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異世界とはどんなものかしら?

石鹸は、この国には苛性ソーダがありませんでした。

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「か、苛性かせいソーダが、ない……そ、それに、探すのに時間かかる……」

 ショックを受ける。

 マーヤは、神殿の奥にいるので多分探せないのかもと思ったのだが、そう言ったものが下級神官に聞いてもないと言われ、頭を抱えた。
 そして草木灰そうもくばい消石灰しょうせっかいを作っても、手間がかかるだけなのである。

「困ったわ……それより、石鹸の元になる木を作ってみましょうか……木を成長させて花を咲かせて、出来た実が石鹸になれば……それがある地域にしか出来ず、そして欲をかく者には実がならないように……なんてどうかしら」

 ブツブツと呟く。

「地図……」

 立ち上がり吊るされている地図に近づき、その地図をたどる。
 砂漠の地域を指でなぞった。

『大地を潤す水と、石鹸の木々が生き生きと伸びよ。その木々が日よけとなり、暮らしやすくなるように、人々の仕事となるように……』

 囁く声に、マザー・ミームはハッとする。

「マーヤ様!」
「あ……大丈夫よ……えっと……」

 めまいにしゃがみこむ。

「マーヤ様! 何をされたのですか! 誰か! ブラザー・ドロス!」
「失礼します! マーヤ様」

 マーヤを抱き上げて、ソファに座らせる。

「な、何をされたのですか?」
「えと、マザー……私が触っていた地図の砂漠地域の教会に、連絡を。そこに水を引き木を植えました。それは体を洗ったり、手を洗うときに使うもの。そうすれば身体だけでなく、怪我の悪化などを抑えられるのです。出来た実を教会が買い取り、その地域を潤すべきです」
「……マーヤ様!」
「少し休んでから、排水設備を確認します」



と言っていたものの、すぐに寝入ってしまったマーヤに、マザー・ミームに教えられたアネッサはすぐ、その地域の教会に水鏡で連絡する。
 すると、みたことのない木が生え、枝葉が茂り、パステルカラーのピンクや緑、ブルー、イエローの実がたわわに実っていたらしい。
 その為、急遽教会で近くの貧しい村の住人に収穫を頼み、それを届けてもらうと代わりにお金や食べ物と交換。
 そして、その実を販売する為に誠意ある商人に預けることにした。
 それは、ブラザー・ドロスの実家である。
 見知らぬ実を預けられる形になったブラザー・ドロスの父と兄は、慌てて教会に姿を見せた。



「来ていただきありがとうございます」

 数日寝たきりだったマーヤは、青い顔で姿を見せる。
 ブラザー・ドロスの家族は、昔の聖女を見ていた為、様子の違う……落ち着いた雰囲気のマーヤに不思議そうにする。

「突然、私のしたことで、ご迷惑をおかけして申し訳無く思っております」

 立ち上がり頭を下げる。
が、ふらっと倒れかけ、ブラザー・ドロスが、

「マーヤ様!」
「あ、ありがとう。ドロスさん。大丈夫よ」
「何が大丈夫ですか! マザー・ミーム方やアネッサ枢機卿もお怒りですよ!」
「だって……排水工事できる技術者がいなくて……それに、行方不明のシスターが……」

顔を覆うマーヤに、ブラザー・ドロスがそっと座らせる。

「マーヤ様の責任ではありません。まずはマーヤ様のお身体の方が大事です」
「シスターのご家族はいらっしゃらないと伺ったから……墓地に……」
「マーヤ様! そのことでずっと心を痛められるなら、その前に、石鹸の流通について話し合ってください」
「……あ、申し訳ありません。あの……確か、クラウス商会の会頭様と次期会頭様ですね。突然申し訳ありません。今回、お願いできればと思うのは、石鹸と申します」

 ブラザー・ドロスが箱を開き、見せる。

「せっけん……」
「はい。身体や髪を洗ったりも出来ます。そして、他に、身体用とは別に用意しておくといいのですが、掃除用に。汚れが取れ、とてもいいものです」

 マーヤはまず、桶に水を汲んでもらっていたものに手と、ドロスから手渡された石鹸を入れ、泡立てると、手を洗う。

「人の手は色々なものを触ります。ですので、よくお昼に水で手を洗って食事をしますが、それだけでは落ちない汚れをこの石鹸からできた泡が落としてくれます。それに、怪我をした時に、獣に噛まれたり、ナイフで切った傷口を古いワインを蒸留させた、アルコールで消毒すると、怪我が悪化したり膿が出たりすることも減ります。この技術に、石鹸をクラウス商会に譲ります」
「はぁぁ! マーヤ様! 何言ってんですか! あなたが調子崩してるのも、この石鹸の製造法を研究して、倒れたせいじゃないですか! それに、この街の汚水、排水設備を調べ上げ、皆が眠っている間に自分の力で改造して、汚水を浄化する浄化槽まで作って!」

 ブラザー・ドロスが怒鳴る。

「この石鹸とアルコールの技術は、最低でも50:50。いや、マーヤ様、教会、実家で4:3:3です!大丈夫です!うちの実家その程度じゃ潰れません!ついでに浄化槽の点検とかも押し付けてやってください!」
「おい、こら! 実家を赤字にする気か! アルドロス!」
「何が! これは、マーヤ様が砂漠地帯に作った大農園でだけ出来るものだ。加工もしないで出荷できる。他国に知られたら、苗を奪われる。それに欲をかけば、この木は枯れてしまう。マーヤ様の『創造』で生まれた、まさに神のお力なんだ。今は教会が見ているが、協会の支店が必要だろうな。向こうの教会からこちらに届くまでに、山賊に襲われるだろう」
「……木を生み出した!」
「『創造』……」

 親子はマーヤを見る。

「あの……もし、よければ、この石鹸が売れたら、それで、また新しい商品を考えますので、お話を聞いて頂けませんか? どうかよろしくお願い致します。お金は商品を集めたり作ったりするのに使いますので」

 マーヤは頭を下げる。
 すると、ノックと共に、マザー・ミームが姿を見せる。
 商人の目は彼女の杖に視線が集中する。

「あのっ! そ、その杖は?」
「マーヤ様に作っていただいたものです。普通の杖よりも使いやすいですね」

 その杖を見つめていた会頭が、身を乗り出した。

「マーヤ様! も、もしよろしければ! あの杖を私どもで販売させてください! 50:50で!」
「ダメだね、80:20」
「お前が口を出すな! あぁー! よし! 70:30でお願いします!」
「あ、はい。大丈夫です」

 その後、休憩を挟みながら、色々なマーヤの知識と世界の情報を合わせていったのだった。
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