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六、お泊り修業開始
お泊り修業開始1
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その日のバイオリンのレッスンはいろんなところを指導された。想鳴者としての勉強までのあいだ、かなでは楽ふに注意されたところを書きこんでいた。ページがえんぴつで黒くなっていく。
「かなで、ちょっといいかしら」
書きこみを終えたかなでは律に声をかけられた。かなでは返事をして楽ふなどを置いた。
「この夏休みを利用して本格的に想鳴者としての修業をしようと思うの。ここに夏休みのあいだ泊まってもらって、実際にお客さまとのやりとりも見てもらうし体験もしてもらう。想鳴者がどんなことをするのか、一番長い休みの中で少しでも知ってもらいたいのよ」
予想外の話にかなでは、驚きを隠せなかった。
「バイオリンのうでも上がってきたし、想鳴者がどういうものか頭ではわかってきている。中学生になるときっとさらにいそがしくなるでしょうしね。もちろんご両親がゆるしてくだされば……」
「やります! お父さんとお母さん説得しますっ」
かなでは律が言い終わらないうちに返事をした。そんなかなでを見てイオと律はくすりと笑った。
こうしてかなでの夏休みの修業が決まった。
終業式を終え、準備万端で修想館にやってきたかなでは深呼吸し、両のほほをたたく。
「よしっ!」
チャイムを鳴らす。しばらくすると家のドアが開いた。中から出てきたのはイオだった。
「あ、カナデ。きたんだね。入りなよ」
「あれ? 律さんは?」
イオは上を指さして答えた。
「きみ用の部屋をそうじしているところ。きのうまでお客さまが続いてきたから、なかなかできなかったんだ」
「そうなんだ。じゃあわたしもすぐ行く。どこなの?」
かなでは目の前の大きな青銅の門をおし開けた。いつもは重い門が今日は少し軽く感じた。
「それがもうしわけないんだけど、屋根裏部屋なんだ。エアコンついてるから暑さでたおれるってことはないと思うけど……」
「屋根裏部屋? すっごい楽しみっ」
かなではぱっと表情を明るくした。
かなではイオについて行った。
「そういえば二階に上がるの初めてかも」
「あれ、そうだっけ? じゃああとでリツといっしょに案内してあげるよ」
かなでは階段を上がりながら、チョコレートのようにつややかで立派な手すりをなでた。古いものにもかかわらず、すべすべしていた。階段を上がると一番おくにもう一つ階段があった。そのつくりは今上がってきたものよりずっとかんたんなもので、右側に細い手すりがついている。屋根裏部屋への入り口が開いており、ガタガタという音とともにほこりが舞った。
「リツー。カナデがきたよー」
物音がやみ、屋根裏部屋から律が出てきた。今日はジーンズのようだ。
「待っていたわよ。いったん荷物はそのへんに置いて」
「はいっ」
かなでは荷物をすみに置き、しんちょうに屋根裏部屋へ上がった。そしてベッドのマットレスを干して、床の掃除をする。あっという間に夕方になった。
「なんとか過ごせるようにはなったわね」
律は屋根裏部屋全体を見回して言った。あとはベッドのマットレスを入れてシーツを敷くだけだ。
「もう終わったの?」
ゆかにあるドアからイオがひょっこり顔を出した。続いてイオの後ろからルゥトが顔を出した。
「やあ、カナデ。ひさしぶりだね」
「あ、ルゥトさん」
「ちょっと、なんでルゥトは『さん』をつけるんだよー。言っとくけどボクのほうがお兄さんなんだよー」
イオはほほをふくらませた。その姿はとてもルゥトより年上には見えなかった。
「そうなんですか?」
「ああ。ワタシは二百年とちょっとだから。でもまあ、それとは関係なくワタシともイオのように話してくれるとうれしいな」
ルゥトはパチンッとアイドルのようにウィンクをした。
「それじゃあそうするね。それにしてもイオ、どこ行ってたの?」
「楽器部屋だよ」
「楽器部屋?」
「いろんな楽器が置かれている部屋。魂がある楽器もそうでないものもあるよ」
「へえ」
かなでの頭の中に、ほこり一つなく楽器がケースにきっちり収められた部屋がなんとなくうかんだ。
