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わたくしは、誰なのでしょう?
かわいいかわいいかわいい……延々続く……ちぃちゃん目線
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5日ほど経った。
思ったよりも子供達が落ち着いてきていたのと、日向夏が少しお疲れモードのため、
「旦那が仕事で留守最高!」
と言いながら、荷物を持って現れたのは日向夏の妹の月歩姉。
数日泊まりで手伝いに来てくれたらしい。
俺と日向夏は4歳の歳の差がある姉さん女房で、月歩姉は、俺と二つ違い。
実際は男勝りで、騎士団に入団したいと思っていた月歩姉はかなり強い。
でも、じい様が騎士見習いは許したけれど、騎士になるのは認めなかった。
少々気性は荒い……男言葉に、普段から男装、攻撃は問答無用に急所一撃……だが、彩映の元親のように素行が悪かったわけではなく、元々姉妹でも1番の美貌を持っていた上に無意識に魅了する、魔眼もちだったからである。
小さい頃から何度も誘拐され、幼女趣味の変態に襲われて、家族や数えるほどの幼馴染以外口を聞かないほど人間不信になり、誘拐されないように、身体を鍛え、男のように振る舞うようになった。
しかし、本人の思いとは裏腹に、同性異性関係なくモテまくり、女性には優しく諭すが、男どもを叩きのめし、蹴散らしてきた。
騎士になるつもりだったのも、フェミニストとして女性を守るためだったが、垂れ流す魅了が問題となり、騎士の館の講師となった。
それに元々、日向夏と月歩姉は双子のように仲良しである。
下の2人とも少し歳が離れているだけに、余計に親友に近い関係だったりする。
ちなみに、数日前から旦那のラファ団長が仕事でいない那智は21才である。
那智も今、一緒に遊びにきている。
うん、那智は可愛い。
ラファ兄が溺愛するのは当然だろう。
「あの……ちぃちゃん。ラファさまが、これを渡してほしいって。お仕事から戻ったら、来るからって」
こちらを見上げ、差し出してきたのは、
「うわぁ……えぇぇ? 本当にいいの? ラファ兄のデザインで、那智手作りのリボンじゃない?」
「はい。編みました。えと、淡いピンクとブルーなのは、彩映ちゃんと姉さまにと思ったのです。こっちは、ミサンガです。おじいさまに伺ったのですが、願いを込めて手首や足首に結んで、いつも身につけておいて、切れると願いが叶うのだそうです。リボンは千夏ちゃんや風深ちゃんに恥ずかしいかもと思ったので」
「綺麗だね~あれ、三本……もしかして、俺にも?」
「はい。お仕事中にも目立たない色にと、制服の色に近いものになったのですが……は、恥ずかしいようでしたら……」
おずおずと下げようとした那智を抱き上げ、微笑む。
「ありがとう! すごく細かい編み方で、凝ってるし、綺麗。家族でお揃いなんて嬉しい」
「那智も、色違いのリボンなのです」
「本当だ~」
「月ちゃんと蘭ちゃんにもです。月ちゃんはラベンダー色で、蘭ちゃんはミントの色」
「ふふっ、それぞれ旦那の瞳の色か~」
俺は、那智には何故か子供達に接するのと同じ口調になってしまう。
これは歳の差もあるが、那智は人見知りで、普段……男どもと話す口調で話すと一度大泣きされたのだ。
そのため色々と研究、様子見を繰り返したところ、この喋り方に収まった。
うん、時々ラファ兄に嫉妬されるが、仕方ない。
那智は妹だけど半分娘なのだ。
そして、月歩姉を見ると、顔を歪め……妹の優しさを素直に取りたいのに、あの亭主の目の色と一緒とは……と内心歯噛みしている。
ちなみに、月歩姉の旦那は、今、南に護送中の男と幼馴染兼悪友だった仲。
昔はあいつと同じように、自分は長男で跡取りだから大丈夫とばかりに仕事に手抜きをし、父方の祖父に似たんだからいいと、女性と次々付き合って、チャラ男の代表とまで言われていた。
しかし、母方の従姉である月歩姉に一目惚れして、まじめに仕事をするなら結婚してやると言われて心を入れ替えた……まぁ、女遊びはやめたけど、時々ふざけるので、上司に当たる俺が殴り飛ばすのだが。
「でも、月歩姉のリボンの色は淡くて優しい色だね。あいつの目、もっときつい青紫だもん」
「あのね、今回の糸は、月ちゃんのために染色したの。濃い色は月ちゃん似合わないでしょう? ラファさまも、こっちがいいって」
「ラファ兄も那智も優しい……後でお礼を言っておかなきゃ」
「そういえば、千夏たちは?」
月歩姉が聞いてくる。
抱えていた荷物は、そっとテーブルの上に置いてだ。
「あ、あぁ、日向夏はちょっと疲れてるようだから、彩映と庭の日陰でお昼寝。ちゃんとメイドもいてくれるから大丈夫。2人は……あぁ、戻ってきたのか」
息子たちは……なんでアルベルトと来るんだ?
