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三、弟子になりたいっ
弟子になりたいっ2
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家に帰ったかなではお父さんが帰ってくるまでずっとそわそわしていた。九時前になってお父さんが帰ってくると、かなでは早速お父さんに律に聞いた話をしようとしたが、お母さんに「お父さんがご飯を食べてからにしなさい」と言われてしまった。
かなでよりおそい夕食を食べ終わったお父さんはかなでを呼んだ。
「かなで、どうしたんだい?」
「あのね、今日律さんに聞いてきたの。想鳴者について」
お父さんにうながされ、かなでは話しはじめた。お父さんはうんうんとうなずきながら聞いてくれた。
「それでかなではどう思った?」
かなでは素直に思ったことを口にした。
「想鳴者が信じられていないって聞いてびっくりした。わたしは想鳴者に会ったことある子が幼稚園にいたから、いるんだって思ってたけど。それにひどいことを言われたりするだなんて思いもしなかった」
「そうなんだね。
かなで、今も想鳴者になりたいと思うかい?」
「それは変わらない」
かなでは間を空けずに答えた。
「どうしてだい? やりがいはあるみたいだけれど、苦しいかもしれない仕事なんだよ?」
「だってわたしは律さんに、想鳴者がしてくれたことに救われたから。わたしも音楽でだれかを幸せにしたいから。それは変わらない」
お父さんは「そうか」とため息をついた。
「お父さんなりに考えてみたんだ。もしも自分が特殊な仕事をしたいと思ったときのことを。やっぱり目指すことをゆるしてほしいと思うし、それをむだなことだって言われるのはつらいなあって。やりたいと思っているのにやらせてもらえない悲しさを、お父さんは十分知っているから」
そんな風に話すお父さんは少し悲しそうだった。
「なにかをやってみたいって思うことはいいことだから。お父さんはその気持ちをおさえられて育った。もっとやってみたいこともあった。今からでもできることもあるけど、もうできないこともある。お父さんはかなでにそんな思いをしてほしくないって、心の底から思ったんだ。だからたのみに行っていいよ」
かなではいっしゅんお父さんの言葉が理解できなかった。しかし意味がわかるとじわじわと喜びがわき上がってきた。
「ほんとうっ? ほんとうにほんとう?」
かなでは思わず勢いよく立ち上がった。さっきまでどきどきしていた心臓が、今度は高鳴りはじめた。
「ただし律さんが弟子にするって言わなかったら、あきらめるんだよ」
「うん、『弟子になること』はあきらめるね。そのときは想鳴者になるための別の道を探してみる」
お父さんとお母さんはきょとんとして顔を見合わせると、あきらめたようなそれでもうれしそうな笑顔をうかべた。
次の日、放課後にさっそくひとりで修想館へむかい、インターフォンをおした。すると律本人が出てきた。
「あら、あなたはこのあいだの……。まだ知りたいことがありますか?」
「こんにちは。あの律さん、弟子にしてくださいっ!」
かなでは勢いよく頭を下げた。顔を上げると律ははっきりと言った。
「悪いのですが、弟子はとっていないんです」
「おねがいします! わたし、想鳴者になりたいんですっ」
「想鳴者になるのはかんたんではありません」
「いっぱいがんばりますっ」
「どうか、お引きとりください」
「おねがいしますっ」
かなでと律のあいだに重い空気が流れた。かなでは律から目をそらさなかった。律もかなでを見つめた。五分ほど経ったころ、かなででも律でもない声が聞こえた。
「いいじゃないか。話だけでも聞いてあげなよ」
声の主はイオだった。げんかんの内側でドアを開けて立っていた。
「イオ、わたしは弟子をとる気は……」
「今予約も入っていないし、手が空いているじゃない。素質がなければ帰ってもらえばいい」
律とかなでの視線がからみ合う。律は歩を進め、ふりむかずにぽつりと言った。
「どうぞ、お入りください」
かなでは修想館の中に入った。門が前にきたときより重く感じた。
応接間に通され、かなでと律はテーブルをはさんでむかい合う形ですわった。先に口を開いたのは律だった。
「……想鳴者は変わった仕事です。さぎ師あつかいされることも多くありますし、一人前になるのにとても時間がかかります。どれくらいの時間が必要になるかは人によってちがうので十年、いやそれ以上かかることもよくあります。だれからもわかってもらえない……そのときのさみしさ、くやしさを受け入れることはできますか」
(……わたしはひとりじゃない。だから)
かなではゆっくり目を開いた。そして律の問いに答えた。
「きっとそのときは悲しかったり、泣いてしまうこともあると思います。でもわたしはひとりじゃありません。お父さんやお母さん、いつでも思い出の中の会えるクリームがいます。それに時間はかかるかもしれないけれど、そんな言葉に負けない人間になってみせます」
律とイオが目を丸くした。イオはにんまりしながら律を横目で見ていた。かなでと律の視線がぶつかる。かなでは目をそらさなかった。一分くらい経っただろうか。先に口を開いたのは律だった。
「あなた、なにか楽器は演奏できますか?」
「え……は、はい。ピアノとオカリナを習ってます」
