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孔明さんの不本意ありまくりの出廬が近づいてます。
孔明さんは、一生この時を悔やみ続けます、きっと……。
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その日以来、琉璃はニコニコと笑いながら、夫や息子と共に過ごす。
ごく日常の日々が当たり前のように過ぎていく。
しかし、孔明が気づくと、琉璃は哀しげな顔でぼんやりと外を見つめることが多くなっていた。
何度か、
「どうしたの? 何かあったの?」
と、問いかけるのだが、はっと我に返り、
「いえ、元直(げんちょく)お兄様が出仕されているとは思わなかったので、ビックリしました。最近お会いしていなかったのは、出仕(しゅっし)されていたからだったのですね?」
その言葉に孔明も頷く。
「そうだねぇ、最近元直兄に会っていないなとは思っていたけれど、出仕しているとは思ってもいなかったよ。まぁ、兄は今まで苦労を掛けた母上や弟どのに楽をさせたいと、いつも言われていたから……」
「でも、どういう経緯でそ、その劉皇叔さまと言う方の元に行かれたのでしょう……も、もしかして……」
琉璃は何故か不安そうな顔をする。
「……もしかしなくても、季常に幼常が関わった可能性は高いし、否定しないよ。私も」
妻を抱き締め、安心させるように頭を撫でる。
「季常ならどんな事でもする。でも、元直兄は大丈夫。あぁ見えて強い信念を持っている。それに、何かあったら相談に来るよ」
「そ、そうですよね……旦那様」
「それよりも、琉璃の方こそ大丈夫? 無理はダメだよ? 疲れたら休むこと。それでなくても、最近せかせか動き回って、その上私や喬の世話までしてるんだから」
耳元に囁く。
「子供はもっと後でも良いんだよ? 今欲しいと思っても、生まれるのは十月後なんだから……」
「えっ! そ、そうなのですか?」
顔を上げてビックリした顔をする琉璃に、孔明は噴き出すのをこらえ告げる。
「そうだよ。すぐには生まれないよ。母親……つまり琉璃のお腹の中でゆっくり成長して、月が満ちれば生まれるの。碧樹どのだって、玉音だって、大きなお腹をしてたでしょう?」
「……そ、そんな……」
悲壮感を漂わせた琉璃に、孔明は微笑む。
「大丈夫だよ。琉璃のお腹が大きくなっても、私が傍に居るからね?」
一瞬瞳の奥に暗い影のようなものがよぎったが、すぐに瞳に涙を浮かべ笑いかける。
「はい。居て下さいね……傍に居て、下さいね……」
ポロポロと零れ落ちる涙を見て、孔明はぎょっとする。
「りゅ、琉璃? ど、どうしたの? そ、傍に私が居るのは嫌? そ、そんなの困る! 私は琉璃が居ないと……」
「りゅ、琉璃も旦那様が居ないと、生きていけません……喬ちゃんに、は、早く妹か弟をだ、抱かせてあげたかったんです。なのに、そ、そんなことも知らないで……」
顔をおおう琉璃を再び抱き締める。
……孔明は知らない、琉璃の心中を。
知らないから言える……。
「それは、仕方ないよ。知らないことは誰だってある、私だって沢山知らない事がある。だから、泣かないで。一緒に知っていこう……ね?」
「……だ、旦那様……旦那様!」
琉璃は腕を伸ばし、夫に抱きつく。
「大好きです、大好き、大好き……旦那様……」
「私も大好きだし、愛してるよ。琉璃を」
妻の頭を撫でる、何度も……。
そんな他愛もない日々が、一瞬にして破壊されると……思わなかったのだ、孔明は。
翌日、孔明は喬を連れ琉璃の実家に顔を出し、塾に行くことになっていた。
琉璃は、微笑むと二人に手を振る。
「いってらっしゃい。旦那様、喬ちゃん。……気をつけて、下さいね? 無茶は駄目ですよ」