「父さん~! ベルにいちゃんが、なんか抱いてきた!」
「なんかきたって……何しにきた? しかも……それ、生き物の卵じゃん!」
「拾った」
腕に丸い未確認物体を抱いたアルベルトは、見えるように差し出す。
「彩映にあげる」
「ちょーっと待った!」
月歩が間に入る。
そして、臆することなく触り、まじまじとそれを見て……一応生物学の博士号を取得している……青ざめる。
「これ……ドラゴンの卵じゃん! しかも、卵の大きさ、どう見てもカラードラゴンの卵じゃん! しかも生きてる!」
「ゲッ!」
俺は那智を下ろし、子供達を引き寄せ3人を抱き、後ずさる。
カラードラゴンは、生態がほぼ確認している生き物の中で最大の生き物……生態のわかっていない、絶滅危惧種のブルードラゴンと、体が大きく草原で集団で暮らすホワイトドラゴン、母親を中心とした家族で暮らすブラックドラゴン、レッドドラゴンは4種類の中で小さい方になるが気性が激しく、深い谷の崖の上に住まいを作る。
ホワイトドラゴンは、一番この国でよくみられるドラゴン種。
国の西に広がる平原に暮らし、時々こちらの方に空を飛んでやってくる。
ほとんどの場合、卵を産む母竜だが、卵を子守竜と呼ばれる王都のそばの森に住まう別ドラゴンの種族に預ける。
その子守竜は愛情深く、成長するまで深い森の奥で幼体を隠すよう育てるので、昔は、幼体の見分けなどはわからなかったが、ここ数百年の研究でわかり始めているらしい……。
だが、卵や幼体なんて勝手に連れてきたら子守竜はおろか、その親がどうやってか匂いをたどりやってくる。
街なら、簡単にアパートメントを押しつぶし、小さい家なら、腕や翼で払い飛ばせる。
この屋敷でも……。
「こんな生きる破壊兵器拾うな! バカ~! 親を呼ぶだろう!」
「親も拾った」
もう終わった……遠い目をするしかない。
拾うってなんだよ……。
「王都に近いうちの領、ドラゴンいた。大怪我、血まみれ、腕と翼折れてる。これ産んだ。子守竜預けられない」
「だからって、なんでうちの子に!」
「彩映、親代わり」
こめかみをぐりぐりしていた月歩姉が、
「……つまり、ベルが言いたいのは、大怪我をしていた母ドラゴンを保護したら、卵が生まれた。人間がそばにいるから、子守竜を探して預けるのは多分無理。大怪我している母ドラゴンは治療中で、卵を温められないから、ここで温めよう。ついでに、多分卵が割れて、目を開けたら、最初に見た存在を親、もしくは主人と認識する。彩映のそばに置いておいたら、最強の護衛が生まれる……とでもいうのか?」
「……(コクリッ)」
「その通り、くらい言え!」
「疲れた……はい」
ベッドの上に、卵を置く。
すると、コロコロと転がり始める。
「うおぅ!」
ベッドの上を縦横無尽……なぜか落ちない……に動く卵に、月歩姉が慌てて毛布を巻きつける。
ようやく鎮座した卵は、細い部分を上にして落ち着く。
卵の大きさは俺の頭より大きく、殻の色は深いブルーで、それよりも濃いブルーの縞模様ができている。
「おかしいな……普通ホワイトドラゴンの殻の色は白なんだが……」
「そういえば、近い色……白い殻に薄い青のシマが出ていたのが、ブルードラゴンとホワイトドラゴンのハーフの卵じゃありませんでしたか?」
「それは、二つ目ので、一つ目……カリュスレード様の卵は、淡いブルーに、濃いブルーのラインが緩やかに踊っていて……映像をみたおじいさまは『青い龍が空に登っているようだ』と感激していた」
実物は見ていないが、映像に残っている。
まぁ、最近……彩映が前に改良したものの方が、色もいいし画像も鮮明だが、それでも、当時の最先端の画像ではそうだった。
