文字の大きさ
大
中
小
32 / 44
【32話】勇者出現
国王に呼び出されてから、数日後。
ディアボル王国へ向け、モルデーロ王国軍が侵攻を開始した。
これを迎え撃つディアボル王国軍。
ファイロルより西に進んだ国境沿い――メロガ平原にて両国は激突する。
ディアボル王国軍の切り札であるユウリは今、前線よりもっとも離れた最後方の大本営にいた。
モルデーロ王国軍が勇者を投入して来次第、すぐに出陣することになっているユウリ。
今のところ勇者は出てきていないので、大本営で待機している。
「戦況を報告いたします」
伝令係が戦況を報告しに来た。
大本営には指揮官がいるので、戦況報告が頻繁に飛びこんでくる。
現在の戦況は、ディアボル王国軍が圧倒的に押しているとのこと。
大本営にいる王国軍のお偉いさん方からチラッと聞いた話によれば、モルデーロ王国の軍事力は大したことがないらしい。
勇者さえ出てこなければ、ディアボル王国軍の勝利は揺るがないとのことだった。
大本営で待機し始めてから、十時間ほどが経った。
外を見れば、太陽が沈み始めている。
今日のところは勇者は来ないんじゃないか、そんな緩んだ雰囲気が大本営に漂い始めたときだった。
「ご報告いたします!」
かなり慌てた様子で、伝令係が大本営にやって来た。
急いできたのか、呼吸が大きく乱れている。それになんだか、顔色も悪い。
「勇者です……モルデーロ王国軍の勇者が現れました!!」
伝令係の報告によって、緩んでいた大本営の雰囲気が一気に緊張していく。
「勇者の圧倒的な力により、我が軍は大きな被害を受けております! このままでは戦況がひっくり返るのも時間の問題かと!」
大きな被害。戦況がひっくり返る。
それらの報告が、大本営にいる人間に大きな恐怖と絶望を与えた。
「たった一人投入されただけで、そんなことが……」
「おしまいだぁ……」
お偉いさんたちから飛び交う、弱気な声の数々。
早くも、諦めムードが部屋の中に漂っていく。
そんな雰囲気を切り裂くようにして、ユウリが声を上げた。
「勇者の出現ポイントを教えてくれ」
「は、はい!」
伝令係から勇者の出現場所を教えて貰う。
勇者がいるのは戦場の最前線。
そこで猛威を振るっているようだ。
勇者が出てきたとなれば、ここからはユウリの出番だ。
最前線へと向かい、勇者の対処に当たる必要がある。
いっさい物怖じしないユウリの姿に、大本営の人間たちから感嘆の声が漏れる。
先ほどまで恐怖と絶望で沈んでいた顔には、希望の光が宿っていた。
「それじゃ、行ってくる」
話を聞き終えたユウリは、出口に向かっていく。
(話を聞いた限りだと、新勇者の力は相当なものだな)
たった一人で戦況を一変させたとなれば、かなりの強敵なのは間違いない。
しかしそれでもユウリは、最前線へと向かう。
自分がやると決めたことを、精一杯やるだけだ。決して逃げはしない。
「お願いしますユウリ様!」
「ディアボル王国の未来はあなたにかかっています!」
「我らの切り札! どうかこの国をお守りください!」
大本営にいる人間たちから声が上がった。
全員が全員、必死の表情と声色をしている。
数々の必死の声援をその身に受けながら、ユウリは大本営を出た。
【勇者覚醒】を発動し、戦場の最前線まで一気に駆け抜けていく。
「なんだあれ、竜巻か?」
ディアボル王国の兵士が、ポツリと口にする。
土煙を巻き上げながらとてつもない速さで戦場を移動していくユウリは、まさに激しい竜巻。
それを見たディアボル王国軍の兵士は、竜巻の正体が人間だとは思っていなかったようだ。
「あいつか」
瞬く間に最前線に着いたユウリは、勇者とおぼしき人物を発見した。
剣と魔法を使い、ディアボル王国軍の兵士を打ち倒している。
勇者は単独だった。
モルデーロ王国軍の兵士は周囲にいない。勇者の圧倒的な力に巻き込まれるのを嫌っているのかもしれない。
しかし単独でも、その力は圧倒的だった。
ディアボル王国軍の兵士は立ち向かっていくが、簡単にあしらわれている。まるで歯が立っていない。
ユウリはその場へ、急いで駆けつける。
「ここは俺がやる」
「逃げろお嬢ちゃん! ここは危険だ!」
必死で叫ぶディアボル王国軍の兵士に、ユウリは微笑む。
「俺はユウリだ。モルデーロ王国の勇者を倒しにきた」
「あなたが、あの……! し、失礼しました!」
「ここにいたら巻き込んじまう。他の兵士を連れて早くここを離れろ」
「はい! その、よろしくお願いします!!」
ディアボル王国軍の兵士たちは、すぐにこの場を離れていく。
ユウリと勇者の周囲には、これで誰もいなくなった。
一対一でせいせい戦える状況が、ここに整った。
感想
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。