を受けてEVの生産拡大を大幅に抑えた。その一方で、平均販売価格は5万2000ドルと前年を上回っている。会社側は、大型トラックや高級車への堅調な需要を理由に挙げた。つまり、利益を支えているのはフルサイズのピックアップやSUVだ。
こうした車は車両重量が2トンを超えるものが多い。車体が大きく重ければ、1台に使う金属の量も当然増える。素材の単価が上がれば、その影響は重い車ほど大きくなる。利益率の高い車種ほどコスト上昇も受けやすいという、やや皮肉な構図である。
ただし「大型車=鉄の塊」と単純化すると実態を見誤る。フォードの主力「F-150」は車体外板にアルミを多用しており、同社は2025年、アルミの主要調達先であるノベリスの工場火災で大きな減産を強いられた。今回のコスト増も、鋼材に加えて銅や半導体、燃料が絡んでいる。大型車が受けるのは、鉄だけでなく金属素材全般の値上がりだと考えた方がよい。
「大型トラックは値付けに余裕があるので、ある程度は価格に転嫁できます。ただ、車両価格はすでに高い水準にあり、金利次第では需要が鈍る心配もある。素材高をどこまで値上げで吸収するか、各社は難しい判断を迫られています」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
経営陣の発言にも慎重さがみえる。GMのメアリー・バーラCEOは、2027年は26年を上回るという見方を維持しつつ、その前提として「顧客の需要が強いままで、素材や物流などのコスト圧力が和らぐこと」を挙げた。フォードのシェリー・ハウスCFOも、27年の中核利益は26年とおおむね同水準との見通しを示している。素材市況が足元の業績を左右する変数になったことを、両社とも隠していない。