「ピアノはここにあるからいいでしょう。オカリナは持ってきてください。あなたがどれくらい演奏できるか、音楽をどう思っているのか、それを見てから判断します」
かなではいっしゅん言われた意味がわからなかった。しかし理解するとぱあっと表情を明るくした。そして「すぐにとってきます!」と急いでオカリナをとりに帰った。
かなでよりおそい夕食を食べ終わったお父さんはかなでを呼んだ。
「かなで、どうしたんだい?」
「あのね、今日律さんに聞いてきたの。想鳴者について」
お父さんにうながされ、かなでは話しはじめた。お父さんはうんうんとうなずきながら聞いてくれた。
「それでかなではどう思った?」
かなでは素直に思ったことを口にした。
「想鳴者が信じられていないって聞いてびっくりした。わたしは想鳴者に会ったことある子が幼稚園にいたから、いるんだって思ってたけど。それにひどいことを言われたりするだなんて思いもしなかった」
「そうなんだね。
かなで、今も想鳴者になりたいと思うかい?」
「それは変わらない」
かなでは間を空けずに答えた。
「どうしてだい? やりがいはあるみたいだけれど、苦しいかもしれない仕事なんだよ?」
「だってわたしは律さんに、想鳴者がしてくれたことに救われたから。わたしも音楽でだれかを幸せにしたいから。それは変わらない」
お父さんは「そうか」とため息をついた。
「お父さんなりに考えてみたんだ。もしも自分が特殊な仕事をしたいと思ったときのことを。やっぱり目指すことをゆるしてほしいと思うし、それをむだなことだって言われるのはつらいなあって。やりたいと思っているのにやらせてもらえない悲しさを、お父さんは十分知っているから」
そんな風に話すお父さんは少し悲しそうだった。
「なにかをやってみたいって思うことはいいことだから。お父さんはその気持ちをおさえられて育った。もっとやってみたいこともあった。今からでもできることもあるけど、もうできないこともある。お父さんはかなでにそんな思いをしてほしくないって、心の底から思ったんだ。だからたのみに行っていいよ」
かなではいっしゅんお父さんの言葉が理解できなかった。しかし意味がわかるとじわじわと喜びがわき上がってきた。
「ほんとうっ? ほんとうにほんとう?」
かなでは思わず勢いよく立ち上がった。さっきまでどきどきしていた心臓が、今度は高鳴りはじめた。
「ただし律さんが弟子にするって言わなかったら、あきらめるんだよ」
「うん、『弟子になること』はあきらめるね。そのときは想鳴者になるための別の道を探してみる」
お父さんとお母さんはきょとんとして顔を見合わせると、あきらめたようなそれでもうれしそうな笑顔をうかべた。
次の日、放課後にさっそくひとりで修想館へむかい、インターフォンをおした。すると律本人が出てきた。
「あら、あなたはこのあいだの……。まだ知りたいことがありますか?」
「こんにちは。あの律さん、弟子にしてくださいっ!」
かなでは勢いよく頭を下げた。顔を上げると律ははっきりと言った。
「悪いのですが、弟子はとっていないんです」
「おねがいします! わたし、想鳴者になりたいんですっ」
「想鳴者になるのはかんたんではありません」
「いっぱいがんばりますっ」
「どうか、お引きとりください」
「おねがいしますっ」
かなでと律のあいだに重い空気が流れた。かなでは律から目をそらさなかった。律もかなでを見つめた。五分ほど経ったころ、かなででも律でもない声が聞こえた。
「いいじゃないか。話だけでも聞いてあげなよ」
声の主はイオだった。げんかんの内側でドアを開けて立っていた。
「イオ、わたしは弟子をとる気は……」
「今予約も入っていないし、手が空いているじゃない。素質がなければ帰ってもらえばいい」
律とかなでの視線がからみ合う。律は歩を進め、ふりむかずにぽつりと言った。
「どうぞ、お入りください」
かなでは修想館の中に入った。門が前にきたときより重く感じた。
応接間に通され、かなでと律はテーブルをはさんでむかい合う形ですわった。先に口を開いたのは律だった。
「……想鳴者は変わった仕事です。さぎ師あつかいされることも多くありますし、一人前になるのにとても時間がかかります。どれくらいの時間が必要になるかは人によってちがうので十年、いやそれ以上かかることもよくあります。だれからもわかってもらえない……そのときのさみしさ、くやしさを受け入れることはできますか」
(……わたしはひとりじゃない。だから)
かなではゆっくり目を開いた。そして律の問いに答えた。
「きっとそのときは悲しかったり、泣いてしまうこともあると思います。でもわたしはひとりじゃありません。お父さんやお母さん、いつでも思い出の中の会えるクリームがいます。それに時間はかかるかもしれないけれど、そんな言葉に負けない人間になってみせます」
律とイオが目を丸くした。イオはにんまりしながら律を横目で見ていた。かなでと律の視線がぶつかる。かなでは目をそらさなかった。一分くらい経っただろうか。先に口を開いたのは律だった。
「あなた、なにか楽器は演奏できますか?」
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「ピアノはここにあるからいいでしょう。オカリナは持ってきてください。あなたがどれくらい演奏できるか、音楽をどう思っているのか、それを見てから判断します」
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