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第一話 「忘れる者と、拒むもの」
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生徒たちも徐々に周りに集まり始めたところで、また、始めから。
しばらく聴いていると、それがささやかな決意を謳った曲であり、蒼穹という名に相応しく、青空をモチーフにしていることがわかった。
つぐみは、何かに飲み込まれている感覚に陥った。緊張感の中の初々しさが、背筋をひりつかせる。どこかをたゆたうその感覚は、謎が解けていく合図だった。今日の全ての出来事がごちゃ混ぜになる。最後、十葉の笑顔が脳裏に浮かんだ。水面に波が立ち、見えているもの全てが洗われていくようだ。
歌が終わる頃には、推理ーとまではいかない仮説ーが浮かび上がっていた。
もしそれが真実なら、、、未来に感謝せねば。
「ありがとう。良いものを聴かせてもらったわ。ーいくつか尋ねてもいい?」
「はい」
「このなかに十葉と帰ったことのある人はいる?」
何人かの手が上がった。そのなかには未来らの姿もあった。
「次に、、、十葉も伴奏譜を持っているんでしょ?未来ちゃんと同じ楽譜を」
「はい、、、」
オルガンの前に立てかけられた楽譜は、四隅がクチャっと折れていた。空色の表紙がついていて、何かの絵が描いてある。
四隅が折れてしまっているのは、ファイルから飛び出た状態で机やリュックのなかに入れたからだろう。つぐみもよくやらかす。やらかして、くどくど陽希に文句を言われる。
「、、、実はね、十葉のバッグの中身がスられたの。それで頭を打ってねぇ、、、」
そっとつぐみは小声でバラす。記憶喪失とは言っていないから、セーフだろう。だが、その反応は思っていたよりも大きかった。
「下校途中が斜面だから、突き落とされたんじゃない?」
「そうだよきっと」と額を抑えながら制服を着崩した女子らはそう言い、男子らは「不審者じゃね?」「でも、金目のものなんてねぇよ」と騒ぐ。
「でも痛いよね」「きっとね。私もぶつけたくはないもん」
未来は片手で後頭部を押さえながら苦笑していた。確かに体験もしていない人からすれば、苦笑いくらいしか出てこないだろう。未来のもう片方の手には、配布物用なのか、ファイルが握られていた。きちんとなかのプリントは伸ばされていた。
「几帳面なんだね」と、思わずと言った具合につぐみは驚く。未来は特に気にかけず、「少し折れていると、ソワソワするので」と答えてくれた。
35HRを辞し、玄関まで来ると、十葉が背を向けて段差に腰掛けていた。どこか憂げな瞳は、不安からきているものなのだろう。本当に体調が悪く見える。演技ではない。
年頃の少女が物思いに耽っているのは、ひどく絵になっていた。
「今日はありがとう。十葉ちゃん」
「つぐみさん」
「なんとなく、分かったよ。また駅前ででも話そっか」
「、、、わかりました」
十葉が家路につくのを見送ると、夕暮れの中、彼女の母親・蓉子へ電話をかける。2コール後に、「もしもし?」と甲高い声がした。
「今日はありがとうございました。いえいえ、とんでもないです。ーはい。一つ、お尋ねしたいことがありまして」
二言、三言会話をし、電話を切る。
帰らなけえば、と頭では考えつつ、立ち尽くす。
多分つぐみは、徒労感の混じった社会人の顔をしていたことだろう。
しばらく聴いていると、それがささやかな決意を謳った曲であり、蒼穹という名に相応しく、青空をモチーフにしていることがわかった。
つぐみは、何かに飲み込まれている感覚に陥った。緊張感の中の初々しさが、背筋をひりつかせる。どこかをたゆたうその感覚は、謎が解けていく合図だった。今日の全ての出来事がごちゃ混ぜになる。最後、十葉の笑顔が脳裏に浮かんだ。水面に波が立ち、見えているもの全てが洗われていくようだ。
歌が終わる頃には、推理ーとまではいかない仮説ーが浮かび上がっていた。
もしそれが真実なら、、、未来に感謝せねば。
「ありがとう。良いものを聴かせてもらったわ。ーいくつか尋ねてもいい?」
「はい」
「このなかに十葉と帰ったことのある人はいる?」
何人かの手が上がった。そのなかには未来らの姿もあった。
「次に、、、十葉も伴奏譜を持っているんでしょ?未来ちゃんと同じ楽譜を」
「はい、、、」
オルガンの前に立てかけられた楽譜は、四隅がクチャっと折れていた。空色の表紙がついていて、何かの絵が描いてある。
四隅が折れてしまっているのは、ファイルから飛び出た状態で机やリュックのなかに入れたからだろう。つぐみもよくやらかす。やらかして、くどくど陽希に文句を言われる。
「、、、実はね、十葉のバッグの中身がスられたの。それで頭を打ってねぇ、、、」
そっとつぐみは小声でバラす。記憶喪失とは言っていないから、セーフだろう。だが、その反応は思っていたよりも大きかった。
「下校途中が斜面だから、突き落とされたんじゃない?」
「そうだよきっと」と額を抑えながら制服を着崩した女子らはそう言い、男子らは「不審者じゃね?」「でも、金目のものなんてねぇよ」と騒ぐ。
「でも痛いよね」「きっとね。私もぶつけたくはないもん」
未来は片手で後頭部を押さえながら苦笑していた。確かに体験もしていない人からすれば、苦笑いくらいしか出てこないだろう。未来のもう片方の手には、配布物用なのか、ファイルが握られていた。きちんとなかのプリントは伸ばされていた。
「几帳面なんだね」と、思わずと言った具合につぐみは驚く。未来は特に気にかけず、「少し折れていると、ソワソワするので」と答えてくれた。
35HRを辞し、玄関まで来ると、十葉が背を向けて段差に腰掛けていた。どこか憂げな瞳は、不安からきているものなのだろう。本当に体調が悪く見える。演技ではない。
年頃の少女が物思いに耽っているのは、ひどく絵になっていた。
「今日はありがとう。十葉ちゃん」
「つぐみさん」
「なんとなく、分かったよ。また駅前ででも話そっか」
「、、、わかりました」
十葉が家路につくのを見送ると、夕暮れの中、彼女の母親・蓉子へ電話をかける。2コール後に、「もしもし?」と甲高い声がした。
「今日はありがとうございました。いえいえ、とんでもないです。ーはい。一つ、お尋ねしたいことがありまして」
二言、三言会話をし、電話を切る。
帰らなけえば、と頭では考えつつ、立ち尽くす。
多分つぐみは、徒労感の混じった社会人の顔をしていたことだろう。
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