組織開発の仕事をしていると、管理職育成へのニーズの高まりを強く感じます。クライアントからの依頼も多く、講演テーマとしても頻繁に求められます。
そのなかで、最近ひとつはっきりしてきたことがあります。それは――「いまの管理職に必要なのは、視野の広さである」ということです。
かつてのように、厳しく叱って引っ張るリーダーが評価される時代ではないことは、皆さんも実感しているでしょう。
強い理念で牽引するカリスマ型、KPIを徹底管理する達成型、メンバーの声に耳を傾ける調整型など、リーダーにもいろんなタイプがいますが、いままさに求められているのが、部下の関心や未来の可能性を広げられる「視野の広いリーダー」なのです。
そしてこのリーダー像は、会社の中だけに求められているわけではありません。家庭においても、同じ資質が必要とされているのです。
「会社への不満」についての調査を見ると、以前に比べて不満は減少傾向にあると示されています。皆さんの実感としても、うなずける部分があるのではないでしょうか。
有給取得は進み、労働時間は短縮され、残業代も適正に支払われる方向へと改善されています。いわゆる“詰め文化”のような光景も、ほとんど見かけなくなりました。
以前、私が乗ったタクシーの運転手もこう話していました。「昔は商談帰りの上司が車内で部下を叱責するのが日常だった。でも最近はほとんど見ない」。
職場環境は確実に改善されています。それ自体は素晴らしいことですが、いま別の理由が退職の背景として浮上しています。それが、「キャリア不安」です。かつての言い方で言えば、“青い鳥症候群”的な離職が増えているのです。
「会社が嫌いなわけじゃない。でも、もっといい場所があるのではないか」
「ここじゃないどこかに、自分に合う仕事があるのではないか」
「この会社では成長できないのではないか」
こうした漠然とした不安が、若者を転職へと後押ししています。価値観の変化、社会の変化にともなって人材の流動性は高まり、若者の離職率がゆるやかに高まっているそうです。
この状況で、管理職のあり方だけが昔のままでよいはずがありません。
たとえば部下が突然、「ワーキングホリデーに行ってみたい」という願望を口にしたとします。このとき、上司はどう返答すべきでしょうか。
「人が足りないんだ。そんなの許さない!」
これは言うまでもなくアウトでしょう。そこまでではないにしても、
「海外? 危なくない?」
「いまどきワーホリって意味あるの?」
といったように否定気味に言ったら、部下はどう思うでしょうか。たぶん部下は気づくでしょう。上司の視野がせまいことに。そして上司への信頼は薄れ、今の仕事への興味は薄れ、離職リスクが上がるはずです。
なお、ワーキングホリデーを受け入れないことが問題なのではありません。その言葉に拒絶反応を示し、話を広げる意思がないことが問題なのです。
では、上司がこんなふうに会話してくれたらどう思うでしょう。
上司「いいね。どこの国?」
部下「まだ決めていません」
上司「カナダは治安もいいよ。カナダでの、うちの業界の動向も面白い。調べてみると発見があるかも」
上司が詳しい情報を持っている必要はありません。必要なのは、関心の幅です。相手の興味を否定せず、問いを投げ、部下の世界も拡張してくれる。もしそこまで示すことができれば、理想の上司と言えます。
もしここまでできたとしたら、部下はこう思うはずです。「この上司は、広い世界を知ったうえで今ここにいる。なぜだろう?」。そこに、上司に対して興味と尊敬が生まれます。そして結果として、いまの仕事への見方も変わるのです。