前回の記事では、小学校・幼稚園受験がかつてでは考えられないほど一般的になっていることに触れ、子どもだけでなく親も本気で向き合わなくてはならないという、現代の「お受験」の厳しさについて指摘しました。
今回は、そうした大変な受験をいかにして乗り越え、「楽しんで勝つか」について、さらに踏みこんで書きたいと思います。
まず前提として、前回も書きましたが、受験することに対して、子どもを支える親の「目的」がブレないことが大切です。
受験というのは、時間的に、経済的に、精神的に、非常に負荷のかかるものです。子どもの勉強に付き合うことで多大な時間を奪われたり、塾や教材の費用で家計を圧迫されたり、子ども自身がやる気を失って勉強嫌いになってしまったり、心を折るような壁が幾度となく立ちはだかります。
そのため、「周りがやっているから」「なんとなくかっこいいから」「子どものためになりそうだから」といったあいまいな目的意識では、受験を乗り越えるのは不可能です。
だからこそ、親の「目的」がブレないことが重要になってきます。
親が、つらく困難な受験に対し、それを乗り越える意味があるのだという、たしかな信念を持つ必要があるのです。そうでなければ、子どもを数々の困難に立ち向かわせることはできません。
親にブレない「目的」が必要という前提を書いておきながら、いきなり否定的なことを書きますが、近年子どもの受験の悪影響が問題になっているそうです。
東京首都圏では受験戦争が過熱しているためか、中高一貫校が増えていると言われています。
中高一貫校のウリは、高校3年生までの学習を高校2年生までで終わらせて、最後の1年間をまるまる受験に当てられるということです。「高校の予備校化」と言われますが、大学受験のサポートを手厚くしてくれる高校が増えているため、逆に大学受験のサポートが少ない学校には親からクレームが出るようになっているそうです。
しかし、その弊害も生まれています。
先生や親から言われたことをきちんとこなす、「自主性」のあるいい子が増えている一方で、自分で学習プランを考えていくような「主体性」のある子どもは少なくなっているというのです。
ちなみに、自主性と主体性は違うと言われています。自主性とは、上から言われたことを前向きにこなすことであり、その実態は受け身です。他方、主体性とは、自らが主体となって、自分で考え、行動できる力です。
いまの受験のあり方は下手をすると、自分で考えない、主体性のない子どもをつくってしまう傾向があるのかもしれないと言われているのです。
無気力で自分で考えることができず、与えられないと何もできない。うまくいかないと、サポートが弱いとクレームをつける。皆さんの職場には、そういった若者が増えていないでしょうか?
加えて、いまの若者は、自分の強みも弱みにも関心がないそうです。「自分は価値のある人間だと思いますか?」というアンケートに、「価値のない人間だと思う」と答える子どもの比率が、中学生で55%、高校生で65%という恐ろしい結果が出ています。
いま、多くの親が「コスパのいい受験」「タイパのいい受験」を求めています。
いかに少ない労力で、偏差値の良い大学に入れることができるか。そうやって加熱した受験戦争のあとに生み出されてしまったのが、主体性も自信もない、言われたことしかできないいい子ちゃんだとしたら、それは大変なことです。
自主性と主体性についてもう一歩踏みこんでみましょう。
ビジネスの世界でも、主体性は重要視されています。いやむしろ社会に出たら、主体性がない人は、活躍するのが難しい世界とも言っても過言ではありません。
社会で求められるのは、様々な問題を解決し、価値を高め、チームを作り、リーダーシップを発揮する人です。
社会に出る前の期間に、自分で考えて行動してこなかった人、自分の強みや弱みに向き合ってこなかった人、与えられたレールに乗って勉強しかしてこなかった人は、多くの場合、社会に出てから価値を発揮できずに悩むことになります。
リーダーに求められるのは、IQよりEQです。EQというのは、心の知能指数と言われます。たとえば人の気持ちを考えられるとか、意見に耳を傾けるとか、間違いを認められるとか、相手の成長を願うことができるとか、人の役に立つことが嬉しいとか、そういった人間性の部分です。
社会に出ると新人の頃は、IQ=仕事ができるかどうかが求められますが、それは最初だけです。仕事が認められて部下を持つようになると、IQが高く、自分の仕事ができるかどうかよりも、EQが高く、人をうまく動かせるかどうかの方が重要になっていきます。
もちろん、IQも重要です。自身も仕事をこなし、仕事ができるIQの高い人をたばねて、効率的に運用していくことも大事です。
ですが、上司の立場になっても、IQだけで勝負していると、人を見下したり、仕事ができない人に冷酷に対応してしまいがちです。結果として離職を増やしてしまい、組織の生産性は上がっていきません。
つまり、IQとEQの両方を兼ね備えて行いく必要があるわけです。
では、受験の話に戻ります。
受験を通して、養わせるべき能力は、IQ=頭の良さ、つまり学力に偏った受験で良いのでしょうか。EQ=心の知能指数を伸ばす受験にすることはできないのでしょうか。
結論を先に書くと、それは可能です。それどころか、EQを高めることがIQを効率的に上げるとさえ言えます。
ビジネスの現場で強いチームをつくってきた部下育成のノウハウをもとに、その可能性をここに示したいと思います。