ちなみに、ハーフドラゴンは2頭いて、その龍の舞う卵から生まれたのが、カリュスレードというお兄ちゃんドラゴン……父親の血が強く、ブルードラゴンとしてゆっくり成長中。
妹の方の卵がホワイトドラゴンの卵に似ていて、産まれたら、ほぼホワイトドラゴンとして育ち、兄の大きさを抜いて一気に成人した。
プルプル怯える那智に、俺は俺でどうすればいいかわからず、卵を見つめているしかない。
すると、
「どうしたの?」
眠そうに目を擦る彩映を抱きながら、部屋に入ってくる日向夏。
後ろには毛布と、彩映のうさぎさん、ティーセット、筆記用具を手についてくる4人のメイド。
……4人とも、彩映付きの優秀なメイドたち。
そのうち2人は、護衛も兼ねているくらいだ。
「あっ、日向夏!」
月歩姉が目を輝かせ駆け寄る。
月歩姉は、日向夏をはじめとする姉妹がとてつもなく大好きだ。
両親も尊敬しているが、仕事で忙しく、姉妹で庇いあって成長したせいだろうとも思う。
おじいさまが月歩姉が騎士に向かないと言ったのは、日向夏や妹たちが悪いと言ったら正しいことでも悪いというほど、溺愛以上の崇拝していたからだ。
一応、騎士は国、もしくは主人に忠誠を誓うが、それは盲目的に従うことはいけない。
主人や国の方針が正しくなければ、それを口にして窘める、考えを改めることを伝える。
命をかけて仕える主人や自らのことも、時には第三者の目で見られるかどうか必要なのだ。
その部分以外は及第点だったものの、無意識に使う魅了と、盲目的に突撃する性格に、騎士になることは諦めた。
「まぁ、月歩に那智。来ていたのね、気がつかなくてごめんなさい」
そう言いながら、彩映をそっと下ろす。
「いいんだ。そして、久しぶり! 彩映。月歩姉ちゃんだよ」
声をかけるが、母親のスカートにくっつき、キョトンとする彩映に慌て、キョロキョロすると、メイドの一人がスッと筆記用具を差し出す。
「大きめに書いて差し上げてください」
「あぁ、ありがとう」
月歩姉は左利き、綺麗な文字を書く。
『いろはのママの妹の月歩だよ』
『よろしくね?』
ガサツそうでいて、フェミニストな月歩姉は、そっと近づき、自分の鼻をさして、月歩という漢字を示す。
彩映は目をキラキラさせ、ぴょこんと頭を下げる。
「月歩ちゃん! よろしくお願いします」
その様子に……やっぱり可愛すぎたな……デレデレと笑い、今度は、後ろを向いて手招きし、ちょこちょこ近づいた那智に、自分の書いたボードを持たせ見せる。
『いろはのママの妹の那智だよ』
『よろしくねって。照れ屋さんなんだ』
「那智ちゃん? いろはです。よろしくお願いします」
彩映は那智に頭を下げる。
そして、日向夏を見上げ満面の笑顔で言った。
「ママ、月歩ちゃんと那智ちゃん、優しくてかっこよくて可愛いね! いろは、大好き!」
「ママも大好きよ」
「か、可愛い! 可愛い! 可愛い! 尊い!」
完全に月歩姉が壊れた。
最愛の姉のふわふわした優しい愛情あふれた笑顔に、自分の姪の破壊的に愛らしい姿に、涙を流しながら鼻を押さえている。
「あぁぁ……日向夏が母神! もしくは精霊女王か……そして、いろはは妖精か……羽をデザインさせて着せたい……」
「月ちゃん、大丈夫?」
那智は心配そうに見るが、大きくコクコク頷いた月歩が、思い出したように、持ってきた荷物に駆け寄ると、ガサガサと中身を探り、
「こ、これだ! レーヴェ兄……旦那の父上が俺にくれたんだが、うちは息子ばかりだしと、相談した。旦那のおばあさまのもので、少し形は古いらしいが、可愛いと思うんだ……どう?」
近づいてきて渡された箱を開け、愕然とする。
恐ろしい、高級品第二弾だ!
