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ポーション監修編
第127話 最高の時間
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更新ペースが遅くすみません……!
とあるお客さん視点の話となります。
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シェフの気まぐれ料理。
つい先日『グルメの家』のメニュー表に誕生したそれは、客達の間で大きな話題を呼んでいた。
特に全メニューを知り尽くす常連客への影響は大きく、多くの者が通う回数を増やすきっかけとなる。
そしてその中の一人――職業:覆面調査員のグリルも、気まぐれ料理の登場に心を躍らせていた。
「ふぅ……間に合ったか」
閉店の約一時間前。
急ぎ足で『グルメの家』に向かったグリルは、入口の扉を見てホッと息を吐いた。
案内終了の看板はまだ出ていない。
仕事が押したため別の店に行くことも考えたが、来てみて良かったと自分を褒める。
(ここに来るのも、もう何度目だっけな……)
行列が進むのを待ちながら、ふとそんなことを思うグリル。
新店フェス参加の可否を判断する審査任務で訪れて以来、数日に一度は必ず訪れている。
特に、テイクアウトメニューの販売が始まってからは、店内で食べる時間がなくても寄れるのでさらに来店の機会が増えた。
(で、今度は『シェフの気まぐれ料理』と来た。ますます通う回数が増えるな……)
グリルは頬を緩めて、今日のメニューについて考える。
気まぐれ料理が始まって以降、今日で四度目の来店となるが、その内容は日毎に全く違っていた。
一度目はトンカツ。
二度目は肉じゃが。
三度目はチョコレートプリン。
トンカツのようにメイン級メニューの場合もあれば、サイドメニュー的な小皿料理の場合もある。
そして重要なのは、そのどれもが絶品だということ。
試作的な意味合いもあるということだが、そうは思えないクオリティの高さに驚かされる。
中でも初日に出された『トンカツ』の出来は素晴らしく、すぐさまレギュラーメニュー化が決まったほどだ。
そんなこんなで今日のメニューを楽しみにしていると、入店の順番が回ってくる。
「あ、グリルさん。いらっしゃいませ!」
「ああ」
店員のカフィに案内されて、席に座るグリル。
客として来店する際は特に変装していないため、すっかり店員から認識されていた。
「ご注文はお決まりですか?」
「そうだな……シェフの気まぐれの内容を聞いても?」
「はい。本日のシェフの気まぐれは『バターチキンカレー』となります」
「バターチキンカレー?」
グリルはカフィの言葉を復唱する。
(カレーというのはあのカレーか?)
メインメニューの一つであり、常連客のファンも多い『兎肉カレー』。
自身が審査に関わった新店フェスで生まれたメニューということもあって、グリルも時折注文している逸品だ。
「どんなメニューなんだ?」
グリルが尋ねると、カフィはすらすらと説明してくれる。
バターチキンカレーというのはグリルが思った通り、既存メニューのカレーと同じグループの料理。
ただ、カレールウにはかなりの違いがあり、ご飯ではなくナンと呼ばれるパンと一緒に食べる。
「パンってことは……テイクアウトメニューの『カレーパン』的な感じか?」
パンと聞いてそう思ったが、カレーパンとは全くの別物なのだという。
面白そうだと思ったグリルは、迷わずバターチキンカレーを注文した。
(さてと、果たしてどんなカレーなのか……)
想像を膨らませつつ、料理の到着を待つグリル。
初見の驚きを楽しむため、あえて他のテーブルの料理は見ていない。
食前酒として頼んだ特製カクテルを飲んでいると、トレイを持ったカフィがやって来た。
「お待たせしました! バターチキンカレーです!」
「おお! これが……!」
テーブルに置かれた料理に、グリルは感嘆の声を漏らす。
それはたしかに、兎肉カレーともカレーパンとも別物だった。
まずルウの色からして全然違う。
兎肉カレーやカレーパンのルウは少し暗めの茶色だが、こちらのルウはそれに比べてやけに色が明るい。
赤味や黄色味のようなものが感じられ、完全に別種のルウなのだと一目でわかる。
それに何より、ルウと一緒に食べるパン――ナンの存在感がとてつもない。
縦長の三角形という不思議な形と、白色ベースに点々と付いた焦げ目。
グリルの想像を超えた、インパクト抜群のビジュアルである。
(面白い。じゃあさっそく……)
グリルはスプーンを手に取り、軽く咳払いをする。
職業病なのか、初めての料理を食べる時はなんとなくかしこまった気持ちになるのだ。
ルウを掬ったグリルは、スプーンをゆっくりと口に運ぶ。
(……っ!!? なんだこのまろやかさは!!!?)
