TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空

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【32話】勇者出現


 国王に呼び出されてから、数日後。
 ディアボル王国へ向け、モルデーロ王国軍が侵攻を開始した。
 
 これを迎え撃つディアボル王国軍。
 
 ファイロルより西に進んだ国境沿い――メロガ平原にて両国は激突する。
 
 
 ディアボル王国軍の切り札であるユウリは今、前線よりもっとも離れた最後方の大本営にいた。
 
 モルデーロ王国軍が勇者を投入して来次第、すぐに出陣することになっているユウリ。
 今のところ勇者は出てきていないので、大本営で待機している。
 
「戦況を報告いたします」
 
 伝令係が戦況を報告しに来た。
 
 大本営には指揮官がいるので、戦況報告が頻繁に飛びこんでくる。
 現在の戦況は、ディアボル王国軍が圧倒的に押しているとのこと。
 
 大本営にいる王国軍のお偉いさん方からチラッと聞いた話によれば、モルデーロ王国の軍事力は大したことがないらしい。
 勇者さえ出てこなければ、ディアボル王国軍の勝利は揺るがないとのことだった。
 
 
 大本営で待機し始めてから、十時間ほどが経った。
 外を見れば、太陽が沈み始めている。
 
 今日のところは勇者は来ないんじゃないか、そんな緩んだ雰囲気が大本営に漂い始めたときだった。
 
「ご報告いたします!」

 かなり慌てた様子で、伝令係が大本営にやって来た。
 急いできたのか、呼吸が大きく乱れている。それになんだか、顔色も悪い。
 
「勇者です……モルデーロ王国軍の勇者が現れました!!」

 伝令係の報告によって、緩んでいた大本営の雰囲気が一気に緊張していく。
 
「勇者の圧倒的な力により、我が軍は大きな被害を受けております! このままでは戦況がひっくり返るのも時間の問題かと!」

 大きな被害。戦況がひっくり返る。
 それらの報告が、大本営にいる人間に大きな恐怖と絶望を与えた。
 
「たった一人投入されただけで、そんなことが……」
「おしまいだぁ……」

 お偉いさんたちから飛び交う、弱気な声の数々。
 早くも、諦めムードが部屋の中に漂っていく。
 
 そんな雰囲気を切り裂くようにして、ユウリが声を上げた。
 
「勇者の出現ポイントを教えてくれ」
「は、はい!」

 伝令係から勇者の出現場所を教えて貰う。
 
 勇者がいるのは戦場の最前線。
 そこで猛威を振るっているようだ。
 
 勇者が出てきたとなれば、ここからはユウリの出番だ。
 最前線へと向かい、勇者の対処に当たる必要がある。

 いっさい物怖じしないユウリの姿に、大本営の人間たちから感嘆の声が漏れる。
 先ほどまで恐怖と絶望で沈んでいた顔には、希望の光が宿っていた。
 
「それじゃ、行ってくる」
 
 話を聞き終えたユウリは、出口に向かっていく。
 
(話を聞いた限りだと、新勇者の力は相当なものだな)

 たった一人で戦況を一変させたとなれば、かなりの強敵なのは間違いない。
 
 しかしそれでもユウリは、最前線へと向かう。
 自分がやると決めたことを、精一杯やるだけだ。決して逃げはしない。
 
「お願いしますユウリ様!」
「ディアボル王国の未来はあなたにかかっています!」
「我らの切り札! どうかこの国をお守りください!」

 大本営にいる人間たちから声が上がった。
 全員が全員、必死の表情と声色をしている。
 
 数々の必死の声援をその身に受けながら、ユウリは大本営を出た。
 
 
 【勇者覚醒】を発動し、戦場の最前線まで一気に駆け抜けていく。
 
「なんだあれ、竜巻か?」
 
 ディアボル王国の兵士が、ポツリと口にする。
 
 土煙を巻き上げながらとてつもない速さで戦場を移動していくユウリは、まさに激しい竜巻。
 それを見たディアボル王国軍の兵士は、竜巻の正体が人間だとは思っていなかったようだ。
 
「あいつか」
 
 瞬く間に最前線に着いたユウリは、勇者とおぼしき人物を発見した。
 剣と魔法を使い、ディアボル王国軍の兵士を打ち倒している。
 
 勇者は単独だった。
 モルデーロ王国軍の兵士は周囲にいない。勇者の圧倒的な力に巻き込まれるのを嫌っているのかもしれない。
 
 しかし単独でも、その力は圧倒的だった。
 ディアボル王国軍の兵士は立ち向かっていくが、簡単にあしらわれている。まるで歯が立っていない。
 
 ユウリはその場へ、急いで駆けつける。
 
「ここは俺がやる」
「逃げろお嬢ちゃん! ここは危険だ!」

 必死で叫ぶディアボル王国軍の兵士に、ユウリは微笑む。

「俺はユウリだ。モルデーロ王国の勇者を倒しにきた」
「あなたが、あの……! し、失礼しました!」
「ここにいたら巻き込んじまう。他の兵士を連れて早くここを離れろ」
「はい! その、よろしくお願いします!!」

 ディアボル王国軍の兵士たちは、すぐにこの場を離れていく。
 
 ユウリと勇者の周囲には、これで誰もいなくなった。
 一対一でせいせい戦える状況が、ここに整った。

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