「はぁぁ? これは確か、フェリスタのティアラじゃないか! これ、涙水晶が散りばめられてる。これだけあったらひと財産!」
「そうなのか? 俺はこういうのの価値がわからん。綺麗なものは綺麗くらいだ。レーヴェ兄に譲っていいか相談したら、『いいんじゃない? 使ってもらえるんだから、母も喜んでるだろう』って言ってた。で、こっちは守り刀。元々、グランディアでは、子供が生まれたら魔除けになるものを身に付けさせる。男は確か弓だったかな? これは、うちのじい様が『急いで持って行きなさい! これ以上危険なことが起きては、私は……私は腹を斬る!』って、サメザメと泣いていた……『今度の長期休暇には、絶対戻ってくるから!』とか『今度は、シチゴサン』とか言ってたなぁ。『その時に女神に喜んでもらえなければ、切腹しかない!』とも……」
「縁起でもない……」
それに、ハラキリ、切腹は同じ意味だぞ。
青ざめつつ受け取るのは守り刀。
錦の袋に収められている。
ティアラは箱から取り出され、月歩姉がニコニコと彩映の頭に乗せ、
「おぉぉ! 可愛い! 尊い! ちぃ! 今度お披露目の時、このティアラにツインテールでお願いします!」
と手を合わせて拝み出す。
「マジか……うーん……この間、リスティル陛下にこれを貰ったんだが……」
ピンクダイヤモンドとパパラチアサファイアのプチネックレスを見せると、
「うはぁぁ! 似合う! 似合う! 尊い! 二着でもいいと思う! こ、今度、デザイン見せて! なんなら俺の全財産とバカ亭主のへそくりを持ってくるから!」
「いらないよ! あ、エルのだけ貰う……」
「やった! なんならこっちのハーブで染めた絹織物とか持ってくる! 銀竜糸の織物ほど高価じゃないが、いいのがあるんだ!」
「フェリスタの絹織物は、高級品じゃないか!」
俺と月歩姉、日向夏と那智、息子たちが話を始め、ついつい……目を離していた。
アルベルトが彩映の手を引き、ベッドに近付いて、
「おっきい卵ちゃん!」
目を見開いた彩映が、手を伸ばし……。
思ったよりも子供達が落ち着いてきていたのと、日向夏が少しお疲れモードのため、
「旦那が仕事で留守最高!」
と言いながら、荷物を持って現れたのは日向夏の妹の月歩姉。
数日泊まりで手伝いに来てくれたらしい。
俺と日向夏は4歳の歳の差がある姉さん女房で、月歩姉は、俺と二つ違い。
実際は男勝りで、騎士団に入団したいと思っていた月歩姉はかなり強い。
でも、じい様が騎士見習いは許したけれど、騎士になるのは認めなかった。
少々気性は荒い……男言葉に、普段から男装、攻撃は問答無用に急所一撃……だが、彩映の元親のように素行が悪かったわけではなく、元々姉妹でも1番の美貌を持っていた上に無意識に魅了する、魔眼もちだったからである。
小さい頃から何度も誘拐され、幼女趣味の変態に襲われて、家族や数えるほどの幼馴染以外口を聞かないほど人間不信になり、誘拐されないように、身体を鍛え、男のように振る舞うようになった。
しかし、本人の思いとは裏腹に、同性異性関係なくモテまくり、女性には優しく諭すが、男どもを叩きのめし、蹴散らしてきた。
騎士になるつもりだったのも、フェミニストとして女性を守るためだったが、垂れ流す魅了が問題となり、騎士の館の講師となった。
それに元々、日向夏と月歩姉は双子のように仲良しである。
下の2人とも少し歳が離れているだけに、余計に親友に近い関係だったりする。
ちなみに、数日前から旦那のラファ団長が仕事でいない那智は21才である。
那智も今、一緒に遊びにきている。
うん、那智は可愛い。
ラファ兄が溺愛するのは当然だろう。
「あの……ちぃちゃん。ラファさまが、これを渡してほしいって。お仕事から戻ったら、来るからって」
こちらを見上げ、差し出してきたのは、
「うわぁ……えぇぇ? 本当にいいの? ラファ兄のデザインで、那智手作りのリボンじゃない?」