グリルが受けた第一印象は、圧倒的なルウのまろやかさ。
溶けていくようなクリーミーな味が、心地よい余韻として口内に広がる。
(それにこのスパイス感、兎肉カレーのものとはまた違う……)
注目すべきは、その抜群のまろやかさだけではない。
優しくも深みのあるスパイス感、わずかに感じられる酸味、自然で品のある甘味……それら全てがまろやかなルウと混ざり合い、兎肉カレーとは別方面の驚異的美味さを生み出している。
まるでスプーン一杯のルウだとは信じがたいほどの旨味の密度だ。
(このパン……ナンだったか? も食べてみよう)
グリルは一度スプーンを置くと、ナンを手でちぎって食べてみる。
(美味い! それに軽くて食べやすい!!)
小麦の繊細な風味がしっかりと活きた生地は、ほんのりと甘く単体でも十分に味わい深い。
続けて、ルウを付けた二口目を食べたグリルは、そのあまりの美味しさに目を見開く。
(それぞれ単体でも美味いが……合わさるとさらに天上の美味さだ!!!)
それから先はとにかく夢中で食べ続けた。
付け合わせの野菜も素晴らしく、酸味と辛味が食欲を引き立てる。
『グルメの家』での食事はいつもそうだが、気付いた時にはもう終わっているのだ。
空になったプレートを前に幸せな息を吐き、グリルは素晴らしい時間の余韻に浸る。
「ふぅ……」
「お皿お下げしますね!」
「ああ、ありがとう。それと追加注文なんだが――」
皿を下げに来たカフィに、グリルはミルクジェラートと紅茶を注文する。
素晴らしい食事の後には、素晴らしいデザートが欠かせない。
その日の気分に合わせた締めのデザートを頼むことも、『グルメの家』での楽しみの一つである。
新たな料理に出会えた喜びとデザートへの楽しみを胸に、また明日にでも来ようと誓うグリルであった。
とあるお客さん視点の話となります。
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シェフの気まぐれ料理。
つい先日『グルメの家』のメニュー表に誕生したそれは、客達の間で大きな話題を呼んでいた。
特に全メニューを知り尽くす常連客への影響は大きく、多くの者が通う回数を増やすきっかけとなる。
そしてその中の一人――職業:覆面調査員のグリルも、気まぐれ料理の登場に心を躍らせていた。
「ふぅ……間に合ったか」
閉店の約一時間前。
急ぎ足で『グルメの家』に向かったグリルは、入口の扉を見てホッと息を吐いた。
案内終了の看板はまだ出ていない。
仕事が押したため別の店に行くことも考えたが、来てみて良かったと自分を褒める。
(ここに来るのも、もう何度目だっけな……)
行列が進むのを待ちながら、ふとそんなことを思うグリル。
新店フェス参加の可否を判断する審査任務で訪れて以来、数日に一度は必ず訪れている。
特に、テイクアウトメニューの販売が始まってからは、店内で食べる時間がなくても寄れるのでさらに来店の機会が増えた。
(で、今度は『シェフの気まぐれ料理』と来た。ますます通う回数が増えるな……)
グリルは頬を緩めて、今日のメニューについて考える。
気まぐれ料理が始まって以降、今日で四度目の来店となるが、その内容は日毎に全く違っていた。
一度目はトンカツ。
二度目は肉じゃが。
三度目はチョコレートプリン。
トンカツのようにメイン級メニューの場合もあれば、サイドメニュー的な小皿料理の場合もある。
そして重要なのは、そのどれもが絶品だということ。
試作的な意味合いもあるということだが、そうは思えないクオリティの高さに驚かされる。
中でも初日に出された『トンカツ』の出来は素晴らしく、すぐさまレギュラーメニュー化が決まったほどだ。
そんなこんなで今日のメニューを楽しみにしていると、入店の順番が回ってくる。
「あ、グリルさん。いらっしゃいませ!」
「ああ」
店員のカフィに案内されて、席に座るグリル。
客として来店する際は特に変装していないため、すっかり店員から認識されていた。
「ご注文はお決まりですか?」
「そうだな……シェフの気まぐれの内容を聞いても?」
「はい。本日のシェフの気まぐれは『バターチキンカレー』となります」
「バターチキンカレー?」
グリルはカフィの言葉を復唱する。
(カレーというのはあのカレーか?)
