メモリーズ・メロディーズ

翼 翔太

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二、思い出語り

思い出語り2

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 律にクリームの話をするようになって一週間。この日お父さんはいつもより早く帰ってきて、ばんごはんを食べる前に修想館に行くことにした。
 修想館では律とイオが待っていた。応接間に律がコーヒーとココアを運んでくると、クリームの首輪をテーブルの上に置いた。
「ご確認ください」
 真ん中にすわっていたかなでが首輪を受けとった。赤い首輪は長い間使っていたため、ふちがはげている。
「首輪にふれたまま目を閉じて、耳をすましてください」
 お父さんとお母さんが首輪に手を乗せた。三人は律に言われたとおりにした。
 まず耳から聞こえてきたのは子猫の鳴き声だった。まぶたの裏に見えたのはまだまだ小さなクリームだった。
 最初の思い出は若いころのお父さんとお母さんと、クリームの出会いだった。お父さんがドアを開けると、風のようにすばやく子猫のころのクリームが、室内に入ってきた。それからのお父さんとお母さんとクリームの暮らしが、かなでの目の前で繰り広げられた。
 その次に出てきたのはかなでが赤ちゃんのころのことだった。かなではまだベビーベッドに横たわっていた。クリームはそんなかなでが気になるのか近づいてはすぐにはなれ、をくり返していた。かなではあうあうという声で赤ちゃんながらにクリームに話しかけた。
 すわれるようになったかなでのそばに丸くなったクリームがいた。しっぽをゆったりゆらしていると、かなでがクリームのしっぽをつかんだ。クリームはびっくりしていたが、ぐっとたえていた。
 次々にクリームとすごした日々が自然と思い出せた。思い出すクリームの姿はどれも元気だった。いっしょに食事をしたり、かなでがピアノをひいていると歌うように、みゃおみゃおと鳴いた。そんな小さな合唱会がかなでは楽しかった。
 曲が終わりに近づいてきた。最後に思い出したのは特別なことではなかった。毎日のように見ていたクリームの姿だった。くるりとかなでのほうをふり返った。
「にゃあーんっ」
 その鳴き声は元気だったころとまったく同じだった。そしてかなでの頭の中のクリームはすうっと姿を消した。
 楽しかった日々の声や音を自然と思い出せた。
 奇跡が起こったのだ。もうこの世にいない家族にもう一度会えたのだ。

 かなでは目を開いた。目の前には律とイオがならんですわっていた。お父さんとお母さんの手のひらにはクリームの首輪がおさまっている。お父さんは言葉を失って、お母さんは目になみだをうかべていた。そんなかなでたちに律は尋ねた。
「ご確認できましたでしょうか」
「は、はい……。ほんとうに……われわれが話した思い出がそのまま……」
 お父さんは何度も律と首輪を見ていた。お母さんは指でなみだをふいた。
「そう、あの日雪がふってて部屋の中に入ってきて、しばらくヒーターの前でねちゃってたのよね」
「そうそう。それでそのあとおなかがへってみゃあみゃあ鳴くからあせったなあ」
 なつかしむお父さんとお母さんにかなでも混ざった。
「クリームって子猫のころ、とってもかわいかったんだね」
 かなでの言葉を聞いた律が「一つ確認したいのですが」と会話に割って入ってきた。
「猫ちゃんと出会ったのは、お二方がお若いころで、まだむすめさんは生まれていなかったのですよね?」
 尋ねられたお父さんとお母さんはうなずいた。律はかなでをじっと見つめていた。かなでは小さく首をかしげた。
「あの、なにかおかしいことがあったんですか?」
 お母さんが不安そうに聞いた。すると律は首を横にふった。
「いいえ、そんなことはありません。ご安心ください」
 律はにこりとほほえんだ。
(なんであんなこと聞いたんだろう?)
 かなでは律の態度に疑問をいだいた。けれど律はかなでのことを気にした風もなく、説明してくれた。
「その首輪があれば何度でも思い出すことができます。たとえ、あなたがた自身がその猫のことをわすれてしまったとしても。
 わたくしはわすれるというのは、記憶がなくなっていくのではなく、引き出しにしまっている状態だと考えています。その引き出しを少しでも開けやすくすることが想鳴者の仕事ですから」
 律は言葉の最後でかなでを見た。
「ほんとうにありがとうございます」
 お父さんとお母さんはお礼を言った。そして律はメモをわたし、その銀行口座に代金をふりこんでほしいと説明していた。そんな話はかなでの耳は右から左へ通り抜け、律にくぎつけになっていた。
「音楽の女神さまみたい……」
 かなでのつぶやきはだれにも聞こえていなかった。
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