「はい。編みました。えと、淡いピンクとブルーなのは、彩映ちゃんと姉さまにと思ったのです。こっちは、ミサンガです。おじいさまに伺ったのですが、願いを込めて手首や足首に結んで、いつも身につけておいて、切れると願いが叶うのだそうです。リボンは千夏ちゃんや風深ちゃんに恥ずかしいかもと思ったので」
「綺麗だね~あれ、三本……もしかして、俺にも?」
「はい。お仕事中にも目立たない色にと、制服の色に近いものになったのですが……は、恥ずかしいようでしたら……」
おずおずと下げようとした那智を抱き上げ、微笑む。
「ありがとう! すごく細かい編み方で、凝ってるし、綺麗。家族でお揃いなんて嬉しい」
「那智も、色違いのリボンなのです」
「本当だ~」
「月ちゃんと蘭ちゃんにもです。月ちゃんはラベンダー色で、蘭ちゃんはミントの色」
「ふふっ、それぞれ旦那の瞳の色か~」
俺は、那智には何故か子供達に接するのと同じ口調になってしまう。
これは歳の差もあるが、那智は人見知りで、普段……男どもと話す口調で話すと一度大泣きされたのだ。
そのため色々と研究、様子見を繰り返したところ、この喋り方に収まった。
うん、時々ラファ兄に嫉妬されるが、仕方ない。
那智は妹だけど半分娘なのだ。
そして、月歩姉を見ると、顔を歪め……妹の優しさを素直に取りたいのに、あの亭主の目の色と一緒とは……と内心歯噛みしている。
ちなみに、月歩姉の旦那は、今、南に護送中の男と幼馴染兼悪友だった仲。
昔はあいつと同じように、自分は長男で跡取りだから大丈夫とばかりに仕事に手抜きをし、父方の祖父に似たんだからいいと、女性と次々付き合って、チャラ男の代表とまで言われていた。
しかし、母方の従姉である月歩姉に一目惚れして、まじめに仕事をするなら結婚してやると言われて心を入れ替えた……まぁ、女遊びはやめたけど、時々ふざけるので、上司に当たる俺が殴り飛ばすのだが。
「でも、月歩姉のリボンの色は淡くて優しい色だね。あいつの目、もっときつい青紫だもん」
「あのね、今回の糸は、月ちゃんのために染色したの。濃い色は月ちゃん似合わないでしょう? ラファさまも、こっちがいいって」
「ラファ兄も那智も優しい……後でお礼を言っておかなきゃ」
「そういえば、千夏たちは?」
月歩姉が聞いてくる。
抱えていた荷物は、そっとテーブルの上に置いてだ。
「あ、あぁ、日向夏はちょっと疲れてるようだから、彩映と庭の日陰でお昼寝。ちゃんとメイドもいてくれるから大丈夫。2人は……あぁ、戻ってきたのか」
息子たちは……なんでアルベルトと来るんだ?
「父さん~! ベルにいちゃんが、なんか抱いてきた!」
「なんかきたって……何しにきた? しかも……それ、生き物の卵じゃん!」
「拾った」
腕に丸い未確認物体を抱いたアルベルトは、見えるように差し出す。
「彩映にあげる」
「ちょーっと待った!」
月歩が間に入る。
そして、臆することなく触り、まじまじとそれを見て……一応生物学の博士号を取得している……青ざめる。
「これ……ドラゴンの卵じゃん! しかも、卵の大きさ、どう見てもカラードラゴンの卵じゃん! しかも生きてる!」
「ゲッ!」
俺は那智を下ろし、子供達を引き寄せ3人を抱き、後ずさる。
カラードラゴンは、生態がほぼ確認している生き物の中で最大の生き物……生態のわかっていない、絶滅危惧種のブルードラゴンと、体が大きく草原で集団で暮らすホワイトドラゴン、母親を中心とした家族で暮らすブラックドラゴン、レッドドラゴンは4種類の中で小さい方になるが気性が激しく、深い谷の崖の上に住まいを作る。
ホワイトドラゴンは、一番この国でよくみられるドラゴン種。
国の西に広がる平原に暮らし、時々こちらの方に空を飛んでやってくる。
ほとんどの場合、卵を産む母竜だが、卵を子守竜と呼ばれる王都のそばの森に住まう別ドラゴンの種族に預ける。
その子守竜は愛情深く、成長するまで深い森の奥で幼体を隠すよう育てるので、昔は、幼体の見分けなどはわからなかったが、ここ数百年の研究でわかり始めているらしい……。