「ねえ、リツ。今からこの家を案内をしたら?」
イオがそんな風に提案するとルゥトも賛成した。
「そうね。でもその前に、ちょっと休んで水分をとらなくちゃね。ほら、通るから下りてちょうだい」
律がそう言うとイオとルゥトは細い階段を下りた。
四人そろってリビングに行って一休みした。麦茶が体の中の熱を冷ました。かなでは、楽器の近くに火があったりしない限り暑さを感じない、とそのとき話したイオとルゥトがうらやましかった。
四人は二階へ上がった。かなでは階段を上がってすぐ右手にある部屋を指さした。
「ここは何の部屋なんですか?」
「わたしの部屋よ」
律だけでなくイオとルゥトはそれぞれの部屋について丁寧に説明してくれた。かなでの屋根裏部屋の階段の右側にあるのは、ドライフルーツにこんぶや乾燥ひじき、自家製の梅酒などをしまっている食物庫。律の部屋のむかいは客室の一つらしい。律が客室のドアを開けた。
「わあ……!」
まずかなでの目にとびこんできたのは大きなガラステーブルと、四つの一人がけソファーだった。テーブルのふちと足の、黒に近い茶色の木にはつたやぶどうのもようが彫刻されていた。左には一人でねるには広いふかふかのベッドが、そのおくにはだんろがあった。右側にはダークブラウンのしょさい机があった。かなでが両手を広げてもまだしょさい机のほうが大きそうだ。ガラステーブルのさらにおくにはどっしりとした本だなが横に二つならんでいた。まるでこの部屋だけ外国からひっこしてきたようだ。
「すごいすごいっ!」
かなでは部屋の中央に立って、部屋全体を見回した。
「いい部屋でしょう?」
「はいっ」
かなではほほを上気させて力強くうなずいた。もう一度ぐるりと室内を見回してほう、とため息をついた。
「次の部屋に行きましょうか」
しばらく客室に見とれているかなでは律に声をかけられてようやく現実に帰ってきた。
二階のトイレのおくが楽器部屋だ。実は屋根裏部屋はもう一つあり、そこの入口がこの部屋にあるそうだ。
「ここにはいろんな楽器があるわ。魂を持つもの、まだ魂が宿っていないもの。なじみのある楽器に、見たことがない楽器」
「ワタシの体であるフルートもここにあるんだ」
ルゥトにそう言われ、かなではますます期待でむねがふくらんだ。
「かなで、ちょっといいかしら」
書きこみを終えたかなでは律に声をかけられた。かなでは返事をして楽ふなどを置いた。
「この夏休みを利用して本格的に想鳴者としての修業をしようと思うの。ここに夏休みのあいだ泊まってもらって、実際にお客さまとのやりとりも見てもらうし体験もしてもらう。想鳴者がどんなことをするのか、一番長い休みの中で少しでも知ってもらいたいのよ」
予想外の話にかなでは、驚きを隠せなかった。
「バイオリンのうでも上がってきたし、想鳴者がどういうものか頭ではわかってきている。中学生になるときっとさらにいそがしくなるでしょうしね。もちろんご両親がゆるしてくだされば……」
「やります! お父さんとお母さん説得しますっ」
かなでは律が言い終わらないうちに返事をした。そんなかなでを見てイオと律はくすりと笑った。
こうしてかなでの夏休みの修業が決まった。
終業式を終え、準備万端で修想館にやってきたかなでは深呼吸し、両のほほをたたく。
「よしっ!」
チャイムを鳴らす。しばらくすると家のドアが開いた。中から出てきたのはイオだった。
「あ、カナデ。きたんだね。入りなよ」
「あれ? 律さんは?」
イオは上を指さして答えた。
「きみ用の部屋をそうじしているところ。きのうまでお客さまが続いてきたから、なかなかできなかったんだ」
「そうなんだ。じゃあわたしもすぐ行く。どこなの?」
かなでは目の前の大きな青銅の門をおし開けた。いつもは重い門が今日は少し軽く感じた。
「それがもうしわけないんだけど、屋根裏部屋なんだ。エアコンついてるから暑さでたおれるってことはないと思うけど……」
「屋根裏部屋? すっごい楽しみっ」
かなではぱっと表情を明るくした。
かなではイオについて行った。
「そういえば二階に上がるの初めてかも」
「あれ、そうだっけ? じゃああとでリツといっしょに案内してあげるよ」