何時もなら言わない台詞に、この時気づけば防げたのだろうか……。
この日、黄琉璃はいなくなった。
ごく日常の日々が当たり前のように過ぎていく。
しかし、孔明が気づくと、琉璃は哀しげな顔でぼんやりと外を見つめることが多くなっていた。
何度か、
「どうしたの? 何かあったの?」
と、問いかけるのだが、はっと我に返り、
「いえ、元直(げんちょく)お兄様が出仕されているとは思わなかったので、ビックリしました。最近お会いしていなかったのは、出仕(しゅっし)されていたからだったのですね?」
その言葉に孔明も頷く。
「そうだねぇ、最近元直兄に会っていないなとは思っていたけれど、出仕しているとは思ってもいなかったよ。まぁ、兄は今まで苦労を掛けた母上や弟どのに楽をさせたいと、いつも言われていたから……」
「でも、どういう経緯でそ、その劉皇叔さまと言う方の元に行かれたのでしょう……も、もしかして……」
琉璃は何故か不安そうな顔をする。
「……もしかしなくても、季常に幼常が関わった可能性は高いし、否定しないよ。私も」
妻を抱き締め、安心させるように頭を撫でる。
「季常ならどんな事でもする。でも、元直兄は大丈夫。あぁ見えて強い信念を持っている。それに、何かあったら相談に来るよ」
「そ、そうですよね……旦那様」
「それよりも、琉璃の方こそ大丈夫? 無理はダメだよ? 疲れたら休むこと。それでなくても、最近せかせか動き回って、その上私や喬の世話までしてるんだから」
耳元に囁く。
「子供はもっと後でも良いんだよ? 今欲しいと思っても、生まれるのは十月後なんだから……」
「えっ! そ、そうなのですか?」
顔を上げてビックリした顔をする琉璃に、孔明は噴き出すのをこらえ告げる。
「そうだよ。すぐには生まれないよ。母親……つまり琉璃のお腹の中でゆっくり成長して、月が満ちれば生まれるの。碧樹どのだって、玉音だって、大きなお腹をしてたでしょう?」
「……そ、そんな……」
悲壮感を漂わせた琉璃に、孔明は微笑む。
「大丈夫だよ。琉璃のお腹が大きくなっても、私が傍に居るからね?」
一瞬瞳の奥に暗い影のようなものがよぎったが、すぐに瞳に涙を浮かべ笑いかける。
「はい。居て下さいね……傍に居て、下さいね……」
ポロポロと零れ落ちる涙を見て、孔明はぎょっとする。
「りゅ、琉璃? ど、どうしたの? そ、傍に私が居るのは嫌? そ、そんなの困る! 私は琉璃が居ないと……」
「りゅ、琉璃も旦那様が居ないと、生きていけません……喬ちゃんに、は、早く妹か弟をだ、抱かせてあげたかったんです。なのに、そ、そんなことも知らないで……」
顔をおおう琉璃を再び抱き締める。
……孔明は知らない、琉璃の心中を。
知らないから言える……。
「それは、仕方ないよ。知らないことは誰だってある、私だって沢山知らない事がある。だから、泣かないで。一緒に知っていこう……ね?」
「……だ、旦那様……旦那様!」
琉璃は腕を伸ばし、夫に抱きつく。
「大好きです、大好き、大好き……旦那様……」
「私も大好きだし、愛してるよ。琉璃を」
妻の頭を撫でる、何度も……。
そんな他愛もない日々が、一瞬にして破壊されると……思わなかったのだ、孔明は。
翌日、孔明は喬を連れ琉璃の実家に顔を出し、塾に行くことになっていた。
琉璃は、微笑むと二人に手を振る。
「いってらっしゃい。旦那様、喬ちゃん。……気をつけて、下さいね? 無茶は駄目ですよ」
何時もなら言わない台詞に、この時気づけば防げたのだろうか……。
この日、黄琉璃はいなくなった。
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