だが、卵や幼体なんて勝手に連れてきたら子守竜はおろか、その親がどうやってか匂いをたどりやってくる。
街なら、簡単にアパートメントを押しつぶし、小さい家なら、腕や翼で払い飛ばせる。
この屋敷でも……。
「こんな生きる破壊兵器拾うな! バカ~! 親を呼ぶだろう!」
「親も拾った」
もう終わった……遠い目をするしかない。
拾うってなんだよ……。
「王都に近いうちの領、ドラゴンいた。大怪我、血まみれ、腕と翼折れてる。これ産んだ。子守竜預けられない」
「だからって、なんでうちの子に!」
「彩映、親代わり」
こめかみをぐりぐりしていた月歩姉が、
「……つまり、ベルが言いたいのは、大怪我をしていた母ドラゴンを保護したら、卵が生まれた。人間がそばにいるから、子守竜を探して預けるのは多分無理。大怪我している母ドラゴンは治療中で、卵を温められないから、ここで温めよう。ついでに、多分卵が割れて、目を開けたら、最初に見た存在を親、もしくは主人と認識する。彩映のそばに置いておいたら、最強の護衛が生まれる……とでもいうのか?」
「……(コクリッ)」
「その通り、くらい言え!」
「疲れた……はい」
ベッドの上に、卵を置く。
すると、コロコロと転がり始める。
「うおぅ!」
ベッドの上を縦横無尽……なぜか落ちない……に動く卵に、月歩姉が慌てて毛布を巻きつける。
ようやく鎮座した卵は、細い部分を上にして落ち着く。
卵の大きさは俺の頭より大きく、殻の色は深いブルーで、それよりも濃いブルーの縞模様ができている。
「おかしいな……普通ホワイトドラゴンの殻の色は白なんだが……」
「そういえば、近い色……白い殻に薄い青のシマが出ていたのが、ブルードラゴンとホワイトドラゴンのハーフの卵じゃありませんでしたか?」
「それは、二つ目ので、一つ目……カリュスレード様の卵は、淡いブルーに、濃いブルーのラインが緩やかに踊っていて……映像をみたおじいさまは『青い龍が空に登っているようだ』と感激していた」
実物は見ていないが、映像に残っている。
まぁ、最近……彩映が前に改良したものの方が、色もいいし画像も鮮明だが、それでも、当時の最先端の画像ではそうだった。
ちなみに、ハーフドラゴンは2頭いて、その龍の舞う卵から生まれたのが、カリュスレードというお兄ちゃんドラゴン……父親の血が強く、ブルードラゴンとしてゆっくり成長中。
妹の方の卵がホワイトドラゴンの卵に似ていて、産まれたら、ほぼホワイトドラゴンとして育ち、兄の大きさを抜いて一気に成人した。
プルプル怯える那智に、俺は俺でどうすればいいかわからず、卵を見つめているしかない。
すると、
「どうしたの?」
眠そうに目を擦る彩映を抱きながら、部屋に入ってくる日向夏。
後ろには毛布と、彩映のうさぎさん、ティーセット、筆記用具を手についてくる4人のメイド。
……4人とも、彩映付きの優秀なメイドたち。
そのうち2人は、護衛も兼ねているくらいだ。
「あっ、日向夏!」
月歩姉が目を輝かせ駆け寄る。
月歩姉は、日向夏をはじめとする姉妹がとてつもなく大好きだ。
両親も尊敬しているが、仕事で忙しく、姉妹で庇いあって成長したせいだろうとも思う。
おじいさまが月歩姉が騎士に向かないと言ったのは、日向夏や妹たちが悪いと言ったら正しいことでも悪いというほど、溺愛以上の崇拝していたからだ。
一応、騎士は国、もしくは主人に忠誠を誓うが、それは盲目的に従うことはいけない。
主人や国の方針が正しくなければ、それを口にして窘める、考えを改めることを伝える。
命をかけて仕える主人や自らのことも、時には第三者の目で見られるかどうか必要なのだ。
その部分以外は及第点だったものの、無意識に使う魅了と、盲目的に突撃する性格に、騎士になることは諦めた。
「まぁ、月歩に那智。来ていたのね、気がつかなくてごめんなさい」
そう言いながら、彩映をそっと下ろす。
「いいんだ。そして、久しぶり! 彩映。月歩姉ちゃんだよ」
