・保険適用範囲の拡大(生活習慣病予備群まで広げる)
・薬剤費の抑制・国内生産基盤強化
・食生活・運動と組み合わせた“包括的肥満治療モデル”の確立
・副作用管理を含む医療現場の体制整備
特に保険制度の見直しは普及の大前提となる。杉原氏はこう述べる。
「日本の肥満率はまだ米国ほど高くありませんが、生活習慣病の患者数は急増しています。肥満薬は医療費削減のカギになり得る。経口タイプが普及する前に、制度面の議論を急ぐ必要があります」
世界では今、肥満薬が新しい医療・産業の柱として台頭している。皮下注射から経口薬へ進化することで市場は18兆円規模に拡大し、製薬企業の競争はかつてない熱を帯びている。
一方、日本は制度・文化・供給の面で普及が遅れており、このままでは“肥満薬後進国”になりかねない。しかし、生活習慣病の増加やウェルネス産業の成長など、普及の土壌は整いつつある。
肥満薬は単なるダイエット薬ではなく、社会構造を変える医療イノベーションである。世界が巨大な波に乗りつつあるいま、日本はどこで舵を切るのか──。その選択が、未来の医療費、国民健康、産業競争力のすべてを左右するだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)