36 / 50
はるがすみ
第三十六話 二巻目 すれちがひ(2)
しおりを挟む
黒に包まれた宮中は、黄泉の国へ通じていそうな雰囲気を漂わせている。油断したら暗がりに呑まれ、二度と戻って来られないような……。歩いている者を不安にさせるような場所へと変貌していた。
暗闇の中をひとり歩く者がいる。
手燭を手に、ゆっくりと慎重に歩いている様子から辺りを警戒しているようだ。
やがて、透渡殿の辺りで何かを見つけたのか。人影は小走りになる。やがてその人物は床に手燭と巻物を置くと、落ちていた物を拾いあげた。
「これが……物語の続き。本当に目の前に現れた……!」
落ちていたものに夢中になっていたせいで、背後から近づいて来る者の気配に気が付くのに遅れてしまう。
「誰っ……?」
その人物が振り返った先にいたのは……霞だった。
「やはり来ましたね……茉莉様」
「霞様……」
夜、水仙の局の周辺を歩いていた人物。それは茉莉だった。どうやら透渡殿の正面の部屋の影に潜んでいたらしい。少し奥の方に霞が持ってきた手燭の明かりが見える。敢えて明りを手に持たず、茉莉の側に置いてあった明りを頼りに近づいて来たらしい。
両手には茉莉が持ってきた『ひめつばき物語』の第二巻が握られている。
「騙したんですか……」
「申し訳ございません。ですが、これも茉莉様をお守りするため。致し方なくでございます……」
霞が茉莉に話した噂話は嘘だった。
(茉莉様が本当にやってくるかどうかは賭けだったのだけれどね……。物語に魅入られた者ならば必ず来ると思った。続きが読みたくて、どんな些細な噂でも飛びついて来るはず)
霞は頭の中に勝利を決定づける駒を置く。
(そして……自分のことを認めてくれた人を人は深く信頼するもの。私のことを信頼した茉莉様は必ずここへ来ると分かってた)
「どうせ水仙様のお付きの女官の誰かが盗んだと疑っていたのでしょう。その中で引っ掛けやすいのが私だった……そういうことではないですか?」
感情的になり始めた茉莉の怒りを収めるため、霞は冷静に答える。
「いいえ。茉莉様が原本を持っていると分かったのは他の者からの情報です。それにお会いした瞬間に原本をもっていることを確信しました」
「会った瞬間に?」
「はい。茉莉様は原本の最後に和歌が書かれていることをご存知でした。私は血文字としか言っていないのに」
霞の指摘に茉莉が口元を押さえる。些細な言動ですら見逃さない、霞の観察力に恐れているようだ。
「それと、私は茉莉様を捕まえに来たのではありません。物語の原本が危険なものなので回収しに来ただけです。茉莉様の身を案じていたのは真にございます」
「かえ……して」
茉莉の消え入りそうなか細い声に霞は思わず身を引いた。
「私なんて……どうなっても構わない!宮中で私の味方など誰もいないのだから……」
透渡殿に冷たい風が通り抜ける。
「どれだけ心を尽くしてお勤めしても水仙様には暴言を吐かれるし、周りの女官達だって誰一人助けてくれなかった!中には私が反抗してこないことを良いことに更にいじめてくる人もいた……。水仙様のお世話だって殆ど押し付けよ……。どうせ霞様も私のことを哀れな女官だと思っていらっしゃるのでしょう」
茉莉の憎しみに満ちた目が霞を捉えた。霞は黙って茉莉の言葉を聞く。こういう時は思い存分相手に言葉を吐かせてしまった方がいいのを経験上知っていた。
「だから腹いせに水仙様が夢中になっている『ひめつばき物語』を隠れて読んでいたの。……素晴らしい物語だったわ。まるで惨めな私のことを分かってくれてるみたいで。私の心を癒してくれたのはあの物語だけだった……」
(確か物語の主人公、つばき姫は身分の低い姫として他の女官から酷い扱いを受けていたわね……。茉莉様の心が同調してしまうのも無理はないわね)
うっとりとした茉莉の様子を見て、霞はすぐに茉莉が物語に取り込まれていることを悟った。
「水仙様が倒れられた後、二巻目しか見当たらなかったけれど盗んでやった。少しだけど気分が良くなったわ……。皆が夢中になっているもの、水仙様のお気に入りのものを私が持っているなんて夢みたい」
茉莉は顔を俯かせると、低い声でぼそぼそと話し始めた。
「だから……返して」
「……!」
霞は茉莉から奪ったひめつばき物語の二巻を抱きしめた。ゆらゆらと近づいて来る茉莉は明らかに先ほどとは様子が違う。
(これは……!化け物に操られてるの?白樺様の時と少し違うような……)
そう思った時には茉莉が霞の腕を掴んでいた。
「痛っ……!すごい力」
霞は掴まれた右腕を外側に回して振りほどくも、今度は体ごと突進してきた茉莉を避けきれず一緒に床に倒れ込んでしまう。
すかさず茉莉の両手が霞の首に掛かる。
「ま……つり様」
「水仙様、何故私に冷たく当たるのですか?私は……私はしっかりやってきましたよね?全て貴方様のために働いて来たのに……」
霞は首を絞められ、苦しみながらも微かな違和感に気が付く。
(眠って……いる?)
