経営コンサルが「貴重な建物の解体を提案」→実は正しい?コンサルの意外な価値

 では、なぜそんな業種が存続できるのか。実態として、コンサル会社が必要とされる状況は『恐らく正しいであろう選択肢が、本当に正しいということをキーマン全員に理解してもらうことが難しい状況』でしょう。なぜか内部の社員からの提案よりも、外部からのそれっぽい提案のほうを素直に受け止める経営幹部というのはいるものです。いわゆる『権威付けのため』です。このほか、例えば5つの選択肢があるうちの、どれが正しいのかを悩む際に、内部分析や外部環境分析を通じて確からしさの優先順位を提案するものです。この場合に5つの選択肢は内部の誰でも頭に浮かんでも、相対的な実効性を考える面では、意外にコンサル会社を使う価値があるでしょう。

 よって必然的にコンサル会社にはブランドやクライアント企業の業界の事情に詳しい経験値などが求められます。それに応えられる高額な経営コンサルを起用できるのは、潤沢な資金がある大企業か、儲かっていて知的好奇心の高いトップがいる中小企業くらいでしょう。普通の中小企業を相手にする中小のコンサル会社が苦境に立って倒産件数が増えているのは必然です」(中沢氏)

コンサルタントの費用の妥当性

 今回話題となっている神戸女学院大学のケースは、どうとらえるべきか。

「のちに重要文化財となるような建物を取り壊すというのも、古くても価値がある建物を残して他のことを変えるというのも選択肢の一つであったと推測できます。大学は上場企業ではないので短期の利益追求が必ずしも最重要ではなく、オーナーや関係者の納得性の高い選択肢を選んでやり切る(失敗だと思ったら早めに切り替える)ことが重要です。このコンサル会社の役割は、大学の関係者が考え付くようないくつかの選択肢のなかで、どれを選ぶことが関係者にとっても最も納得性が高いのかを示すことだったと考えられます。納得してもらうためには、単に儲かるかどうかという経済合理性だけでなく、関係者が抱く価値観も大きく影響します。儲かるか儲からないのかという点だけで判断しないということは、企業経営においてよくあることです。

 このコンサル会社がさまざまな情報を調べたり関係者に話を聞いたりしているうちに、関係者の価値観が経営判断に大きく影響するということは、すぐにわかったのではないでしょうか。その時点で、きちんとクライアントの意思決定者に確認するか、いったん意思決定をはかってもらうなどするのが当然の対応になります。それを怠っていた可能性や責任があると推測されます。一方でクライアント側でも、中間報告などを通じて担当者が『これはモメそうだ』と感じた時点で、内部の意思疎通をはかっておくべきでした。それが抜けていた可能性も考えられます」(中沢氏)

 1年で2000万円という費用については、どうか。

「コンサルタントの費用の妥当性について、客観的な水準はありません。『時給●円のコンサルが●時間くらいコミットするので●円になります』と費用見積を提示することはよくありますが、根拠はありませんし、いい加減なものです。唯一正しい水準は『それまでの提案や議論を通じて、クライアント側がいくらまでなら払っていいと思ったか』だけです。ですので、お金に余裕のあるクライアントであればたくさん払いますし、ないところは渋ります。

 費用対効果についても、成果の1つに納得性が絡むので、誰もが共有できる計算は成り立ちません。仮に『2000万円のコンサルタントを雇って、1億円の効果のある施策を進められた』という事実があったところで、そのまま受け止める人もいれば、『でも将来的に2億円の損が出る』と思っている人がいたら、その人にとっては費用対効果はマイナスになります。将来のことなど誰にもわかりませんから、関係者の納得感をどこまで醸成できるかということが絡みます。費用対効果を真の意味で計算したいと考える会社は、コンサルを起用しないほうが良いでしょう。『いったんコンサル費用はドブに捨てたつもりで使うから、その後の効果をみんなで頑張って出そう』と考えられる企業だけが起用すべきです」

発注経験のあるビジネスパーソンの口コミで探す

 では、経営コンサル会社を使う際の注意点・留意点とは何か。

「発注先は発注経験のあるビジネスパーソンの口コミで探すこと、そして事前に予算感を決めて伝えておくこと、複数社から提案を受けて決めることが重要です。これから一緒にさまざまなことに取り組むパートナーでもあるので、見積を提示してもらってからの価格交渉はあまりお勧めしません。提案を受ける前に予算感を伝えて、それを無視した提案をしてくるコンサル会社であれば、こちらに寄り添ってこない会社だと判断して発注しないことをお勧めします。例えば本来であれば3000万円くらいかかる案件についてクライアントの予算が1000万円だったとして、ちゃんとしたコンサル会社であれば『3000万円ではこんなことができるけど、1000万円だったらここまでになります、あるいはこんなやり方になります』というかたちでパターン提示をしてくるものです」(中沢氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)