かなでは階段を上がりながら、チョコレートのようにつややかで立派な手すりをなでた。古いものにもかかわらず、すべすべしていた。階段を上がると一番おくにもう一つ階段があった。そのつくりは今上がってきたものよりずっとかんたんなもので、右側に細い手すりがついている。屋根裏部屋への入り口が開いており、ガタガタという音とともにほこりが舞った。
「リツー。カナデがきたよー」
物音がやみ、屋根裏部屋から律が出てきた。今日はジーンズのようだ。
「待っていたわよ。いったん荷物はそのへんに置いて」
「はいっ」
かなでは荷物をすみに置き、しんちょうに屋根裏部屋へ上がった。そしてベッドのマットレスを干して、床の掃除をする。あっという間に夕方になった。
「なんとか過ごせるようにはなったわね」
律は屋根裏部屋全体を見回して言った。あとはベッドのマットレスを入れてシーツを敷くだけだ。
「もう終わったの?」
ゆかにあるドアからイオがひょっこり顔を出した。続いてイオの後ろからルゥトが顔を出した。
「やあ、カナデ。ひさしぶりだね」
「あ、ルゥトさん」
「ちょっと、なんでルゥトは『さん』をつけるんだよー。言っとくけどボクのほうがお兄さんなんだよー」
イオはほほをふくらませた。その姿はとてもルゥトより年上には見えなかった。
「そうなんですか?」
「ああ。ワタシは二百年とちょっとだから。でもまあ、それとは関係なくワタシともイオのように話してくれるとうれしいな」
ルゥトはパチンッとアイドルのようにウィンクをした。
「それじゃあそうするね。それにしてもイオ、どこ行ってたの?」
「楽器部屋だよ」
「楽器部屋?」
「いろんな楽器が置かれている部屋。魂がある楽器もそうでないものもあるよ」
「へえ」
かなでの頭の中に、ほこり一つなく楽器がケースにきっちり収められた部屋がなんとなくうかんだ。
「ねえ、リツ。今からこの家を案内をしたら?」
イオがそんな風に提案するとルゥトも賛成した。
「そうね。でもその前に、ちょっと休んで水分をとらなくちゃね。ほら、通るから下りてちょうだい」
律がそう言うとイオとルゥトは細い階段を下りた。
四人そろってリビングに行って一休みした。麦茶が体の中の熱を冷ました。かなでは、楽器の近くに火があったりしない限り暑さを感じない、とそのとき話したイオとルゥトがうらやましかった。
四人は二階へ上がった。かなでは階段を上がってすぐ右手にある部屋を指さした。
「ここは何の部屋なんですか?」
「わたしの部屋よ」
律だけでなくイオとルゥトはそれぞれの部屋について丁寧に説明してくれた。かなでの屋根裏部屋の階段の右側にあるのは、ドライフルーツにこんぶや乾燥ひじき、自家製の梅酒などをしまっている食物庫。律の部屋のむかいは客室の一つらしい。律が客室のドアを開けた。
「わあ……!」
まずかなでの目にとびこんできたのは大きなガラステーブルと、四つの一人がけソファーだった。テーブルのふちと足の、黒に近い茶色の木にはつたやぶどうのもようが彫刻されていた。左には一人でねるには広いふかふかのベッドが、そのおくにはだんろがあった。右側にはダークブラウンのしょさい机があった。かなでが両手を広げてもまだしょさい机のほうが大きそうだ。ガラステーブルのさらにおくにはどっしりとした本だなが横に二つならんでいた。まるでこの部屋だけ外国からひっこしてきたようだ。
「すごいすごいっ!」
かなでは部屋の中央に立って、部屋全体を見回した。
「いい部屋でしょう?」
「はいっ」
かなではほほを上気させて力強くうなずいた。もう一度ぐるりと室内を見回してほう、とため息をついた。
「次の部屋に行きましょうか」
しばらく客室に見とれているかなでは律に声をかけられてようやく現実に帰ってきた。
二階のトイレのおくが楽器部屋だ。実は屋根裏部屋はもう一つあり、そこの入口がこの部屋にあるそうだ。
「ここにはいろんな楽器があるわ。魂を持つもの、まだ魂が宿っていないもの。なじみのある楽器に、見たことがない楽器」
「ワタシの体であるフルートもここにあるんだ」
ルゥトにそう言われ、かなではますます期待でむねがふくらんだ。
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