茉莉が目を閉じていたのだ。普通の人間が目をつぶったまま人を襲うなんて芸当ができるはずがない。
(まるで……悪夢を見ているような。それに私のことを水仙様だと勘違いしているみたい)
「だ……れか……。誰かっ!……っ」
霞は何とかして茉莉の腕を引き放そうと茉莉の顔を押す。これだけ騒いでいるのに一向に誰かが来る気配はない。
暗闇の中の宮中は霞達以外誰もいない。本当に別世界になってしまったようだ。
(こんなところで……。こんなところで終わるわけにはいかないのよ)
薄れかかってきた意識の中。一族を失った火事が瞳の中に浮かぶ。それなのに口をついて出た言葉は予想外のものだった。
「か……楓様……」
(どうして……楓様なの……)
そのすぐ後のことだった。
「おんあぼきゃべい……ろしゃのう……悪霊退散ー!」
子供の声がしたかと思うと、茉莉の頭に何か当たったのが見える。何かはそのまま茉莉の霞達の頭上を通過し、着地した。
霞は自分に倒れ込んできた茉莉に潰されながらも、ゆっくり上体を起こす。
「げほっげほっ……。な……何?何が起こったの?」
首元を押さえ、振り返ると……視線の先に小さな人影が立っているの気が付いた。
「どんなもんだい!」
「貴方は……。昼間に会った陰陽師の所の子」
霞を間一髪のところで助けたのは昼間、霞とぶつかったあの少年だった。両手を腰に当てて霞を見下ろしている。
「早く出るよ!」
はしゃいだ様子で少年は霞に小さな手を伸ばした。
暗闇の中をひとり歩く者がいる。
手燭を手に、ゆっくりと慎重に歩いている様子から辺りを警戒しているようだ。
やがて、透渡殿の辺りで何かを見つけたのか。人影は小走りになる。やがてその人物は床に手燭と巻物を置くと、落ちていた物を拾いあげた。
「これが……物語の続き。本当に目の前に現れた……!」
落ちていたものに夢中になっていたせいで、背後から近づいて来る者の気配に気が付くのに遅れてしまう。
「誰っ……?」
その人物が振り返った先にいたのは……霞だった。
「やはり来ましたね……茉莉様」
「霞様……」
夜、水仙の局の周辺を歩いていた人物。それは茉莉だった。どうやら透渡殿の正面の部屋の影に潜んでいたらしい。少し奥の方に霞が持ってきた手燭の明かりが見える。敢えて明りを手に持たず、茉莉の側に置いてあった明りを頼りに近づいて来たらしい。
両手には茉莉が持ってきた『ひめつばき物語』の第二巻が握られている。
「騙したんですか……」
「申し訳ございません。ですが、これも茉莉様をお守りするため。致し方なくでございます……」
霞が茉莉に話した噂話は嘘だった。
(茉莉様が本当にやってくるかどうかは賭けだったのだけれどね……。物語に魅入られた者ならば必ず来ると思った。続きが読みたくて、どんな些細な噂でも飛びついて来るはず)
霞は頭の中に勝利を決定づける駒を置く。
(そして……自分のことを認めてくれた人を人は深く信頼するもの。私のことを信頼した茉莉様は必ずここへ来ると分かってた)
「どうせ水仙様のお付きの女官の誰かが盗んだと疑っていたのでしょう。その中で引っ掛けやすいのが私だった……そういうことではないですか?」
感情的になり始めた茉莉の怒りを収めるため、霞は冷静に答える。
「いいえ。茉莉様が原本を持っていると分かったのは他の者からの情報です。それにお会いした瞬間に原本をもっていることを確信しました」
「会った瞬間に?」
「はい。茉莉様は原本の最後に和歌が書かれていることをご存知でした。私は血文字としか言っていないのに」
霞の指摘に茉莉が口元を押さえる。些細な言動ですら見逃さない、霞の観察力に恐れているようだ。
「それと、私は茉莉様を捕まえに来たのではありません。物語の原本が危険なものなので回収しに来ただけです。茉莉様の身を案じていたのは真にございます」
「かえ……して」
