日高屋の値上げ戦略を語る上で欠かせないのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進だ。その中核を担うのが、現在350店舗に導入されているタッチパネル式のオーダーシステムである。
タッチパネルの導入は、顧客と従業員の双方にメリットをもたらした。顧客は、店員を呼ぶことなく自分のタイミングで注文できるようになり、従来は「忙しそうだから」と遠慮しがちだった追加注文がしやすくなったことで客単価の上昇に直結。
「現状は350店舗に導入していますが、タッチパネル導入の店舗は、毎月15~30店舗近く増えていました。タッチパネルに変えると、客単価が上がるんです。客数も伸び、若干女性客も増えてきているような状況です」(ハイデイ日高)
一部店舗では客単価が150円ほど上昇する効果が見られ、客層の拡大にも繋がった。事実、コロナ前は20%程度だった女性客の比率は、直近では35%まで上昇している。
従業員側にとっては、オーダーを取る業務が削減され、ホールの人件費抑制に繋がった。この人件費の削減分が、高騰する原材料費を吸収するための一助となり、値上げ幅を抑制する企業努力を支えている。
日高屋の強みは、DXだけではない。自社工場(セントラルキッチン)を保有し、主要な食材を集中生産することでコストを抑制している。また、出店エリアを首都圏に集中させるドミナント戦略により、配送コストも効率化している。こうした盤石な事業基盤が、価格競争力の源泉となっている。
さらに特筆すべきは、従業員への手厚い還元だ。5年連続となるベースアップの実施や、利益の一部を「成長分配金」として社員に還元している。アルバイト・パート従業員(フレンド)に対しても、大規模な「フレンド感謝祭」を開催するなど、従業員満足度の向上に努めている。こうした取り組みが、従業員のモチベーションを高め、サービスの質を維持・向上させ、ひいては顧客満足度にも繋がっていると考えられる。
【ワークマン – 「ブレない軸」が顧客の信頼を繋ぎとめる】
作業服からアウトドア・スポーツウェアへと領域を拡大し、一大市場を築いたワークマン。同社も2025年3月期上期(4~9月)に一部商品で価格改定を行ったが、「客数既存比-0.8%、チェーンストア売上比+1.1%」と、値上げによる影響は“出ていない”と回答している。なぜワークマンの顧客は、値上げを受け入れたのか。その理由は、同社が長年かけて築き上げてきた、顧客との揺るぎない信頼関係にあった。
ワークマンが顧客の支持を失わない最大の理由は、その事業の根幹にある「変わらない価値提供」にある。同社は、値上げ後も顧客が離れない理由として、以下の3点を挙げている。
1.他社に負けない圧倒的な低価格
2.低価格だけではない、高機能性がある製品の販売
3.「やる値」の取り組みによる、プロ(職人)顧客の信頼維持
ワークマンのブランドイメージは、「高機能な製品が、驚くほど低価格で手に入る」という点に集約される。この強力なコストパフォーマンスは、一朝一夕に築かれたものではない。サプライヤーとの強固な関係、需要予測に基づく大量発注、そして無駄を徹底的に省いた店舗運営など、長年の企業努力の結晶だ。
顧客は、たとえ一部商品の価格が上がったとしても、「それでもワークマンは安い」「この機能でこの価格なら納得できる」と感じている。これは、同社が提供する価値が、価格という一面的な指標だけでは測れないことを示している。