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わたくしは、誰なのでしょう?

世界や種族の違いを思い知らされていますわ……マレーネ目線

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 不意にヴァーソロミュー様がこちらを見ました。

「今のことは誰にも言わないようにね。それよりも、君の元いた世界は聞く気はないけれど、同族が生きている可能性を聞きたい」

 真剣な眼差しに、小さく首を振った。

「分かりませんわ。卵を盗まれて守役が二頭、大怪我を負ったことは確かです。そのうちの一頭が夫。もう一頭は老齢の義父にあたります。逃げろと言われて逃げました。他の親族は分散して生活しています。守役は代々わたくしの夫の一族。義母はちょうど離れたところに住む、親族の元に行っていました」
「卵はいくつ盗まれたの? 色は?」
「いくつか……正確な数は聞いていませんわ。それに、一回に産む卵は一つか二つです。わたくし以外で卵が生まれたつがいは確か五つです。わたくしは一つ、そして二つのつがいはすでに生まれ、幼体は義母と別のところに移動していたので、無事だと思うのですが……色? 普通、薄青に少し濃い青の縞があるはずですが?」
「私の卵は一色だったよ。養父である父が言っている。青一色に、銀色の粒がまるで夜空に星が煌めいているようだったって。もう一つ、王宮の奥に私の弟妹になる卵がある。それも、少し渦のような模様はあっても、色も似ていると言っていた」
「卵がまだあるのですか? いつの卵です?」

 驚く。
 ヴァーソロミュー様は、約1800歳。
 わたくしたち、異世界に逃れた一族ですら、長くて500年弱。
 その4倍近く生きているのだ。

「私が生まれる前から一緒にいたよ。で、私の卵を養母が先に見つけて、『わーい! 卵食べる~!』って愛刀のファルシオンで遠慮なくぶん殴ったらしくて、私は無事だったけど、ヒビというか、大きな穴が開いたんだよね~。で、出てきた私を慌てて養父が回収してくれたと」
「えぇぇぇ! 割ろうとした?」

 目を見開き、声を上げた。
 一瞬ギュッと腕の力を強くする。

「……ふぅっ……? いやぁ……」
「あぁぁ! ごめんなさい。彩映、ねんねしてね」

 腕の中で、身体をくねらせる彩映に慌てて力を緩め、そっとあやすと頬をわたくしの胸にピタッとくっつけて、すやすやと寝入る。

 あぁぁ……可愛い子。
 わたくしの子も可愛いけれど、この子は特別ね。
 それよりも、ミスリルや、青の金剛石とも言われるドラゴンの卵に、そんな力技をする人間がいるなんて……まさしく人外だわ。
 もしかして、王もするのではないでしょうね?

 ついチラッと見ると、慌てて首を振る。

「俺はしないよ? そんな卵にするなんて……まぁ一度、化石になってるかもしれないから、ヴァーロの弟妹の卵の殻、壊してよ。面白そうだからって、うちのへーか……実父に言われたことはあるけど、恐ろしいし、もし誤って二つに断ち切ったら困るもん」
「二つにって、できるの?」
「サファイアくらいなら、斬れるようになった」
「サファイアは、ダイヤモンドの次に硬いものでしょう?」
「ダイヤモンドは、斬るんじゃなく一回ひどく粉砕させたからしないよ。もったいないってめちゃくちゃ怒られた。小さくなったダイヤモンドは、1ctくらいのサイズが散らばっちゃって、集めるのも大変だったよ。飛び散っちゃったし」

 これ、その時の残骸。

 示す剣帯の金具には、品よくダイヤモンドが象嵌ぞうがんされている。
 規格外だわ……わたくしたちですら、大きさと威嚇で敵を退けるくらいで、そんな硬いものを壊すなんて考えないわ。
 それよりもと言うか、話を逸らせたいわ。