声をかけるが、母親のスカートにくっつき、キョトンとする彩映に慌て、キョロキョロすると、メイドの一人がスッと筆記用具を差し出す。
「大きめに書いて差し上げてください」
「あぁ、ありがとう」
月歩姉は左利き、綺麗な文字を書く。
『いろはのママの妹の月歩だよ』
『よろしくね?』
ガサツそうでいて、フェミニストな月歩姉は、そっと近づき、自分の鼻をさして、月歩という漢字を示す。
彩映は目をキラキラさせ、ぴょこんと頭を下げる。
「月歩ちゃん! よろしくお願いします」
その様子に……やっぱり可愛すぎたな……デレデレと笑い、今度は、後ろを向いて手招きし、ちょこちょこ近づいた那智に、自分の書いたボードを持たせ見せる。
『いろはのママの妹の那智だよ』
『よろしくねって。照れ屋さんなんだ』
「那智ちゃん? いろはです。よろしくお願いします」
彩映は那智に頭を下げる。
そして、日向夏を見上げ満面の笑顔で言った。
「ママ、月歩ちゃんと那智ちゃん、優しくてかっこよくて可愛いね! いろは、大好き!」
「ママも大好きよ」
「か、可愛い! 可愛い! 可愛い! 尊い!」
完全に月歩姉が壊れた。
最愛の姉のふわふわした優しい愛情あふれた笑顔に、自分の姪の破壊的に愛らしい姿に、涙を流しながら鼻を押さえている。
「あぁぁ……日向夏が母神! もしくは精霊女王か……そして、いろはは妖精か……羽をデザインさせて着せたい……」
「月ちゃん、大丈夫?」
那智は心配そうに見るが、大きくコクコク頷いた月歩が、思い出したように、持ってきた荷物に駆け寄ると、ガサガサと中身を探り、
「こ、これだ! レーヴェ兄……旦那の父上が俺にくれたんだが、うちは息子ばかりだしと、相談した。旦那のおばあさまのもので、少し形は古いらしいが、可愛いと思うんだ……どう?」
近づいてきて渡された箱を開け、愕然とする。
恐ろしい、高級品第二弾だ!
「はぁぁ? これは確か、フェリスタのティアラじゃないか! これ、涙水晶が散りばめられてる。これだけあったらひと財産!」
「そうなのか? 俺はこういうのの価値がわからん。綺麗なものは綺麗くらいだ。レーヴェ兄に譲っていいか相談したら、『いいんじゃない? 使ってもらえるんだから、母も喜んでるだろう』って言ってた。で、こっちは守り刀。元々、グランディアでは、子供が生まれたら魔除けになるものを身に付けさせる。男は確か弓だったかな? これは、うちのじい様が『急いで持って行きなさい! これ以上危険なことが起きては、私は……私は腹を斬る!』って、サメザメと泣いていた……『今度の長期休暇には、絶対戻ってくるから!』とか『今度は、シチゴサン』とか言ってたなぁ。『その時に女神に喜んでもらえなければ、切腹しかない!』とも……」
「縁起でもない……」
それに、ハラキリ、切腹は同じ意味だぞ。
青ざめつつ受け取るのは守り刀。
錦の袋に収められている。
ティアラは箱から取り出され、月歩姉がニコニコと彩映の頭に乗せ、
「おぉぉ! 可愛い! 尊い! ちぃ! 今度お披露目の時、このティアラにツインテールでお願いします!」
と手を合わせて拝み出す。
「マジか……うーん……この間、リスティル陛下にこれを貰ったんだが……」
ピンクダイヤモンドとパパラチアサファイアのプチネックレスを見せると、
「うはぁぁ! 似合う! 似合う! 尊い! 二着でもいいと思う! こ、今度、デザイン見せて! なんなら俺の全財産とバカ亭主のへそくりを持ってくるから!」
「いらないよ! あ、エルのだけ貰う……」
「やった! なんならこっちのハーブで染めた絹織物とか持ってくる! 銀竜糸の織物ほど高価じゃないが、いいのがあるんだ!」
「フェリスタの絹織物は、高級品じゃないか!」
俺と月歩姉、日向夏と那智、息子たちが話を始め、ついつい……目を離していた。
アルベルトが彩映の手を引き、ベッドに近付いて、
「おっきい卵ちゃん!」
目を見開いた彩映が、手を伸ばし……。
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