メインメニューの一つであり、常連客のファンも多い『兎肉カレー』。
自身が審査に関わった新店フェスで生まれたメニューということもあって、グリルも時折注文している逸品だ。
「どんなメニューなんだ?」
グリルが尋ねると、カフィはすらすらと説明してくれる。
バターチキンカレーというのはグリルが思った通り、既存メニューのカレーと同じグループの料理。
ただ、カレールウにはかなりの違いがあり、ご飯ではなくナンと呼ばれるパンと一緒に食べる。
「パンってことは……テイクアウトメニューの『カレーパン』的な感じか?」
パンと聞いてそう思ったが、カレーパンとは全くの別物なのだという。
面白そうだと思ったグリルは、迷わずバターチキンカレーを注文した。
(さてと、果たしてどんなカレーなのか……)
想像を膨らませつつ、料理の到着を待つグリル。
初見の驚きを楽しむため、あえて他のテーブルの料理は見ていない。
食前酒として頼んだ特製カクテルを飲んでいると、トレイを持ったカフィがやって来た。
「お待たせしました! バターチキンカレーです!」
「おお! これが……!」
テーブルに置かれた料理に、グリルは感嘆の声を漏らす。
それはたしかに、兎肉カレーともカレーパンとも別物だった。
まずルウの色からして全然違う。
兎肉カレーやカレーパンのルウは少し暗めの茶色だが、こちらのルウはそれに比べてやけに色が明るい。
赤味や黄色味のようなものが感じられ、完全に別種のルウなのだと一目でわかる。
それに何より、ルウと一緒に食べるパン――ナンの存在感がとてつもない。
縦長の三角形という不思議な形と、白色ベースに点々と付いた焦げ目。
グリルの想像を超えた、インパクト抜群のビジュアルである。
(面白い。じゃあさっそく……)
グリルはスプーンを手に取り、軽く咳払いをする。
職業病なのか、初めての料理を食べる時はなんとなくかしこまった気持ちになるのだ。
ルウを掬ったグリルは、スプーンをゆっくりと口に運ぶ。
(……っ!!? なんだこのまろやかさは!!!?)
グリルが受けた第一印象は、圧倒的なルウのまろやかさ。
溶けていくようなクリーミーな味が、心地よい余韻として口内に広がる。
(それにこのスパイス感、兎肉カレーのものとはまた違う……)
注目すべきは、その抜群のまろやかさだけではない。
優しくも深みのあるスパイス感、わずかに感じられる酸味、自然で品のある甘味……それら全てがまろやかなルウと混ざり合い、兎肉カレーとは別方面の驚異的美味さを生み出している。
まるでスプーン一杯のルウだとは信じがたいほどの旨味の密度だ。
(このパン……ナンだったか? も食べてみよう)
グリルは一度スプーンを置くと、ナンを手でちぎって食べてみる。
(美味い! それに軽くて食べやすい!!)
小麦の繊細な風味がしっかりと活きた生地は、ほんのりと甘く単体でも十分に味わい深い。
続けて、ルウを付けた二口目を食べたグリルは、そのあまりの美味しさに目を見開く。
(それぞれ単体でも美味いが……合わさるとさらに天上の美味さだ!!!)
それから先はとにかく夢中で食べ続けた。
付け合わせの野菜も素晴らしく、酸味と辛味が食欲を引き立てる。
『グルメの家』での食事はいつもそうだが、気付いた時にはもう終わっているのだ。
空になったプレートを前に幸せな息を吐き、グリルは素晴らしい時間の余韻に浸る。
「ふぅ……」
「お皿お下げしますね!」
「ああ、ありがとう。それと追加注文なんだが――」
皿を下げに来たカフィに、グリルはミルクジェラートと紅茶を注文する。
素晴らしい食事の後には、素晴らしいデザートが欠かせない。
その日の気分に合わせた締めのデザートを頼むことも、『グルメの家』での楽しみの一つである。
新たな料理に出会えた喜びとデザートへの楽しみを胸に、また明日にでも来ようと誓うグリルであった。
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