「ヴァーソロミューさまは今お元気ですけど、その時はどうでした?」
「あぁ、未熟児? っていうのかな? 確か君の子供より二回りは小さくて、骨格もしっかりしていなくて、しばらく目も開かなかったらしいよ。だから養父が皮袋に入れた私を抱いて、少し大きくなったら背負って過ごしてたから。で、うちの長男は100歳くらいだよ? 外見年齢は、人間の歳で2歳くらいになってるかな? あ、まだはいはいだからもっと小さいかも。娘が、このアルドリーと同じくらいだけど、約50歳で成人って竜族では早いのかな?」
「……えっ? ヴァーソロミューさまの上のお子様は、100年生きていらっしゃるのですか? わたくしより年上ですわ」
「えぇぇぇ! 嘘! なんで? ハーフだからまだ早いんだと思ってた。私は成人まで500年前後かかったよ?」

 目を見開き呟くヴァーソロミューさまの横で、

「もしかして、ヴァーロ。200年以上生まれるの早かったのかも」
「じゃぁ、カリュは? カリュは、卵の時間は200年くらいだったよ? 下の子は逆に50年だったから嫌に短いなぁと思ってたんだけど」
「普通、成人は30年です。それで、卵は30~40年くらいです」
「嘘~じゃぁ、うちの子……それ以前の私は何? ついでに1800年も寝っぱなしの、弟妹は? もしかして、中でやっぱり化石? うわぁ……うちの父の怨念に染まってたりして」
「怨念……えっ? ヴァーソロミューさまのお父様が、生きていらっしゃるのですか?」

わたくしの問いに、人の王は手を振る。

「ううん。王宮の奥に私の住む最奥……宮があるんだけど、その奥にヴァーロのお父さんが石化して封じられてる。その同じ空間に卵がいるよ」
「石化……」

 ゾッとする。
 もしかして口伝で伝わる最強の王竜……妻や仲間を殺され、卵を奪われ、残った一族を最後の力で異空間に送り込んだ存在……その人は、わたくしの先祖よりも長い時を生き、身体は一回りも二回りも大きく、神に近い存在と竜族が首をたれ、崇められていた……。

「もしかして、お父さまはエーレンフリートさまですか?」
「そう。聞いたことあるの?」
「向こうでは神とも呼ばれていましたわ。わたくしたちに比べ、お身体が大きかったとも、わたくしの曽祖父も幼体時代でしたが、その両親より大きかったと言っておりましたわ」
「……えっ? 大きかった? なんで? 君の一族って小さいの? 君ってまだ大きくなるでしょう?」
「いえ、わたくしはもう大人ですから、大きくなりませんわよ。これでも一族で大きい方ですもの」

 そうなのですわ……わたくしは同族の中でも大きく、女性の中では一番大きかったのですわ。
 ですので、デカイとかデブとか……あぁぁ! 許せない。
 これでも食事を少なくして、ダイエットにも励んでいたのに、当たり前ですが骨格が小さくなるわけもなく、逆にやつれ果て、親や夫にもうやめてくれと言われたことは懐かしい思い出ですわ。

「えっ? うちの奥さんより小さいじゃない。うちの奥さん、君より一回り大きいよ? ホワイトドラゴンだからそれが普通」
「ホワイトドラゴン種はカラードラゴン種でも古代種ですから、大きいはずですわ。元々、風の神と婚姻した竜族はホワイトドラゴン種で、二人の間に生まれたのが、風の精霊王と青の竜であるエーレンフリート様です」
「……は? それ、初めて聞いた」
「あら? 知りませんでしたの? 同じブルードラゴンと分類されますが、正確にはエーレンフリート様とヴァーソロミュー様は青の竜族。見た目は似ていますが、わたくしとは別種ですわ」

 あら、珍しい表情ですこと。

「先から、変だなと思ったのですわ。成長がわたくしたちの約20倍も遅いのですもの。でも、それでも、生まれていないご弟妹のお休み具合は、ねぼすけさんですね」
「私が、ブルードラゴンじゃない……ガーン……じゃぁ、私ってどれだけ生きるの? 君の一族の最高齢はいくつ?」
「約500年でしょうか?」
「……あと8000年も生きるのか……ガーン……そういえば、毎年まだ体長が微妙に成長中……」
「いいなぁ……ヴァーロ。まだ伸びるの? 俺、もうちょっと身長欲しかったのになぁ。もう伸びないし、ちぃにも抜かれて、見下ろされてるんだよ~いいなぁ」

 王は心底羨ましげにヴァーソロミューさまと、少し離れたところでお話しされている彩映のパパを見ていますわ。
 王は、もしかして、少し天然さんですか?
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