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時は江戸中期、最も華やかだった頃の吉原。
男たちの欲望と夢が交錯し、女たちは笑顔でそれを受け止める。
そのなかで、『笑い花魁』として人気を集める花魁・お春は、どんな客にも機嫌よく、誰にでも愛嬌を振りまき、吉原の花のような存在として咲いていた。
だがその笑顔の裏には、
決して癒えることのない過去と、心にぽっかり空いた空洞があった。
ある日、見習いとして入ってきた少女・ちよとの出会いが、お春の心に変化をもたらす。
ちよの笑顔に自分の過去を重ね、彼女を守ろうとするお春。
一方、常連客の清太郎や新造の梅吉も、それぞれの事情を隠して吉原を訪れていた。
笑いの中にこぼれる涙。
派手な着物の下に隠された傷。
咲き誇った花も、いつかは散る。
それでも、人は人に、情を通わせ、人生を咲かせるのだ。
やがて火事、別れ、身請け、再会……と、笑っていられない現実が訪れる中、
お春は「笑って見送るのが、粋ってもんさ」と最後まで花魁であろうとする。
これは、笑って、笑って、それでも涙が止まらない――
咲くために生きた女たちの、粋で切ない人情噺である。
文字数 9,660
最終更新日 2025.05.16
登録日 2025.05.16
戦乱の火が日本を包む戦国の末期。
若き武将・真田柊馬は、織田の命により戦の最前線を駆けていた。
ある日、負傷した兵を救うために立ち寄った城下町で、一人の町娘・椿と出会う。
彼女は市井の茶店で働きながらも、人を寄せ付けぬ静けさと、鋭い観察眼を持っていた。
やがて二人の間に芽生える想い。けれど椿には、人には言えぬ過去と使命があった。
椿はかつて、敵国に育てられた間者――敵将の命を受け、真田家に近づいていたのだ。
真実を知った柊馬は、武将としての誇りと、男としての愛との間で揺れる。
椿は彼に手をかけるべきか、それともこの想いに従うべきか――。
互いを想うほどに、戦は激しさを増し、宿命の刃はふたりに迫る。
それでもなお、椿は信じた。
「あなたのそばに咲く椿でありたい」と。
戦の果てに残るのは、勝利か、それとも――愛か。
文字数 15,879
最終更新日 2025.05.15
登録日 2025.05.15
都に渦巻く闇は、人か妖か、あるいはその狭間か―
平安の世。華やかな貴族文化の影で、
人知れず“怪異”が蠢いていた。
ある夜、帝の元に届けられたのは、正体不明の怪死事件の報。
五日間で三人の貴族の子が消え、屋敷には血文字と不気味な足跡だけが残されていた。
呼び出されたのは、
若き陰陽師・綾塚烈正。
かつて“鬼子”と呼ばれた異能の家系に生まれながら、その才を怖れられ、表舞台から遠ざけられていた。
帝は彼に密命を下す―
「この都に蠢く“もののけ”を討て。正体を暴き、真を記せ」。
烈正は、護衛として付き従う女性・那智と共に、都とその周辺で起きる怪異事件に挑んでいく。
“赤衣の童子”、“髪を食らう女”、“鳴かぬ鶯”、“血涙の巫女”、“鬼の花嫁”――
一見無関係に見えた怪異たちは、やがて一つの真実へと収束しはじめる。
陰陽とは何か。人と妖の境界とは何か。
帝の密命の裏に潜む“真の意図”とは――
それは、ただの怪異譚ではない。
記すべきは、平安という時代に封じられた「真実」そのもの。
文字数 8,243
最終更新日 2025.05.15
登録日 2025.05.15
昭和十九年。鹿児島県・知覧。
特攻隊として出撃を待つ青年・藤堂聡と、家業の呉服商を継ぐ女性・岸本綾。
わずかな逢瀬の中で芽生える恋。
しかし、戦争という避けがたい現実が、二人の未来を引き裂いていく。
やがて聡は出撃の日を迎える。
絶望の果て、綾が見出す“生”の意味とは――
これは、命と愛が交錯する時代に、一輪の花のように咲いた恋の記録。
文字数 4,656
最終更新日 2025.05.09
登録日 2025.05.09
凶悪殺人と猟奇殺人のみを扱う、国家公安直属の特別犯罪対策班「第八班」。
八人の隊員全員が、過去に類似事件で大切なものを失い、それぞれの“トラウマ”を抱えながら日々凶悪犯と向き合っている。
ある日、連続猟奇殺人事件が発生。手口は、八人のうち一人の過去の事件と酷似していた。
捜査が進むにつれ、次々と浮かび上がる各隊員の過去。そして、それをなぞるかのように続いていく犯行。
犯人はなぜ彼らの過去を知っているのか?
そして、捜査の最中、少しずつ芽生えていく想い。
銃の扱いに長けた行動派の女性隊員と、無表情を装う冷静沈着な男性隊員――
交差するのは、罪か、絆か、それとも――。
文字数 1,489
最終更新日 2025.05.09
登録日 2025.05.09
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