楽天シンフォニーが、ケニアで通信事業に参入することになった。成長著しいアフリカの地で、いったいどのようなサービスを行うのだろうか。そして、その背景を追っていくと、先行投資がかさみグループ全体の財務状況にも負担が重くのしかかった楽天モバイルの事業拡大にこだわった、楽天グループの狙いが見えてくる。楽天の勝算は、先端技術である仮想化Open RANネットワーク構築の知見を生かした海外進出にあったのではないか。楽天シンフォニーへの取材を交えて追ってみたい。
革新的なモバイルネットワーク技術を用いた通信プラットフォーム事業をグローバルに展開する楽天シンフォニーは、このほどTelkom Kenya(テルコム・ケニア)と米国のAirspan Networks(エアスパン)と、Open RAN技術の検証やナレッジ共有に向けた覚書を締結した。Open RANとは、仕様がオープンになっており異なるベンダーの機器やシステムと相互接続が可能なRAN(無線アクセスネットワーク)のことだ。
楽天シンフォニー担当者は「エアスパン社とともに、テルコム・ケニア社の4GおよびNSA方式の5GモバイルネットワークにおけるOpen RAN技術の検証やナレッジ共有に取り組む予定」と述べる。
ケニア政府が株式の約4割を保有する通信事業者テルコム・ケニアは、日本でいうNTTのような会社だ。エアスパンは、5Gネットワーク向けソフトウェア・ハードウェアのプロバイダーで、エンドツーエンドのOpen RANソリューションを提供する。今後、3社が協力してケニアでモバイルネットワークを近代化・拡充していくことになる。
楽天シンフォニー担当者は「テルコム・ケニア社との協議に基づき協業します。大規模な商用Open RANネットワークを構築した楽天モバイルにネットワーク機器を提供した知見を生かし、アフリカ地域に限らずグローバルにOpen RANネットワーク推進に貢献してまいります」と説明する。楽天は、ヨーロッパの先進国ドイツでも事業を行っている。ケニア共和国にこだわっているわけではないが、アフリカ地域で大きな需要を見込んでいることは間違いない。
簡単に日本の通信業界の成り立ちを振り返ってみよう。長らく固定電話で通話していたのが、ポケットベルが生まれ携帯電話になり、やがてNTTドコモの「iモード」という当時、世界的に見ても画期的なサービスに発展した。iPhoneが登場しスマートフォンの時代になった現在でも、日本は携帯社会だといわれる。
一方でアフリカは、ある意味では日本以上にスマホが必需品になっている。多くのことをスマホを介して行っており、銀行口座のような役割も果たしている。「日本にも携帯を決済に使えるサービスが存在する」という主張があるだろう。しかし、初代iPhoneが登場した2007年にケニアでは、支払いや資金の受け取りが可能なM-Pesaが生まれ、モバイルマネーが世界的に脚光を浴びるキッカケになった。
銀行口座は、電気や水道のように万人が享受する社会インフラだ。日本に住んでいるとそのように思いがちだが、開発途上国に行くと様相は異なる。収益が見込めない貧困層が銀行口座を開設するのは困難を極めるのだ。
有線通信インフラは大規模な初期投資が必要だが、国が支援しても必ずしも事業予算は潤沢というわけではない。また、従来のメタル回線には銅が使われていた。多くの人々が生活に困窮するアフリカでは、金属資源として現金化する目的で銅線の盗難が後を絶たなかった。