宇宙ビッグデータで地球を最適化…JAXA発スタートアップが切り拓く、課題解決ビジネス

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●この記事のポイント
・JAXAから初めて出資を受けたスタートアップ「天地人」。衛星データを活用し、社会インフラや農業、脱炭素の課題に挑んでいる。
・同社の代表的なプロダクトは「天地人コンパス」。衛生データを活用し、水道の漏水リスクを予測したり、最適な田んぼを見つけて高品質米を育てたりすることができる。これまでに40自治体で導入され、厚労大臣賞も受賞している。さらに、風力発電の適地探しや、カーボンクレジットへの応用も進行中。

 日本のスタートアップシーンにおいて、宇宙という壮大なフロンティアを舞台に、社会課題の解決に挑む異色の企業が注目を集めている。株式会社天地人(以下、天地人)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から初の出資を受けたベンチャー企業として、衛星データを活用した事業で急成長を遂げてきた。

 今年7月には、日本最大級のスタートアップイベント「IVS 2025 LAUNCHPAD」で準優勝を果たし、存在感を一気に高めた。COOの樋口宣人氏は「いつも見学していた立場からファイナリストに選ばれたことは、資金調達においても非常に効果的」と語る。数百社に及ぶ応募から勝ち上がった経験は、天地人が挑戦する意義を社内外に示す大きな転機となるだろう。

目次

創業の原点──技術ドリブンではなく、課題ドリブンの発想

 天地人の原点は、2017年に内閣府宇宙開発戦略推進事務局が主催した「人工衛星データを使ったビジネスアイデア」のピッチコンテスト。そこで出会ったのが、JAXAの職員である百束泰俊氏と、衛星データの社会活用に関心を持っていた櫻庭康人氏だ。彼らの出会いが、天地人の始まりとなる。

 注目すべきは、天地人が会社設立(2019年)以前から、2018年度の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster」でANAホールディングス賞、JAL賞、審査員特別賞の三冠を達成していた点だ。「まだ事業化前にしてこの成果。JAXAの『衛星データの民間利用を推進したい』という意図とも合致していた」と樋口氏は振り返る。

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COOの樋口宣人氏

 同社が掲げるビジョンは、単なる宇宙技術の活用ではない。社名の「天地人」が象徴するように、「天」=宇宙ビッグデータを、「地」=地上の課題に応用し、「人」=暮らしを豊かにするという、社会実装を見据えた設計思想がある。

 樋口氏は「多くの宇宙ベンチャーが技術主導で進む中、我々は“課題ドリブン”で進んでいる。衛星データは手段であり、解決したいのは気候変動やインフラ老朽化などの実社会の問題です」と強調する。

「天地人コンパス」で実現する課題解決型プロダクト群

 天地人の主力プロダクトは、衛星データを可視化・解析・提供するWebGISサービス「天地人コンパス」だ。これを基盤に、主に3つの事業領域でソリューションを展開している。いずれも、社会インフラ・農業・脱炭素といった極めて公共性の高い領域にフォーカスしている点が特徴だ。

1. 宇宙水道局──水道インフラを宇宙から可視化

 漏水事故が年間2万件以上発生する日本の水道インフラ。少子高齢化や気候変動の影響もあり、持続可能性が問われている。

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 天地人の「宇宙水道局」は、衛星データによって地表面温度・土壌・地盤変動などの情報を解析し、AIで漏水リスクの高い管路やエリアを特定。電子化された給水台帳と連携し、リスクを5段階評価で表示できる。

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 人口10万~20万人規模の導入自治体では、漏水発見効率が6倍、調査費用が79%削減されたという。すでに40自治体が導入(2025年7月現在)。同サービスは厚生労働大臣賞や宇宙開発利用大賞も受賞しており、その有効性は社会的にも高く評価されている。