茉莉の消え入りそうなか細い声に霞は思わず身を引いた。
「私なんて……どうなっても構わない!宮中で私の味方など誰もいないのだから……」
透渡殿に冷たい風が通り抜ける。
「どれだけ心を尽くしてお勤めしても水仙様には暴言を吐かれるし、周りの女官達だって誰一人助けてくれなかった!中には私が反抗してこないことを良いことに更にいじめてくる人もいた……。水仙様のお世話だって殆ど押し付けよ……。どうせ霞様も私のことを哀れな女官だと思っていらっしゃるのでしょう」
茉莉の憎しみに満ちた目が霞を捉えた。霞は黙って茉莉の言葉を聞く。こういう時は思い存分相手に言葉を吐かせてしまった方がいいのを経験上知っていた。
「だから腹いせに水仙様が夢中になっている『ひめつばき物語』を隠れて読んでいたの。……素晴らしい物語だったわ。まるで惨めな私のことを分かってくれてるみたいで。私の心を癒してくれたのはあの物語だけだった……」
(確か物語の主人公、つばき姫は身分の低い姫として他の女官から酷い扱いを受けていたわね……。茉莉様の心が同調してしまうのも無理はないわね)
うっとりとした茉莉の様子を見て、霞はすぐに茉莉が物語に取り込まれていることを悟った。
「水仙様が倒れられた後、二巻目しか見当たらなかったけれど盗んでやった。少しだけど気分が良くなったわ……。皆が夢中になっているもの、水仙様のお気に入りのものを私が持っているなんて夢みたい」
茉莉は顔を俯かせると、低い声でぼそぼそと話し始めた。
「だから……返して」
「……!」
霞は茉莉から奪ったひめつばき物語の二巻を抱きしめた。ゆらゆらと近づいて来る茉莉は明らかに先ほどとは様子が違う。
(これは……!化け物に操られてるの?白樺様の時と少し違うような……)
そう思った時には茉莉が霞の腕を掴んでいた。
「痛っ……!すごい力」
霞は掴まれた右腕を外側に回して振りほどくも、今度は体ごと突進してきた茉莉を避けきれず一緒に床に倒れ込んでしまう。
すかさず茉莉の両手が霞の首に掛かる。
「ま……つり様」
「水仙様、何故私に冷たく当たるのですか?私は……私はしっかりやってきましたよね?全て貴方様のために働いて来たのに……」
霞は首を絞められ、苦しみながらも微かな違和感に気が付く。
(眠って……いる?)
茉莉が目を閉じていたのだ。普通の人間が目をつぶったまま人を襲うなんて芸当ができるはずがない。
(まるで……悪夢を見ているような。それに私のことを水仙様だと勘違いしているみたい)
「だ……れか……。誰かっ!……っ」
霞は何とかして茉莉の腕を引き放そうと茉莉の顔を押す。これだけ騒いでいるのに一向に誰かが来る気配はない。
暗闇の中の宮中は霞達以外誰もいない。本当に別世界になってしまったようだ。
(こんなところで……。こんなところで終わるわけにはいかないのよ)
薄れかかってきた意識の中。一族を失った火事が瞳の中に浮かぶ。それなのに口をついて出た言葉は予想外のものだった。
「か……楓様……」
(どうして……楓様なの……)
そのすぐ後のことだった。
「おんあぼきゃべい……ろしゃのう……悪霊退散ー!」
子供の声がしたかと思うと、茉莉の頭に何か当たったのが見える。何かはそのまま茉莉の霞達の頭上を通過し、着地した。
霞は自分に倒れ込んできた茉莉に潰されながらも、ゆっくり上体を起こす。
「げほっげほっ……。な……何?何が起こったの?」
首元を押さえ、振り返ると……視線の先に小さな人影が立っているの気が付いた。
「どんなもんだい!」
「貴方は……。昼間に会った陰陽師の所の子」
霞を間一髪のところで助けたのは昼間、霞とぶつかったあの少年だった。両手を腰に当てて霞を見下ろしている。
「早く出るよ!」
はしゃいだ様子で少年は霞に小さな手を伸ばした。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる